第83話 案内人ギャクバリ
「どうしたんだい君たち? 何かおかしなことでもあったかい?」
「そうなんですよ。タクシーを運転していたら、突然後部座席に白い服を着た女が……」
「そんな話してねえわ今! なんで怪談始めた!?」
「金髪ボブで白い服を着た女がいたんですよ。怖くないですか?」
「じゃあ怖くねえわ! 相場黒髪ロングなんだよそういうの!」
「救世主様、怪談で金髪ボブが出て来ないって誰が決めたんすか。俺っちはそういう多様性があってもいいと思うっす」
「知らねえよ! 怪談に多様性とか持ち込むなバカ! 怖いのが正義なんだよ怪談は!」
「玄司様、ウマシカはさっきいきなり止められたので機嫌が悪いんです」
「だから知らねえって! そんなことで機嫌悪くなんなよ! 子どもか!」
「救世主様、俺っちはまだ8歳。犬で言うと15歳っす」
「人間で言えよ分かりにくい! 犬で15歳ってめちゃくちゃジジイじゃねえの!?」
「玄司様、ウマシカはメスです」
「そうだったんだ! 一人称俺っちなのに!? ちょっと待ってくれ、お前らほんと1回黙れ!」
全然この男に話聞けねえじゃねえか。なんでずっと怪談とウマシカの話してんだよ。話が進まなすぎてびっくりしたわ。
そんな俺たちを見て、貴族風の男はよりにやついた笑顔を手で隠している。なんだこいつ、なんか嫌な感じがするな……。
「お前、俺たちに間違った道を教えてねえか? なんでそんなににやついてんだよ?」
「べ、べべべ別にいいいい!? とととと、特に嘘なんてついてまままませんがあ!?」
「嘘下手くそか! 絶対間違った道教えてんじゃねえか!」
「……チッ。バレたら仕方ないね。なんでオデが間違った道を教えたことに気づいたんだい?」
「そりゃ気づくだろ! めっちゃにやにやしてただろお前! あんなににやにやしてたら、流石に何かおかしいなって思うわ!」
「玄司様、ボケルト人には一定数常ににやにやしている人がいます」
「そうだったんだ! ごめんなにやにやしてるだけで疑って!」
「いいってことだよ。じゃあ、オデはここで失礼するね」
「おいこら待てこの野郎! 何しれっと去ろうとしてんだ! まだ話は終わってねえよ!」
「そうですよ。金髪ボブの幽霊は、白いワンピースが風に靡いて捲れそうになってたんですからね」
「その話はもう終わってるわ! 何その幽霊マリ〇ン・モンローじゃねえの!?」
本当に高橋の怪談はどうでもいいな。なんでそんな女優みたいな幽霊出て来るんだよ。もっと怖くあれよ怪談なんだから。いや別に今怪談のことはいいんだけどさ。気になるからさ。
なんなら今この男の話より怪談の方聞きたいわ。この後何が起こるのか気になって仕方ないわ。
「怪談……じゃなくてお前! なんで俺たちに間違った道を教えたんだよ! 危うく王都に向かう道から外れるところだっただろ!」
「なんでも何も、それがオデという人間だからさ」
「はあ? どういう意味だよ?」
「では私が解説しますね。仲の悪い者同士が、共通の目的のために協力することです」
「それ呉越同舟の意味じゃねえの!? いやお前そんなこと聞いてねえよ! ちょっと黙ってろ!」
そんな時、馬車からフンシツが降りて来て、貴族風の男に向かって声を上げた。
「かくれんぼする人この指とーまれ!」
「何を言ってんだお前は! 今そんなことしてる場合じゃねえだろ! 呑気か!」
「ああ間違えた新小岩。ついいつもの癖が出ちゃった新小岩」
「お前まだかくれんぼ日常的にしてんの!?」
フンシツは高く掲げていた指を下ろし、貴族風の男を睨みつける。なんだ? 何かこいつに恨みでもあるのか?
「救世主様、こいつはギャクバリ! 道案内をするフリをして、いつも逆方向に誘導する迷惑なやつだ新小岩!」
「そうなのか? おいお前、なんでそんなことするんだよ!」
「いや、別にオデも悪気があるわけじゃないんだよ」
「嘘つけお前! めちゃくちゃにやにやしてただろ!」
「本当なんだよ。オデはただ、親切に道を教えてあげたいだけなんだ。ただ、いつもオデも道を間違えてしまう。ただそれだけなんだ」
「ずっと嘘ついてんだろお前! じゃあなんでにやにやしてたんだよ!」
「玄司様、さっきも言いましたが、ボケルト人には一定数常ににやにやしている人がいます」
「ああその分類なんだ!? じゃあこいつも純粋に間違って道を教えて、にやにやはただの癖だってこと!?」
「そうなんだよ。オデも困ってるんだけどね、どうしても道を覚えられなくて……」
そうだったんだ……。ついに嫌なやつが出てきたかと思ったら、天然かつ誤解されやすい可哀想なやつだったわ。ややこしいなあ。
ちょっと待てよ。てことは、こいつが言う逆の方向に行ってれば、王都まで行けるってことじゃないか?
「ちなみにギャクバリ、この先に分かれ道はあるのか?」
「ああ、もちろん無いよ」
「ねえのかよ! ある言い方すんなよ!」
「玄司様、それで金髪ボブの幽霊なんですが」
「まだ言ってんのかお前は! その話してんのもうお前だけだよ!」
え、じゃあこいつの出番これで終わり? なんかズッコケ山変なやつ多くねえか? いやオトボケ村もコボケ町も変なやつは多かったけどさ。単発で変なキャラ出すぎじゃねえの? メタいこと言うけども。
まあいいや。とりあえずギャクバリが
言ったのと逆方向に行けばいいんだよな。
俺たちはまたフンシツの馬車を先頭に、左側の道に進み始めた。




