第95話 オンセン事業の成功
よく見ると『オンセンリゾート』と書かれた看板には、隅に小さくサルとラクダのシルエットが描いてある。これはもう、そういうことだろう。
「おい高橋、まさかこのオンセンリゾートって……」
「そうですよ。全室禁煙です」
「聞いてねえよそんなこと! 誰がこのタイミングで設備の話するんだよ!」
「ああ、朝食は午前1時から午前4時までです」
「だからそんなこと聞いてるんじゃねえって! バカだなお前は! あと朝食の時間早すぎるだろ! もう夜食じゃねえか!」
「なんですか玄司様回りくどい。さっさと何が聞きたいのか言ってくださいよ」
「なんでお前察してねえの!? このオンセンリゾートって宿、あのオトボケ村にいたオンセンがオーナーじゃねえの!?」
「ああ、そうですよ。じゃあ行きましょう」
「なんでさらっとしてんだよ! 結構感動の場面だと思うけど!?」
「何が感動なんですか? ただ宿に泊まるだけじゃないですか」
「すげえなお前! オトボケ村での思い出とかオンセンの事業が王都にまで来てる成長とか何も感じねえんだ!」
さらっとしている高橋は置いといて、俺は改めてオンセンリゾートの外観を見る。かなり立派なその宿は、しっかりとしたレンガ造り。流石にコンクリートはこの世界には無いか。いやリニアとかあるんだしありそうだけどな。まあそれはいいや。
8階ほどはありそうな大きな宿で、ところどころにサルやラクダのシルエットが描かれており、遊び心のある外観だ。
オトボケ村にいたサルのオンセン、そして一緒に事業をやると言い出したラクダのフタコブ……。あいつら、俺たちがコボケ町からズッコケ山を越えるまでの間に、ここまで一気に事業を成長させたのか……。感慨深いな。
オトボケ村では俺たちと一緒に経営学を学んでた段階で、一緒に役所まで行って事業計画書を出してたのに。もうこんなに成長させたんだな。頑張ったんだな、あいつら。
「何してるんですか玄司様? 早く行きますよ? 私はここのレストランの名物料理、ミラーボールバーガーが早く食べたいんです」
「なんでお前オンセンとフタコブの事業成功に興味ねえの!? 薄情が過ぎるだろ!」
「だって玄司様、別に私たちには関係無いじゃないですか。彼らが勝手に頑張っただけで。ミラーボールバーガーの方が大事です」
「すげえなお前! シジボウのところで経営学学んだのとかもう忘れたレベルじゃねえの!?」
「まあほとんど忘れてますね。そんなことよりミラーボールバーガーを早く」
「さっきから気になってたけど何そのギラギラのハンバーガーは!? 食えんの!?」
「何言ってるんですか玄司様。ミラーボールバーガーはちゃんと食べられますよ。ミラーボールを噛み砕いて食べる時のあの食感が最高なんですよね」
「歯の方が砕けるわ! いやお前、そもそもミラーボールをどうやってパンで挟んでんだよ! 球体だぞあれ!?」
「玄司様、パンではなくバンズです」
「うるせえよ! どっちでもいいわ!」
何の余韻も無く、高橋はずんずんと宿の方へ歩き始めてしまう。あいつなんであんなに何も思いも無く行けるんだよ……。まあいいや。俺もそろそろ休みたい気持ちはあるしな。オンセンとフタコブに感謝しよう。
フロントへ行くと、羽織り姿の男が俺たちを出迎える。
「いらっしゃいませだアイル! ようこそいらっしゃいましたアイル!」
「うわ最悪だ! オンセンのゲートウェイ語尾をマイナーチェンジして受け継いでる! こいつは天王洲アイルなのかよ!」
「オンセンオーナーから全部聞いてるアイル! 最高のお部屋を用意したから、ぜひゆっくりしていって欲しいでアイル!」
「まあアイルぐらいならゲートウェイよりはマシか……。天王洲付けねえとちょっと気持ち悪いのがあれだけど、とりあえず受け入れよう」
「そうですね玄司様。私も今日から語尾にシーサイドを付けようかと思います」
「お前はやめろメインキャラなんだから! 変なクセ出すなよ! しばらくオンセンと一緒に行動してた時もゲートウェイ気になって仕方なかっただろ!」
「ですが玄司様、あのゲートウェイ語尾が無いとオンセンはキャラとしてパンチが弱すぎますよ? ただの真面目なサルじゃないですか」
「お前本編の中でキャラメイクの話すんのやめろ! メタすぎるわ!」
フロントの男は何故かサルの被りものをして、俺たちの前にやって来た。
「では救世主様、高橋、お部屋にご案内するアイル! とりあえず1ヶ月で予約をお取りしておりますので、安心してアイル!」
「おお、それは助かるな。1ヶ月か……。できればその間に王様とケリを付けて、生き返るところまで行きたいな」
「何言ってるんですか玄司様。1ヶ月もかかったら本編内じゃ収まり切らないですよ。もうちょっと巻いていきましょう」
「だからメタすぎるって! 何話で終わるとかお前が知ってちゃいけねえんだよ! ちょっと黙ってろお前!」
「分かりました。お口サック」
「今急に口ナップサックみたいにならなかった!?」
騒ぐ俺たちを気にする様子も無く、フロントの男はチェックインの準備を進めていた。




