第90話 ズッコケ山を抜けて
またしても現れた山賊に、俺と高橋は大きな声を浴びせる。
「おいこら山賊! また出やがったな! なんでフンシツの馬車を執拗に狙うんだ!」
「間もなく3番ホームに列車が参ります! 危ないですから黄色い線の内側までお下がりください! ただいま真ん中辺りの車両大変混雑しております! 端の方の車両は比較的空いておりますので、分散してのご乗車をお願いいたします!」
「なんでお前だけ電車のアナウンスしてんだよ! ちゃんとやってくれる!?」
「ちゃんとやってるじゃないですか。混雑している車両に無理やり人が乗ったら、押し潰される人が出てくるかもしれませんよ?」
「うんお前が駅員ならちゃんとやってんな!? でもお前駅員じゃねえから! マヨネーズ泥棒だから!」
「マヨネーズ泥棒なんて失礼ですね。ちゃんと
マヨネーズ大泥棒と呼んでください」
「どこにプライド持ってんだよ! お前いいからまたあの山賊追っ払うぞ!」
山賊は余裕そうな表情で口髭を触りながら、俺たちの方をゆっくりと見る。にやにやとした笑みを浮かべる山賊は、俺たちに向かって口を開いた。
「ああん? なんだてめえらは? この漏れに何か文句でもあるってのかああん?」
「まだ成長してなかった! こいつの脅し文句やっぱこの1パターンしかねえんだ!」
「ですが玄司様、ほとんど同じようで少しだけ違うセリフもあるんですよ。よく読み返してください」
「読み返すとか言うなバカ! 内容が一緒だから一緒なんだよ!」
「でも玄司様、ちょっとだけ違うセリフを見つけられた時、めちゃくちゃ気持ち良くないですか?」
「セリフでアハ体験すんな! そんなもん求めてねえんだよ! ちょ、お前1回話題逸らすのやめられる? 話戻すぞ!」
「分かりました。コボケ町はオトボケ村から山手線で1駅ですよ」
「どこに戻ってんだ! それ第2章の最初の方だろ! 戻りすぎだわバカ! 1個前に戻れよ!」
「分かりました。……って心音じゃねえか!」
「1つ前の作品に戻ってどうすんだよ! それ誰も伝わらねえだろあんま跳ねなかったから! せめて作品内で戻ってもらえる!?」
なんで1個前に話題戻すだけでこんなに疲れなきゃいけねえんだよ。あと誰が1個前の作品『後輩がまた違うバイトしてる〜なんで俺の行先知ってんの?〜』を知ってんだよ。そんなマイナーな作品持って来るんじゃねえよ。
「ああん? なんだてめえら? この漏れに何か文句でもあるってのかああん?」
「文句はあるわ! お前なんでこんな平和なハイキングコースで山賊やってんだよ! なんか理由でもあんのか!?」
「ああん? 理由なんて決まってんだろ! 他の山じゃ山賊が警戒されてて、誰も近寄らねえからだよ!」
「一応会話できるんだお前! なら最初からして欲しかったな!」
他の山は警戒されてるのか……。てことは、割と山賊とか出る世界ではあるんだな。意外と物騒だなボケルト王国。
「お前、山賊を辞める気はねえんだな?」
「ああん? あるわけねえだろう!? この漏れは、人を襲って身ぐるみゆっくり剥いで電気消してムードを演出するのが好きなんだよ!」
「なんで途中から初めてのホテルみたいになってんだよ! そんないいもんじゃねえだろ山賊行為!」
「うるせえ! 漏れはこの世界で、山賊として頂点を取るんだ! てめえらも襲ってやる!」
山賊が俺たちに襲いかかってきた瞬間、ものすごい勢いで何かが飛んで来て、山賊の頭に直撃した。
ポトリと地面に落ちたそれは、マヨネーズの容器だ。
「な、なんだあ!? 誰だこんなことしやがったのは!」
「おーっと、不法投棄しようと思ってた期限切れのマヨネーズを、うっかり当ててしまったみたいでやんすねえ!」
「お前は……ランオウ!」
俺たちが寝ている間に空のマヨネーズ容器を放置しに来ていた犯人、ランオウだ。なんであいつがここに……?
