第98話 オンセンのメッセージ
ドカッと椅子に座り、足を組んでスマホに集中する高橋。なんであいつはあんなにスマホに集中できるんだよ。現代っ子か。
いやまあ、あいつに邪魔されないならちょうどいいや。あの手紙みたいなの、もしかしてオンセンからじゃねえのか? だとしたら、今度こそちゃんとオンセンの言葉が読めるぞ。
よし、あの手紙を読んでみよう。
スマホに集中する高橋の横を通り、俺はテーブルの上にあった手紙を手に取る。裏を見てみると、やはり差し出し人はオンセンだ。
流石オンセン……。俺たちが泊まるって知って、手紙を用意してくれてたんだな。感慨深いものがあるぞ。
俺は手紙を開けて、中を読み始めた。
「えーとなになに……? 『この度はオンセンリゾート王都にご宿泊いただき、誠にありがとうございます。よろしければご宿泊の際のご感想などをお聞かせください』か……。うんアンケートじゃねえか! なんだよ期待させやがって!」
「どうしたんですか玄司様、1人でお騒ぎになられて。お腹のお虫のお居所でもお悪いんですか?」
「なんで急にそんな口調になったんだよ! 丁寧にしすぎてわけ分かんなくなってんじゃねえか! いやな、テーブルの上に手紙が置いてあったから、オンセンが俺たちのために書いてくれたのかと思ったんだよ」
「ああそういうことだったんですね。そんなわけないじゃないですか。私が電話したのがほんのついさっきですよ? オンセンが手紙を書いてこの部屋に置く時間なんて無いじゃないですか」
言われてみればそうだな……。またオンセンと言葉を交わせると思って先走ってたかもな。まあでも、そんなことを思えるだけ、俺はこのボケルト王国で思い出を作ってきたんだ。早く生き返りたい気持ちは大きいけど、ボケルト王国はボケルト王国でそれなりに楽しかったのかもな……。
よし、ちゃんとこの世界を救って、その上でちゃんと生き返ろう。俺の使命は、ただ俺自身が生き返ることだけじゃない。このボケルト王国に、笑いを取り戻すことなんだ。
「あ、そう言えば玄司様。さっきオンセンからメッセージが来てましたよ。読みます?」
「お前それを早く言えよ! なんか1人で盛り上がって恥ずかしいわ!」
「盛り上がると言えば、今私のリバーシも盛り上がってたんですよ。でも負けそうになったので通信を切断しました」
「最悪の対戦相手だなお前! いやもういいからリバーシは! オンセンのメッセージ見せろよ!」
「分かりましたよ。ほら、これ読んでみてください」
高橋に差し出されたスマホを受け取り、俺はオンセンからのメッセージに目を通す。
『救世主様、高橋、お久しぶりだゲートウェイ! オイラはフタコブの力を借りて、温泉事業を大きくすることに成功したんだゲートウェイ! これも2人が一緒に温泉を掘って成分を調整してくれたおかげだゲートウェイ!』
「存在しない記憶! 俺そんなことやってねえよ! 経営学一緒に学んだだけだわ!」
『2人と一緒にいた時のことが、2ヶ月前のことのように思い出されるゲートウェイ!』
「大体それぐらいだろ! あんまちゃんと数えてねえけど!」
『このオンセンリゾート王都は、最近オープンした最新の施設なんだゲートウェイ! とことん拘りが詰まってるから、楽しんでいって欲しいゲートウェイ!』
「うん拘りってマヨネーズだろ!? 何お前までマヨラーに引っ張られてんだよ!」
『それから、料金については心配しなくて大丈夫だゲートウェイ!』
「おお、流石オンセン。支払いまでやってくれてんのか」
『2人のアドバイザー料から天引きしておくゲートウェイ!』
「しっかりしてた! ちゃんと商売してんなこいつ!」
『それでは、オイラたち自慢のオンセンリゾートをお楽しみください! あ、ゲートウェイ!』
「お前が忘れてんじゃねえか! 唯一の個性だろお前の!」
なんかしっかり料金取られちゃったな……。まあいいや、アドバイザー料から天引きなら、実質俺たちに特に損は無い……はずだ。高橋がソリティアに課金しなければの話だけど。しそうだな。後で釘刺しとくか。
「どうでした玄司様、久しぶりのオンセンのメッセージは」
「うん……まあ色々ツッコミどころはあったけど、懐かしかったよ。ボケルト王国に来たばかりのことを思い出すな」
「そうですね……。玄司様がボケルト王国に来られてから、色んなことがありましたね。オトボケ村の門の裏口で何度もすっ転んで、木の枝に引っかかり、石に突き刺さり、鳥の軍団に襲われた挙句集団で移動中の牛に轢かれたり……」
「あったけど! 全部お前の記憶じゃねえか! しかもオトボケ村に裏口から侵入した時の! その後牛の群れに追いかけられてただろお前!」
「玄司様、ちゃんと牛串を買ったから追いかけられたという因果関係を忘れないでくださいね」
「そんなに大事じゃねえよその事実! なんでそんな第5話ぐらいの話今掘り返したんだよ!」
「それより玄司様、王都に来てから1度も休んでいませんよね? せっかく宿に入ったんですから、しっかり王都に出て使命を果たしに行きましょう」
「休ませてくれる流れじゃねえのかよ! 今出かけなきゃダメ!? ちょっと休ませてもらえる!?」
「仕方ありませんね。あと10分だけですよ」
「朝の中学生か! がっつり寝させろ!」
俺は倒れ込むようにマヨネーズベッドに寝転がり、そのまま目を閉じた。




