第99話 宿で迎える朝
『すぅーっ、ぼんっ! すぅーっ、ぼんっ!』
「なんだようるせえな! 何の音だよ!?」
「あ、おはようございます玄司様。今のはこの部屋のアラームです。残り少なくなったマヨネーズの音を忠実に再現していますね」
「アラームだったのかよ! そこまでマヨネーズなの!? 無駄に設定しっかりしてんな!」
「では玄司様、早く準備をして出かけましょう。今日からは王様へのアポ取りを始めますよ」
「え、でもまだ朝食も食ってねえけど……」
「玄司様、言ったじゃないですか。ここの朝食は午前1時から午前4時までです」
「ああそれ本当にそうなんだ!? だからもう夜食なんだよそれは!」
ええ……。朝食ねえの……? いやあるんだろうけどさ、朝4時までじゃ食えるもんも食えねえよ。もうちょっと時間なんとかならなかったのかよ。追い詰められた受験生ぐらいしかその時間に飯食わねえよ。
「玄司様、準備はできましたか? さあ、王都に出ましょう」
「分かったようるせえな。出りゃいいんだろ出りゃ。しかし腹減ったな……」
「大丈夫ですよ玄司様。王都には屋台がたくさんあります。ホットドッグやポップコーン、チュロスにチキン、刺身なんかが売ってますよ」
「刺身!? そのラインナップに刺身!? 食べ歩けねえだろそんなもん!」
「大丈夫ですよ。ちゃんと醤油皿は別であります」
「じゃあダメだよ両手塞がるから! 何が大丈夫なんだよ!」
「玄司様は刺身だと何が好きですか? 私は馬です」
「普通そういう時は魚言うんだよ! なんで馬刺しなんだよ!」
屋台があるって言っても、朝からポップコーンだなんだってのはちょっと重いな……。ホットドッグはまあ朝っぽいっちゃ朝っぽいけど。パンとソーセージだし。ならホットドッグの屋台でも探しながら、王城の方に向かうか。
顔を洗いながらそんなことを考え、着替えてから高橋に声をかける。
「よし、準備できたぞ。行くぞ高橋」
「待ってください玄司様。今麻雀がいいところなんです」
「なんで麻雀やってんだよお前は! ソリティアとリバーシだけにしとけよ!」
「何言ってるんですか玄司様。やってませんよ。中継を見てるだけです」
「ああテレビの話だったの!? 将棋とかは見たことあるけど麻雀中継はなかなかねえな!?」
「負けた人から勝った人にお金を払っていくシステムなので、見てて楽しいんですよね」
「何ちゃんと賭け麻雀やってんだよ! そんなもん見んな! どこのテレビ局がそんなの放送してんだよ!」
「ボケルト国営テレビですよ」
「だから国営がそんなもん放送すんなよ! 倫理的にダメだろ!」
何なんだよこの国の国営テレビ……。恋愛リアリティショーとかも放送してたよな確か。そんなもんネット配信限定でやれよ。何国民全員に見せようとしてんだよ。
とりあえず無言でテレビを消し、俺は高橋の耳を引っ張って部屋の外に出た。
高橋は俺の手から鍵をもぎ取り、部屋に入って再びテレビをつける。
「いや何やってんのお前!? 今外に出る流れだっただろ!」
「そんなこと言われても困りますよ。今いいところだったんですから」
「いや知らねえって! お前まじ話が進まねえからちゃんとしてもらえる!?」
「ちゃんと私はボケとしての役割を果たしてるじゃないですか」
「それはそうなんだけどさ! ボケながら進まなきゃ意味ねえんだよ! お前何部屋に戻ってんだよ! 永遠に話進まねえだろ!」
「ですが玄司様、このまま王都に出るには尺が足りませんよ?」
「お前がダラダラしてるからだろ! 何話の半分以上使って麻雀中継見てんだよ!」
「何言ってるんですか玄司様。昨日の夜から見てましたよ」
「俺が寝た後から!? そんなもんずっと見てたのお前!?」
本当に何やってんだよ……。いや予定ではこの話の後半で王都に出るはずだったのに、高橋がダラダラしてるせいで全然まだ出られてねえじゃねえか。俺が予定とか言っちゃいけねえんだけどさ。でも俺もドアを半分開けて部屋の中にツッコミ入れてる状態だし。
なんでこんな中途半端な状態で止まってなきゃいけねえんだよ。もっとあっただろ進め方。
「お前ちょっともう行くぞ! いつまでも宿にいられねえだろ!」
「ちょっと待ってください。この麻雀中継の後に麻雀特番があるんですよ」
「知らねえよ! なんでお前そんなに麻雀見たいの!?」
「だって麻雀は心のドアノブですよ?」
「オアシスじゃなく!? なんだ心のドアノブって! いやオアシスでもおかしいけども!」
「麻雀によって、私の心の扉は開かれるのです」
「なんだそのギャンブル狂の扉は! ちょ、お前もういいだろ! 行くぞ!」
「そんな急がなくてもいいじゃないですか。急いだっていいことは何もありませんよ?」
「お前だろ急がせたの! 俺はもうちょっとゆっくり寝てたかったぞ!?」
「ならもうちょっと寝てたらいいじゃないですか。私はここでブラックジャック中継見てるので」
「麻雀って聞いてたけど!?」
俺はもう1度テレビを消し、高橋の耳を引っ張って今度こそ外に出た。なんでこんなに外に出るのに時間かかるんだよ……。




