第92話 王都のホテル
「しかし……完全にテーマパークだな」
石畳の道沿いには、ポップコーンやフランクフルトを売っている屋台。数多くのアトラクションに、風船を配っている人までいる。たまに水蜘蛛の辺りでは忍者みたいなやつがいるけど、まあそれもある意味テーマパークっぽいから、一旦1括りにしておこう。いちいちツッコんでたら保たねえからな。
「それにしても高橋、本当にこんな立派な街にホテルの1つもねえのか?」
「何言ってるんですか玄司様。ホテルぐらいありますよ」
「お前さっき無いって言ってたじゃねえか! どっちなんだよ本当は!?」
「もちろんありますよ。ただ、この王都ーランドのオフィシャルホテルになるので、かなり値が張るんです」
「もう王都ーランドって言っちゃったよ! 安直なネーミングだな!」
「どうします玄司様? 安価な宿屋ならたくさんありますけど……」
「一旦オフィシャルホテル見たいわそれは! なんでとりあえず安い宿屋に行かせようとすんの!?」
「仕方ありませんね。ならオフィシャルホテルの方に向かいましょう。この王都ーリゾート公式アプリで方向を確認しますね」
「もう完全にテーマパークじゃねえか! なんで公式アプリあるんだよ!」
「ああ、あの王城を左にずっと行ったところにありますね。王城は夜にライトアップされて綺麗なんですよ。オフィシャルホテルの部屋からなら見えますからね。楽しみにしててくださいね」
「王城ライトアップされちゃってるんだ! 住んでる人めっちゃ迷惑だろそれ!」
高橋の案内に従って、オフィシャルホテルの方へ進む。今さらっと王城通り過ぎたけどいいのか……? そういや俺たち、王様に会いに来たはずだったんだが……。
まあいいや。とりあえず泊まるところを探すのが先決だ。王様もパッと来てパッと会えるほど暇じゃねえだろうしな。あと山越えで疲れてるし、少し休みたい。いやちゃんと寝たんだけどさ。ボウリング場だったからさカリヤドの簡易宿。ピカピカしててゆっくりは眠れてねえんだよ。
「さあ玄司様、見えて来ましたよ。あれが王都ーランドのオフィシャルホテル、アンタガサーホテルです」
「大分攻めたネーミング! 女子が文句言う時の入りみたいになってるけど!」
「あのホテルにはパークオフィシャルのレストランもあって、そこには王都ーランドの人気キャラクター、シェフ忍者が登場するらしいですよ」
「ああ人気キャラ忍者なんだ!? もっとなんかキャッチーなキャラいねえの!? ネズミみたいなのとか!」
「ですが玄司様、そんなものを出したらこの作品は終わりですよ」
「そうなんだけどさ! もう王都ーランドとか言ってる時点でまあまあアウトだからな!? いやそれはいいんだけども! なんだアンタガサーホテルって! あんたが何したんだよ!?」
「流石に私もそこまでは知りませんね。なんかやらかしたんじゃないですか。3億円事件とか」
「やらかしすぎだわ! そんなホテル泊まりたくねえよ! ちゃんと金庫あるんだろうな!?」
「金庫は無いですが、プレゼントボックスならありますよ」
「ああもう盗むんじゃなくて客が進んで金渡してるんだ! 変な世界!」
高橋の後に着いてアンタガサーホテルに入ると、そこは立派なロビー。大きな忍者の銅像が中心に立っており、チェックイン待ちと思われる人たちがソファに腰掛けている。
人の多さとは対照的に、フロントは忙しくはなさそうだ。まだチェックイン時間になってないんだろうか。
「さあ玄司様、部屋が空いてるか確認しに行きましょう。たまに空いていることがあるんですよ。コンセプトルームの忍者屋敷ルームっていうところが空いている確率が高いです」
「うん物騒っぽいもんなその部屋! どんな仕掛けがあるんだよ!」
「もちろん、入ると床から刀が数本飛び出してきますよ」
「怖すぎるわ! ガチのトラップじゃねえか! 安心して眠れねえわそんな部屋!」
「大丈夫ですよ玄司様。この私がついてますから。刀が飛び出してきても、マヨネーズを塗ってやりますよ」
「塗ったから何なんだよ! 滑り良くなってむしろ素早く刀出てくるわ!」
「さあ玄司様、行きましょう」
「俺もう安い宿屋でいい気がしてきたな!」
フロントに行くと、バーガンディの制服を着た男が俺たちを出迎える。なんでホテルとかパーク——いや街なんだけど、一旦パークとしておこう——は洋風なのに、メインキャラが忍者なんだよ。てことは人気アトラクションも水蜘蛛だろ絶対。
「いらっしゃいませこんにちは! アンタガサーホテルへようこそ! 本日はチェックインかチェックシャツかどちらでしょうか?」
「なんでその2択なんだよ! チェックシャツここで買ったって仕方ねえだろ! 何名物か何かなの!?」
「チェッカーフラッグでお願いします」
「選択肢に無かっただろそんなもん! 何お前だけレース始めようとしてんの!?」
「チェッカーフラッグですね。かしこまりました」
「あるんだ!? あってたまるかそんなもん!」
「オプションでレーシングカーはお付けいたしますか?」
「2台お願いします」
「完全に俺とレースする気じゃねえか! 何を勝手に話進めてんだお前らは!」
なんだこのホテル、本当に大丈夫なのか……?




