第89話 スローペース
いつも通り前を行くフンシツの馬車から、食材が落ちに落ちまくっている。こいつ今日は何作ろうとしてるんだ? 米に鶏肉、トマト、玉ねぎ、セロリ、ピーマン、青唐辛子……。まじでこれ何作るつもりなんだよ。もう分かんねえわこれは。
「玄司様、今日のフンシツはチキンジャンバラヤを作ろうとしているようですね」
「チキンジャンバラヤ!? なんでそんなもんを!?」
「知らないですけど、まあ商人ですからね彼。どんな食材でも取り扱っているんではないですか?」
「ごめん商人ってもっとなんか武器とかアクセサリーとかそういうの売ってるんじゃねえの!? なんでこいつだけスーパーみたいなラインナップなの!?」
「あれ玄司様知りません? ボケルト王国で展開されている大型チェーン、『スーパーフンシツ』のオーナーが彼ですよ」
「そうだったんだ!? めちゃくちゃ万引きされそうなネーミングだけど大丈夫!?」
「万引きはされてないみたいですけど、店員側がみんな商品落としたり無くしたり食べたりしてるみたいです」
「食べちゃダメだろ! 最後のは確信犯だわ!」
ていうかフンシツ、そんなすごいやつだったのか……。でも、ならなんでこいつ1人で王都に向かってるんだ? 王都にはスーパーフンシツは無いってことなのか?
「ちなみに、王都にはスーパーフンシツはありません。今のところスーパーフンシツよりも前に創業した、『スーパー王手』というところがかなり成功しているみたいですよ」
「大丈夫その名前!? すごく西成の香りがするけど!?」
「大丈夫ですよ。インド系の店員とか関西弁で歯が無いおじさん店員とかしかいませんが、特に問題はありません」
「じゃあ問題あるわ! 完全に西成にあるやつだろ! 王じゃなくて玉の!」
「何言ってるんですか玄司様。パクってるんだから名前が似るのは当たり前じゃないですか」
「開き直んな! 何堂々とパクった宣言してんだよ!」
「いや別に私が創業したわけじゃないので……。創業したのは私の母です」
「じゃあお前かなり関係あるだろ! なんとか今からでも名前変えさせろ!」
要するに王都にはスーパーフンシツが無いから、いよいよ王都にも店を出すために、下見も兼ねて馬車で来たって感じなのか。スーパーのオーナーも大変だなあ。
いつも通りゆっくりと進んで行く馬車の後ろを、ゆっくりとした歩みのウマシカが続く。今まで少し急だった下り坂も、だんだんとなだらかになってきた。いよいよ王都が近づいてるんだな。
「ところで玄司様、王都に着いたら何がしたいですか? 私は竹馬です」
「なんで!? 王都まで行ってなんで竹馬したいの!?」
「竹馬って王都にしか無いんですよ。オトボケ村やコボケ町には置いてなかったでしょう?」
「置いてはなかったけども! 電動キックボードとかリニアモーターカーとかあったぞ!? なんで王都は竹馬なんだよ!」
「王都では竹馬は貴重な移動手段として用いられています。最新の竹馬は、なんと乗りやすいように足場が少し広くなったらしいですよ」
「微々たる進化! なんで村とか町には最新技術あって王都にはねえんだよ! もうちょっと連携したら!?」
「ですが玄司様、このズッコケ山を挟んだ向こう側はかなり遠いじゃないですか。コボケ町からオトボケ村までも距離がありますし」
「コボケ町からオトボケ村は徒歩10分ぐらいだっただろ! 頑張ってひと山ぐらい越えろよ! どうにかなっただろ!」
「このズッコケ山を超えるのが、やっぱりめんどくさいと言う人が多いですね」
「そのめんどくさいことをやるのが仕事だろ! 誰か率先してやれよ!」
「そういやあれっすよね。救世主様と高橋はオトボケ村から来たんすよね? よく歩いて来られたっすね。あんな遠いところ」
「だから徒歩10分なんだって! めっちゃ近いからオトボケ村とコボケ町! ほぼ一緒だから!」
「俺っちでもオトボケ村からコボケ町までは歩いて2ヶ月かかるっすよ。それを10分なんて、すごいスピードっすね」
「お前あの距離2ヶ月かかんの!? 何お前カタツムリか何か!?」
「玄司様、ウマシカはウシガエルです」
「そうなんだけどさ! 例えだろ! そもそもなんでこいつこの見た目でウシガエルなんだよ! ずっと言ってるけどさ!」
ゆっくりとした進むペースとは裏腹に、ボケだけは次々とものすごいペースで飛んで来る。なんでこいつらこのスピードで会話できんのに、歩くのはめっちゃ遅いんだよ。もうちょっとなんとかできただろ。
高橋とウマシカのボケを捌いていると、突然前を行くフンシツの馬車が止まった。おい、これはまさか……。
「玄司様、フンシツの馬車が止まりましたよ。急病人が出たんですかね?」
「電車か! 急病人出てたら絶対フンシツだよ! すぐ助けに行ってやれよ! 何呑気してんだ!」
「急病人じゃないっすよ多分。非常停止ボタンを押した外国人観光客とかがいたんすよ」
「だから電車かって! いるけどたまに自分の都合で非常停止ボタン押す迷惑な外国人! 馬車にそんなやついねえだろ!」
「ですが玄司様、よくボケルト王国を走っている路線馬車には非常停止ボタンが付いていますよ」
「なんだ路線馬車って! 路線バスみたいに! 何そんな馬車あんの!? リニアとかあんのに!? いや違うだろお前らバカだな。俺の予想だと、またあいつだ」
「沖田総司ですか?」
「違うわバカ! なんで今新撰組出て来るんだよ! 山賊だろこの間の!」
のんびりしている高橋を小突いてウマシカの背中から降ろし、俺たちは急いで馬車の前に向かう。するとやはりそこにいたのは、この間の山賊だった。




