第97話 懐かしい声
ドアを開けると、中は全てがマヨネーズ容器の形をしている。大きなソファも、2つあるベッドも、テーブルと椅子も、テレビでさえマヨネーズ容器の形だ。更に奥の椅子にはどデカいマヨネーズ容器のぬいぐるみが座っている。
「予想以上にマヨネーズじゃねえか! なんだこのマヨネーズのコンセプトルームは!?」
「玄司様、よく見てください。水道はマヨネーズとタルタルソースを切り替えられますよ」
「知らねえよ! 水と温水出せよ! なんでマヨネーズかタルタルソースなんだよ! 顔洗えねえじゃねえか!」
「歯磨きは問題無くできますね」
「できねえよ!」
なんだこの部屋……。いや立派ではあるんだけども。立派の方向性が調味料すぎるんだよ。え、まじで水道からマヨネーズとタルタルソースしか出ねえの? 俺どうやって水飲めばいいんだよ。
「玄司様、この冷蔵庫はちゃんと普通の冷蔵庫ですよ。ただ縦に『マヨ』って彫ってあるだけで」
「墓石みたいになってんじゃねえか! 聞いたことねえよマヨネーズの墓場!」
「本当にそうですよね。マヨネーズの墓場なんて聞いたこと無いです。マヨネーズは不法投棄するものですもんね」
「お前もそれダメだからな!? 138キロで投げるのダメなの知ってる!?」
「玄司様、今は成長して142キロになっていますよ」
「速球派アンダースローじゃねえか! なんで球速上がってんだよ! 野球ゲームか!」
「野球ゲームならこんなピッチャー使えませんよ。変化球もスライダーとパワーカーブ、あとフォークぐらいしかありませんしね」
「めちゃくちゃあるじゃねえか! 十分使えそうだけど!?」
「そんな話はしてないんですよ。あれを見てください」
「なんだこの野郎! お前が乗ってきたんじゃねえか!」
高橋が指さした方を見ると、そこには電話機があった。茶色くカラーリングされており、受話器はまるでサルの尻尾のような形になっている。
「あの電話がどうかしたのか?」
「いいから玄司様、早くあの受話器を胸に当ててみてください」
「なんで胸なんだよ! 聴診器か! 相場耳だろ!」
「ああそうでした。ほら早く早く」
何なんだよ一体……。待てよ、このサルの尻尾みたいなデザイン……。まさか、オンセン本人に繋がるのか? いや絶対そうだろこの流れは。
オンセンと直接話せるのか。それは嬉しいな。久しくあいつの声も聞いてないし、こんなところで話せるとは思ってなかった。
「よし、じゃあ当てるぞ」
高橋とレイスイが見守る中、俺は受話器を耳に当てる。しばらく呼出音が流れ、電話が取られる音がした。
『お久しぶりだわよ救世主様! あたいのことを覚えているだわよ?』
「イドバタ3号じゃねえか! なんでお前なんだよ! オンセンが出る流れだろ!」
『いやあ、あたいたちイドバタ三人衆も、オンセンリゾートでパートさせてもらってるんだわよ。あたいはオンセンリゾート本社の電話番をやってるだわよ!』
「ああそうなのか……。いやそれにしてもだろ。オンセンが出ると思ってたぞ俺は」
『オンセンオーナーは忙しいから、わざわざ電話なんか出ないだわよ! それで、高橋からちゃんと聞いてるだわよ。救世主様が気になってること』
「ああ、それならまあいいわ。ちゃんと話してくれよ?」
『もちろんだわよ! しっかりと高橋のソリティアの通算戦績を語るだわよ!』
「無駄な情報すぎるわ! 誰も興味ねえだろそんなこと!」
『高橋は通算23675戦23674敗1分けだわよ』
「1回も勝ってねえのかよ! あと1回引き分けてるのは何!?」
『ちょっと待つだわよ……。データを解析したところ、この引き分けはコボケ町でプレイヤー名ナゾカケと対戦した時のものだわよ』
「ああじゃあ俺がナゾカケから逃げた時のやつか! 確かにのんびりソリティアやってたわこいつ!」
『じゃ、要件はそれだけだわよ? あたいは仕事に戻るだわよー』
「お前まじで何の電話だったんだよ! 何も聞けてねえじゃねえか!」
『何言ってるだわよ。ちゃんと高橋の戦績を教えただわよ?』
「だから無駄な情報すぎるんだって! なんでオンセンの会社でお前らは高橋のソリティアの戦績データ取ってるんだよ!」
『それじゃ救世主様、頑張ってだわよー』
ガチャンと電話は切られ、ツーツーという音だけが耳に響く。いや何だったんだよ今の電話……。意味無さすぎるだろ……。
せっかくオンセンとフタコブの成長物語が聞けると思ったのに、イドバタ3号と謎の会話しただけじゃねえか。いや懐かしくはあったけどさ。俺イドバタ3号にそこまで思い入れねえんだわ。
「どうでした玄司様? ちゃんと私の戦績聞けました?」
「聞けたわしっかりと! オンセンの話聞きたかったけどな!」
「あれ、僕ちゃんとオンセンオーナーの話はしたアイルよね? まさか聞いてなかったんだアイルか?」
「まままままさか! ちゃんと聞いてたぞ! なあ高橋?」
「何か言いました? 私今リバーシで忙しいんです」
「これすら聞いてねえのかよお前! 隙あらばオンラインゲームすんな!」
「聞いてたんだアイルね! それなら良かったアイル! では僕はフロントに戻るアイル! ごゆっくりアイルー!」
レイスイが部屋から出て行き、俺はその場にへたり込む。ああ怖かった……。俺がオンセンの話聞いてなかったのバレたら、何されてたか分かんねえぞ。すげえ威圧感だったもん。もうレイスイにはなるべく話しかけないようにしようかな……。
床で息を吐きながら改めて部屋を見渡すと、テーブルの上に何か手紙のようなものが置いてあるのを見つけた。あれは……?




