五里霧中 - 3
語り:ミレイユ・カロ
ダリウスは、誰に向けるともなく話し始めた。
説明というより、自分自身の思考を整理しているようだった。
征服というのは、簡単な話じゃない。
街を奪うだけでは足りない。
平定し、人心を安定させなければ、すぐに反乱が起きる。
さっきも言った通り、フランカ帝国には、そんなことをしているだけの兵も、時間の余裕もない。
その上で――
元帥が自ら出陣してきたというのなら、短期間で、何かを成し遂げるつもりだと考えるほうが自然だ。
トマスが、腕を組んだまま確認する。
「つまり、ルキウスをアルビオンに寄越すのは……“過剰”だ、というわけだな?」
「普通に考えれば、な。」
ダリウスはそう答えたが、すぐに言葉を継いだ。
「だが、逆に言えば――
元帥にしか成しえない目的があるから、元帥が出てきた、とも考えられる。」
そこで、彼は黙り込んだ。
考えを巡らせているが、答えには届いていない様子だった。
「その……」
クラリスが、恐る恐る口を挟む。
「ルキウス元帥って、そんなにすごい人なの?」
ダリウスは、即座に答えた。
「戦略、戦術、戦闘。どれを取っても一級品だ。
負け知らずで、戦略目標の達成は迅速かつ完璧。
……まさに、魔物だ。」
その言い方に、誇張はなかった。
「そんなの、どうだっていいわ。」
セラが、苛立ちを隠さずに言い切った。
「私たちは、カンタベリオンに行って、真実を見る。
それだけよ。」
「……知らなきゃいけない真実が、山ほどあるな。」
ダリウスは、低く呟いた。
その空気を切るように、私は口を開いた。
「それで……カンタベリオンへは、どうやって行けばよいのでしょうか?」
トマスが、現実に引き戻すように答える。
「俺たちは明日、スシッチで羊毛を買い付けて、そこからアムステルへ戻る予定だ。
スシッチまでは船で一緒に行ける。
その先は……君たちで考えてくれ。」
「スシッチって、カンタベリオンの北で、湾を挟んだ都市よね。」
セラが、眉をひそめる。
「結構、遠いわよね。」
「俺たちはノルドハイム連邦の人間だ。」
トマスは、はっきりと言った。
「スシッチから南は、昔からフランカの影響力が強い。
ここから先、南へは行けない。」
「そこから、どうする?」
ダリウスが尋ねる。
「船で湾を縦断すれば早い。
だが、陸路で回り込むとなると……骨が折れるだろうな。」
ダリウスは、セラと私を、交互に見た。
――また、船。
つい昨日まで、船はもうこりごりだと思っていたのに。
そんな、うんざりした気持ちが、胃の奥からじわりと広がる。
「いっそ、全部陸路で……」
セラが言いかけて、ひと呼吸置いた。
「……そんな余裕、ないわよね。」
「スシッチから先をどうするかは、改めて考える。」
ダリウスは決断した。
「まずは、スシッチまで連れて行ってほしい。」
「二日よ。」
クラリスが、明るく補足する。
「途中の港で一泊するだけ。
ここまで来た航海より、ずっと楽よ。」
トマスが、うなずいた。
「じゃあ、明日の未明に、もう一度ここに来てくれ。
俺の船に乗せてやる。」
「ありがとう。」
セラは、素直に感謝を口にした。
「じゃあ……今日のうちに船代を払ってね」
クラリスが、にこやかに続ける。
「一人あたり――」
金額を聞いた瞬間、私は思った。
――さすが、商売人。
どんな情勢でも、帳尻は、きっちり合わせてくる。