困惑していると、今度は何か丸いものが、山賊の足元に向かってすごいスピードで転がっていく。
「どわあっ! な、なんだあ!?」
「あちゃーしもたな! レーンにボール投げたつもりが、あんさんの方に行ってしもたみたいや! いやーすまんなあ!」
「カリヤド! お前今日はまだ宿の設営時間じゃ……」
「おう兄ちゃん! いやーちょっと暇やったもんでな、ボウリングの練習しとっただけなんや! すまんな驚かして!」
起き上がろうとする山賊の上から、今度は人が降ってきて、山賊の上に跨った。
「おっとすまないね。王都に向けて進もうと思っていたら、方向を間違えてしまったようだ。オデったら、つい勢いを付けすぎてしまったね。誰かを下敷きにしてしまったよ」
「ギャクバリ! お前まで! どうしたんだよお前ら!」
ズッコケ山で出会ったランオウ、カリヤド、ギャクバリが、山賊を懲らしめている。何が起こってるんだ……? こいつら、まさか俺たちのピンチを察して……。
「いやーなんかな、今日の夜王都の門の前で花火が上がるっちゅうから、見に行くために王都の方に向かっとったんやけどな。まだ夜まで暇やったからこいつらとボウリングしとったんや」
「ああ別に助けに来てくれたわけじゃねえのな!? なんかちょっとガッカリだわ!」
「あっしも花火が見たかったんで、こっちに来たんでやんすけど……。いやーマヨネーズの期限が切れてたのはショックだったでやんすねえ!」
「お前も助けに来たわけじゃねえんだ! 何なんだよお前ら! せっかくちょっと感動してたのに!」
しかし、花火がある……? そんな噂別に流れて来なかったけど……。誰がそんなこと言ったんだ?
「あ、私です」
「お前だったのかよ! 何適当なこと言ってんだ! 花火なんてねえだろ門の前なんかで!」
「何言ってるんですか玄司様。この間花火作ったじゃないですか」
「ああお前あれ本当に作ってたの!? どんな花火作ったんだよ!?」
「それはもちろん、『火遊び禁止』の文字を」
「全然説得力ねえな! 火遊びで火遊び禁止って言うなよ!」
しかし、高橋が適当なことを言ったおかげで、こいつらが助けに来てくれたのか。結果的なだけど。それはちょっとだけ感謝だな。
「さあ玄司様、あとはあなた様がトドメを刺すだけですよ」
「俺が……? え、どうやって?」
「玄司様の武器と言えば、ツッコミじゃないですか。だからどつきツッコミですよ」
「めちゃくちゃ暴力! え、俺どつきツッコミとかやったことねえけど!?」
「ほら行きますよ玄司様、あの山賊にボケ振りしますからね。山賊! 今すぐ大人しくしなさい!」
「ああん? なんだてめえら? この漏れに何か文句でもあるってのかああん?」
「いい加減にしろ! なんでお前はそのレパートリーしかねえんだよ!」
俺は反射的に山賊の頭を叩いていた。すると山賊はとんでもない勢いで空に向かって吹き飛ばされ、キラリと光って消えてしまった。
「ええ……? ええ……?」
「見ましたか皆さん! これが救世主、シ・ロカネゲンジのツッコミの威力です!」
「区切るとこ間違えてんだよだから! お前いつまでそれ引きずってんの!?」
「いやあ、でもこれであの山賊、アラクレを退治できましたね。良かった良かった」
「え、お前名前知ってたのか? なんでだよ、あいつ名乗ってなかっただろ」
「何言ってるんですか玄司様。山賊なんて私とほぼ同業じゃないですか」
「ああお前マヨネーズ泥棒だもんな!? その界隈では有名なんだあいつ!?」
「玄司様、泥棒ではなく大泥棒です」
「分かったようるせえな!」
無事山賊アラクレを退治した俺たちは、そのまま目の前に迫った王都に向かって歩いて行った。完全に道は平坦になり、ズッコケ山を完全に越えたようだ。
これで山越えは完了。さあ、いよいよ王都オオボケに入るぞ。例の王様、一体どんなやつなのか知らねえけど、絶対満足させて生き返ってやる。
チラリと生き返りゲージを見ると、95パーセントまで溜まっていた。




