第二章 氷の王子の秘密
昼休みの中庭。
ミナは一人、木の下で魔法陣の練習をしていた。午前中の授業ではまた失敗。杖の先から黒い火花が散り、先生に「基礎からやり直し」と注意されたばかりだ。
「やっぱり、私、魔法向いてないのかな……」
ため息をつきながらノートをめくると、昨日リアムに見せた魔法陣の書き直しがぎっしりと並んでいた。
その時、近くから声がした。
「またここにいたのか」
振り返ると、銀色の髪に青い瞳――学園一の天才、リアム・アークライトが立っていた。
その視線は、まるで氷でできた彫像のように鋭く、近づくと体が少し震えるほど冷たい。
「……氷の王子さま?」
「呼び方はやめろ。俺はただの生徒だ」
ミナの心臓がドキリと跳ねる。昨日とは違う――冷たいだけじゃない、何か不思議な感情が混じっている気がした。
「その魔法陣……少し見せてみろ」
「え、あ、はい……!」
ミナは慌ててノートを差し出す。リアムは黙ってそれをのぞき込み、指先で線をなぞった。その瞬間、彼の指先が青白く光る。
「……この紋章、見覚えがある」
「紋章……?」
リアムの声に、ミナは戸惑う。
「古代語で“封印”を意味する。今の学園では使われていない魔法だ」
ミナは手が震える。
「え、でも……これは母から教わっただけで、遊びみたいなもの……」
リアムの目が一瞬だけ揺らいだ。
「――君の母親はセラ・リィエル……封印の魔女?」
その言葉に、ミナの体が硬直する。
封印の魔女――子供の頃、母が話してくれた伝説の魔女。
「……どうして、知ってるの?」
リアムは少し間を置いてから、低く囁いた。
「君の存在は、学園だけじゃなく、この王国の秘密に関わっている」
ミナは思わず目を見開く。
「……私が? どういうこと?」
「……説明するには危険すぎる。まずは君を守る」
その言葉と共に、リアムは空気を手で払うように動かした。小さな結界が二人を包み、誰も近づけないようになる。
ミナはその冷たくも優しい気配に、少し胸が高鳴った。
「……守ってくれるの?」
リアムはわずかにうなずき、視線を外す。
「……俺は、君に関わると決めた。逃げられない」
その言葉に、ミナの心臓はさらに速くなる。
彼の氷のような瞳に、自分だけが映っている――そんな錯覚を覚えた。
午後の授業も気にならない。
世界の秘密、母の過去、そしてリアム――
まだ何もわからないことだらけなのに、ミナの胸は期待と不安でいっぱいだった。
――こうして、落ちこぼれ少女と氷の王子の、静かで危険な関係が始まったのだった。
王子様って呼び方は
あだ名のようなものです
氷の王子




