第96話 オンセンリゾート
「それでは早速このオンセンリゾートの説明をさせていただくアイル! あ、僕はここの社員でレイスイというアイル! よろしくアイル!」
「ハートフルそうな喋り方なのに名前は冷たいのな! いや別にいいんだけどさ」
「玄司様、名前なんてなんでもいいじゃないですか。私なんてこの鬼みたいなバケモノの見た目で高橋ですよ?」
「そうなんだけども! お前はもうそれで定着してるからいいんだよめんどくせえな! なんでお前がその主張するんだよ!」
「別に私だって高橋になりたくて高橋になったわけじゃありませんからね。もっとかっこいい、重厚な響きの名前が良かったです。深江とか」
「お前の中で深江って重厚なの!?」
俺と高橋の会話を聞いているのかいないのか、変わらない様子でレイスイは話を続ける。
「ここはオンセンオーナーとフタコブ平社員が作り上げた、新しい温泉宿だアイル!」
「ああフタコブは平社員なんだ!? あいつ頑張ってたんだから役職やれば良かったのに!」
「フタコブ平社員は主にPRを担当してるアイル。役職が付いちゃうとPR以外にやらなきゃいけないことが増えてしまって、PRが疎かになってしまうアイル。フタコブ平社員はマスコットキャラクターとしても活動してるアイルから、下手に役職を付けられないんだアイル。これはフタコブ平社員も自分で言ってたアイル!」
「ちゃんとした理由だった! 忙しくしてんだな、あいつ」
「玄司様、私も何かのマスコットキャラクターになりたいです。何がいいと思いますか?」
「知らねえよ! お前みたいなバケモノがマスコットキャラクターになれるのなんて、お化け屋敷かそれに準ずる何かしかねえだろ!」
「私個人的には結婚式場とかのマスコットキャラクターになってみたいです」
「何が理由で!? お前に結婚祝われる側の気持ちにもなれよ! 嫌だろ絶対!」
「仕方ありませんね、結婚相談所で我慢します」
「とりあえず結婚関連のマスコットは諦めたら!?」
また高橋のせいで全然話が進まねえじゃねえか。せっかくオンセンとフタコブがこの宿を作り上げた経緯を説明してくれてんのに……。
俺としては、一緒に経営学を学んだあいつらはもう戦友みたいな感覚だからな。高橋はあんまり覚えてねえみたいだけど。だからもっとあいつらについての話を聞きたいんだよ。
「なあレイスイ、もっとこの宿について教えてくれよ」
「もちろんだアイル! 全室禁煙だアイル!」
「そうじゃねえよ! それさっきやったし! なんでお前らは宿の話になると設備の説明始めんの!? いやそれも大事ではあるんだけど、先にオンセンたちの話を聞かせてくれよ!」
「玄司様、それはもういいのでさっさと部屋に入りましょうよ。私早くホットアイマスクをして休みたいです」
「しっかり睡眠すんな! お前別に目疲れてねえだろ!」
「何言ってるんですか玄司様。私は暇な時常にオンラインでソリティアをやっているので、相当眼精疲労が溜まっているんですよ」
「誇らしげに言うなそんなこと! 何の自慢にもならねえわ! いやちょっとお前、本当に1回黙れる!? 全然レイスイの話が聞けねえんだけど!?」
「そんなこと言われても困りますよ。玄司様が私に話を振ってくるんですから」
「振った覚えねえけど!?」
「……というわけだアイル。それではお部屋に案内するアイルね!」
「ああ話終わっちゃった! 高橋の相手なんかしてねえで聞いてれば良かった!」
しまったなあ、高橋と話してたらどんどん脱線するのは分かってるのに、なんでこいつの相手なんかしちゃったんだろうか……。まあ1ヶ月はここにいるわけだし、その間にレイスイからまた話聞けばいいか。
「ちなみに、僕は同じことを2度聞かれるのがこの世で1番嫌いなんだアイル。そこはよろしくだアイル」
「終わった! もうオンセンたちの話聞くの無理になった!」
「大丈夫ですよ玄司様。私がちゃんと捏造して聞かせてあげますから」
「捏造してってはっきり言ってんじゃねえか! 俺は事実を聞きてえんだよ!」
「でも玄司様、『事実は小説よりもいなり』って言うじゃないですか」
「言わねえし関係ねえだろ! 事実を油揚げで包むな!」
「まあ安心してください玄司様。ちゃんとオンセンたちの話は聞けると思いますよ」
「はあ? どういうことだよ?」
オンセンたちの話はもう聞けねえだろ。レイスイはもう二度とその話してくれねえからな。まあ他の従業員とかもいるだろうし、その辺からなら聞けるかもしれねえけど……。
いやでも、どう見てもこのレイスイがオンセンのDNAを受け継いでるんだよな。語尾的に。もしかしたら他にもシーサイドとか喋るやつがいるのかもしれねえけどさ。その場合高橋はシーサイド語尾は使えなくなるな。
……ならもうシーサイド語尾の従業員いて欲しいな。高橋のキャラがこれ以上濃くなるのは困る。
「さあ着いたアイル! お2人のお部屋は、このマヨネーズの間だアイル!」
「だと思ったよ! フタコブが関わってんだもんな!? あいつめっちゃマヨラーだったもんな!? この作品マヨラー出て来すぎなんだよ!」
「さあ入るだアイル! このサルのキーホルダーが付いた鍵を使うアイル!」
「おお、これはなんかかわいいな。よし、じゃあ開けるぞ」
「玄司様、どうせなら開ける時に『開け塩』って言いましょうよ」
「なんでゴマじゃねえんだよ! オープンソルトって合言葉聞いたことねえだろ! いいから開けるぞ!」
俺はレイスイから受け取った鍵を鍵穴に差し込み、ドアを開けた。




