第94話 宿探しの最終手段
「ここなんかどうでしょう、玄司様」
高橋が立ち止まったのは、古びれた木造の宿屋。傾いた看板には、『察知モンドホテル』と書いてある。
「おいネーミングギリギリだな! モンドホテルを察知すんなよ!」
「ここは古い宿ですが、老舗で信頼感はあります。玄司様も満足できるホテルだと思いますよ」
「ホテルって呼んでいいのかこんなの……。評判はどんな感じなんだよ?」
「クチコミを見ると、『幽霊が出そうでいい』『お化け屋敷感があって素晴らしい』『掛け軸の裏から白い服を着た女が出て来てお酌してくれた』『布団に入ると動けなくなるが、寝相が悪いので助かった』などがありますね」
「めちゃくちゃ幽霊出てんじゃねえか! 何幽霊とフレンドリーに接してんだよ! 嫌だわそんな幽霊が確定で出るところ!」
「玄司様、ボケルト王国では幽霊のことを『your ray』と言います」
「知らねえよ! オシャレに言わなくていいわ! なんだ『あなたの光』って! JPOPか!」
めちゃくちゃ不安じゃねえか……。嫌だななこんなとこ泊まるの。もうちょっと幽霊が出ないホテルとかねえのかよ。なんでそんな確定で幽霊出るホテルなんだよ。もっと選べただろ。
「ですが玄司様、今調べたところ、もう長期で泊まれる宿はここしかありません。他の安宿は全部埋まってしまっているか、今日廃業になっています」
「潰れてんだ!? 何そんな急に潰れることあんの!?」
「まあボケルト王国ではよくあることですよ。ちなみに今日廃業になった安宿は18軒です」
「潰れすぎだろ! 何みんな一斉に潰れてんだよ! 仲良しか!」
「じゃあとりあえず、廃業になった18軒を回りましょうか」
「なんで!? 絶対泊まれねえじゃねえか! 潰れてんだろ!?」
「でも玄司様、潰れていても建物は残っていますよ。今日廃業になったばかりなんですから、今日くらいはタダで泊まれるんじゃないですか?」
「浅ましいなお前! ちゃんと正規料金払ってちゃんとしたとこ泊まるぞ!」
「えー、玄司様真面目ですね。勝手にタダで泊まれるならその方が良くないですか? マヨネーズ代も浮きますし」
「マヨネーズ買わなきゃいい話だろ! いいから行くぞバカ!」
ブーブー文句を言う高橋を引っ張って、俺は他の安宿を探しに歩き始める。でも他の安宿って言っても、ここがこんな有様なんだからまともな宿は期待できねえ気がするな。まあ幽霊出なきゃいいや。落ち着いて寝られればそれで。
そんなことを考えながら歩いていると、割と小綺麗な建物が目に入る。看板の文字は掠れてしまっているが、辛うじて『ホテル』の文字は読み取れる。なんだ、あるんじゃねえかちゃんとした宿。
「お、ここなんかどうだ?」
「ダメですよ玄司様。ここはホテルではありません」
「なんでだよ? ちゃんと看板にホテルって書いてあるだろ」
「よく見てください玄司様。あれはホテルとは書いてありません。ポテルです」
「何ポテルって!? 知らねえ言葉出てきた!」
「ポテルとは、じゃがいも専用のホテルです。あそこにはちゃんと国がじゃがいもと認めた者しか泊まることはできません」
「何国がじゃがいもと認めた者って!? あなたは今日からじゃがいもですとか言われんの!?」
「そうですよ。ちゃんと各自治体からじゃがいも認定証も支給されます」
「ああそんな漢検みたいなシステムなんだ!? じゃがいも何級とかあんの!?」
「もちろんありますよ。ちなみにコボケ町にいたコヅツミはじゃがいも1/4級です」
「レシピの分量みたいな等級! 何を表してるんだよそれは!」
「その人のじゃがいも率です」
「じゃがいも率!?」
あそこポテルなのかよ……。なんだよポテルって。じゃがいも専用ホテルとか聞いたことねえよ。意味あんのかそれ……。
しかしなっかなか宿見つからねえな。まあ今日だけで18軒も廃業になってんだもんな。そう簡単には見つからねえか。
とは言え、宿は絶対に必要だ。俺たちはある程度の期間王都にいることになるだろうし、拠点になる宿が無いと困る。
「仕方ありませんね玄司様。最終手段を取りましょう」
「最終手段……? そんなもんがあんのか?」
「あまり使いたくはありませんでしたけどね。ここまで宿が見つからないとなると、仕方ありません」
「なんだよその最終手段ってのは。ちゃんと宿を見つけられんのか?」
「確実に見つかります。今ちょっと電話しますね」
そう言って高橋はスマホを取り出し、誰かに電話をかけ始めた。こいつにそんなツテあったのか……。王都でもマヨネーズ泥棒とかして嫌われてそうなのにな。まあでも、宿が見つかるならそれでいいや。もう疲れちゃったしな。
電話を終えた高橋は、嬉しそうに俺の方に向き直る。
「いけましたよ玄司様。さあ向かいましょう」
「おお、助かるわ。それで、俺たちが泊まる宿ってのは……」
「玄司様、後ろを見てください」
高橋に言われた通りに後ろを振り向くと、そこには立派な温泉宿。え、ここ? こんな立派なところ泊まれんのか? なんで?
「さあ玄司様、行きましょう」
「え、待てよお前。なんであんなすげえところ泊まれんだよ」
「まだ気づかないんですか玄司様? 私が左利きなことに」
「めちゃくちゃどうでもいいわ! そんな話してねえだろ! てかお前左利きだったんだ!」
「そうなんですよ。でもクリケットは右打ちに矯正されました」
「大体そういう時は野球だろ! なんでお前幼少期にクリケットやってんだよ!」
「野球は左打ちですよ」
「なんでだよ! クリケットと統一しとけよ!」
「それはいいんですが、あの温泉宿の名前を見てください」
高橋にそう言われて温泉宿の看板を見ると、そこには『オンセンリゾート』と書いてあった。これがどうしたんだよ? 温泉がカタカナで書いてあること以外は特に何も……いやちょっと待て。オンセン? まさか……。




