第88話 目前の王都
「玄司様、朝ですよ玄司様、起きてください玄司様、あそれ玄司様ったら玄司様」
「うるせえな! なんだよ朝から!」
「いや、特に何もありませんよ。ただ朝だから起こしに来ただけです」
「なんだお前この野郎! じゃあ俺が自然に起きるまでバカみたいに待ってたらいいだろ!」
「バカみたいにとは失礼ですね。私はバカみたいではありません。バカです」
「自覚あったのかよ! ならもうちょっと自重してもらえる!?」
「東向きに検討します」
「東西で言うな! せめて前向きに検討しろよ!」
いつに無く元気な高橋に起こされてしまい、俺は渋々起き上がる。顔を洗って簡易宿の外に出ると、日はまだ昇りかけ。辺りはまだ薄暗かった。
「まだ早朝じゃねえか! 日の出直後とかだろこれ! なんであいつこんな時間に起こしたんだよ!」
「玄司様、それは私が説明しますよ」
「そりゃそうだろ本人なんだから! この時間ならまだ寝てて良かっただろ!」
「そういうわけにもいきません。玄司様を起こさなければいけない理由が、ちゃんとあったんです」
「なんだよ。勿体ぶらずにサッと言えよ」
「分かりました。実は、王都オオボケがもうすぐそこまで近づいています。このペースで行けば、あと1日足らずで辿り着くことができるのです」
そうなのか……。ついに王都が目の前に来てるんだな。いよいよズッコケ山を越えるのもラストスパートってことか。
いやでも、それが俺を早く起こすことと何の関係があるんだ? 今早起きしないと1日以上かかっちゃうとかか?
「そして玄司様、あなた様をこの時間に起こさなければいけなかった理由。それは……私のテンションが高いからです」
「なんだそれ! お前そんな理由で起こすなよ! 1人で騒いでろよ!」
「もちろん、このテンションを1人で処理しようと努力はしましたよ。ですがなかなか鎮まらず、これは私1人では抜けないと判断したんです」
「テンションを性欲みたいに言うな! ちゃんと『抜けない』の前に『テンションが』って入れろ!」
「そんな誤解をさせるつもりはありませんでした。まさか玄司様は銀食器なのですか?」
「もしかして思春期って言おうとしてる!? 間違えすぎだろ! 思春期でもねえしよ別に!」
「まあ玄司様の思春期はいいんですが、それより私のテンションをどうにかしてくださいよ。このままじゃ私打ち上げ花火を作りそうです」
「ああ作る段階なんだ! 打ち上げる段階まで遠いから別にそれは勝手にしろよ! 今から作ったら何日かかかんだろ!」
何を言ってんだこいつは……。高橋のことだから、どこからか花火取り出して急に打ち上げるのかと思ったわ。なんでちゃんと作る段階からなんだよ。どこちゃんとしてんだよ。もっとちゃんとしなきゃいけない設定いっぱいあるだろ。
「分かりました。では花火作りに取り掛かりますね。ちなみにどんな花火がお好みですか? 『これは花火です』という文字の花火ですか?」
「見たら分かるわ! いちいち花火が花火であることを説明しなくていいから!」
「じゃあどんな花火がいいんですか! 文句ばっかり言われてもこっちが困るんです! ちゃんとご自分の意見を言ってください!」
「うん俺別に花火作りたくねえんだわ! 今見たくもねえし! お前とりあえず花火から離れられる!?」
「ファーフロムファイアワークス、つまりFFFFということですね」
「Fが1個多いわ! 最後のFは何の頭文字なんだよ!」
「もちろんフォーリンラブのFです」
「誰とだよ! 花火見ながら恋に落とすな!」
「でも和歌山県の白良浜ではメッセージ花火なんてものもやってるんですよ。花火と共にアナウンスでプロポーズの言葉を贈ったりします。素敵ですよね」
「知らねえって! なんでお前が和歌山県のそんなこと知ってんだよ!」
「玄司様はもし今メッセージ花火を贈るとしたら、誰にどんな言葉を贈りたいですか?」
「お前に『黙れ』って贈るわ! まじ1回静かにしてくれる!? 俺まだ眠いんだよ!」
何の話なんだよ……。いつ和歌山県の話始まった? 俺が気づいてないだけでずっと和歌山県の話だったりした? いやそんなわけねえよな。高橋がおかしいんだよ。
そんなこと言ってる間にちょっとずつ日が昇ってくる。ああもう、こいつがだらだらしてるから朝になっちゃったじゃねえか。もうちょっと寝てたかったなあ。今日はあの変な神様にも起こされちゃったし、寝不足気味なんだよな……。
「そういや高橋、俺の生き返りゲージについてなんだが」
「ゲージがどうかされました? 突然減りが早くなったとかですか?」
「スマホの充電か! いや違うんだよ。昨日夢に神様が出て来てな、あのゲージを溜めるだけじゃ生き返ることはできないって言われたんだ」
「ああ、知ってますよ。王様を満足させないと生き返れないんですよね」
「知ってたのかよ! 早く言えよ! 第3話とかの段階で言ってもらえるそういう大事なことは!?」
「ですが玄司様、こういうことは大体最終章で判明することじゃないですか。まだ我々は第3章にいるので、早い方ですよ」
「メタすぎるって! いや俺もだけどさ! メタにメタで返すなよお前!」
「さあ玄司様、生き返る条件も判明したことですし、王都を目指して出発しましょう。早くその服を忍び装束に着替えて、刀とマキビシを持ってください」
「俺いつから忍者だったっけ!?」
なんでこいつ知ってたのに言わねえんだよ……。もっと早く分かってたら、早めに王都目指したのに。いやまあ、どっちにしろゲージは溜めなきゃいけないから、結果一緒だったかもしれないけどさ。心持ち的にさ。俺このままだったら死んじゃうわけだからさ。
はあ……。もういいや。とりあえず高橋の言うように、王都を目指して進もう。もう目の前なんだからな。さっさと王都に着いてしまって、さっさと王様を満足させて生き返ろう。
俺は簡易宿の中に入り、何故か用意してあった忍び装束をゴミ箱にぶち込み、出発の準備を始めた。




