第9話 災厄の正体
「災厄が……ここにいる?」
ウメボシの発した言葉は、衝撃的なものだった。イドバタたちが話していた災厄。それがこの家にいるだって? おいおい、じゃあ俺と高橋は災厄と同居しなきゃいけないのか?
なんだよそれ。俺たちにとって1番災厄じゃんか。
「さ、玄司様、中に入りましょう」
「嫌だわ! お前今の話聞いてた!?」
「もちろん聞いてましたよ。渋柿を干して甘くする画期的な方法についてですよね?」
「全然聞いてねえじゃねえか! 誰が今このタイミングで干し柿の作り方話すんだよ! 画期的でもねえし!」
「ウメボシ、とりあえずその干し柿とやらを食べさせて欲しいんですが」
「だからウメボシは干し柿の話してねえって! お前だけだよ今話題が干し柿なの!」
全然緊張感無いのはなんで? 今しがたこのババアが家に災厄がいるって話をしてたのに、一切躊躇せず家に入ろうとする姿勢。ある今尊敬だわ。いや本当に話聞いてなかったのかもしれないけども。
「ウメボシ、災厄っていうのは結局何なんだ? それが分かれば、俺たちも対処のしようがあるかもしれない」
「そうじゃのう、なら災厄を救世主様にお見せしようかのう。ペットカメラでいいかのう」
「良くねえよ! そこにいるんだろ!? じゃあ連れて来いよ早く!」
ウメボシは奥に引っ込み、高橋と2人で玄関に取り残された。ボケルト人相手だとどうも緊張感が無いなあ。俺割と緊張しいなんだけど。人前でピアノを弾く時なんか、何回やってもお腹痛くなるもんなあ。だからプロになれてないんだよ。情けない話だわ。
「4日後。俺たちはルクセンブルク大公国を目指して陸路を歩んでいた」
「おい勝手に話進めんなこら! 待ってる間暇だからって何ルクセンブルク目指させてんだよ!」
「いやだって玄司様、このまま待ってても話進まないじゃないですか。進められるタスクはスキマ時間で進めておかないと」
「その理屈で本筋進めてどうすんだよ! スキマ時間で海渡らされたらたまったもんじゃねえわ! ……ああそもそも世界も渡ってんのか!」
「しかし暇ですね。玄司様、好きな女の子の話でもしませんか?」
「修学旅行か! なんで人ん家の玄関で恋バナしなきゃいけねえんだよ!」
「私はイドバタBが好きです」
「まじで言ってんのお前!? 衝撃のカミングアウトなんだけど!?」
高橋の口から飛び出したとんでもない暴露に動転していると、ウメボシが何かを抱えて戻って来た。なんだあれ……? 動物みたいに見えるけど……。
「救世主様、ただ今戻りましたがのう。どうも今は災厄の寿司の居所が悪いようじゃのう」
「虫の居所だろ! なんだ寿司の居所が悪いって! フレンチレストランにでもいんのか!」
「こちらがその災厄ですじゃのう」
そう言ってウメボシが俺たちに見せて来たのは、小さなラクダだった。ベージュの毛並みはサラサラとしていて、背中に小さく飛び出した2つのコブが見える。フタコブラクダか……。うん、なんでこれが災厄って呼ばれてんのか分かんないぞ。
「これがこの村に訪れた災厄ですじゃのう。救世主様、なんとかできますかのう」
「なんとかって言われても……。このラクダが何するって言うんだよ?」
「このラクダは、ボケルトラクダといいましてのう。オトボケ村の言い伝えで、村中のマヨネーズを奪っていく災厄とされておりますのう」
「めちゃくちゃどうでもいいじゃねえか! え、こいつもマヨラーなの!?」
「玄司様、私はどちらかと言えばタルタルソース派です」
「分かったようるせえな! で、マヨネーズが奪われたら何が困るんだよ?」
ウメボシは顔のシワをより深くし、少し低い声で話し出した。
「この村はここ数十年雨が降らなかった村でしてのう。ずっとじゃがいもを栽培して細々と暮らしてきたんですのう。ということはですのう、マヨネーズが無いともうじゃがいもを食べることができないということですのう」
「なんで!? 別に無くても食べられるだろ! 調理法を工夫しろよ!」
「玄司様、じゃがいもは薄くスライスして油で揚げ、塩をまぶすと美味いお菓子になりますよ」
「俺に言ってどうすんだよそんなの! なんでここ異世界なのにポテチの概念あんの!?」
「救世主様、どうかこの村を救って欲しいんですがのう」
めちゃくちゃしょぼい災厄だな……。いやでも、このラクダがマヨネーズを盗むなんて、そんなこと考えにくいんだが……。
だってラクダって砂漠でも長く飲み食い無しで生きていける動物だろ? ボケルト王国ではどうなのか知らないけど、フォルムや特徴が地球にいるそれと変わらないことを考えると、このラクダがそんなにグルメだとは考えにくい。
「玄司様、1度このボケルトラクダに話を聞いてみましょう。私から行きます。ボケルトラクダ、あなたの長所と短所を教えてください」
「面接か! ラクダがそんなこと喋るか!」
「ボクの長所はマヨネーズを愛する心なら誰にも負けないことで、短所はマヨネーズを食べすぎるところだよ」
「ごめん俺が間違ってたわ! 面接みたいな質問にもちゃんと答えるし、マヨネーズ盗む犯人もこいつだわ!」
俺がそう言うと、ボケルトラクダは目を見開き、歯を剥き出しにしてこちらに唾を飛ばし出した。
「まだボクはこの村で何もしてないよ! そもそもマヨネーズは自分で買うものだし、盗むなんて発想無いよ!」
「え、そうなのか? でもウメボシ、もう被害は出てるんだろ?」
「そうですのう。イドバタたちによると、もう数件マヨネーズの窃盗被害が出ておりますのう」
「ほら見てみろよ! ボケルトラクダ以外に誰がそんなことするんだよ!」
「あ、私です」
「お前だったのかよ高橋この野郎! じゃあお前が災厄じゃねえか!」
何やってんだよこいつ……。でもとりあえずこのラクダは災厄じゃないのに災厄扱いされてるってことでいいんだよな?
ならなんとかしてやりたいけどなあ。
「救世主様、このボケルトラクダを村長のところに連れて行くのはどうかのう」
村長のところ……?




