第79話 ズッコケ山の夜
「んん……もう朝か」
朝の光……ではなく、ピカピカとやかましいボウリング場のライトで目が覚める。
この目覚め方ももう何回目なんだろうな。めちゃくちゃ嫌だが、次第に慣れてきている自分がいる。
ボウリング場で目覚めていると言えば酔っ払って夜通しボウリングでもしていたと思われそうだが、実際はボウリングのレーン上にある和室で布団を敷いて寝ていたわけだから、もうわけが分からない。改めて冷静になってみると、俺は何をしているんだ。
そして隣の布団を見ても、案の定高橋はいない。見渡してみると、今日は丸まってガターにいるようだ。もう俺はこいつの寝起きにはツッコまないと決めている。
「さてと……。今日はどうだ?」
簡易宿の外に出ると、外はまだ暗い。あれ、まだ夜だったか? ボウリング場で寝てるから朝か夜か分かんねえんだよな……。
「変な時間に目が覚めたってことか……。まあでも今は眠くねえし、ちょっと夜風に当たっていくか」
近くの切り株に座って夜空を眺める。ボケルト王国の夜空にも星はあるんだな。星座とかあるんだろうか。例えばあの3つの明るい星。あれはなんとかの大三角形とかそんな名前があったり……。
「あれは秋のおにぎり座ですね」
「うわあ! 高橋お前いきなりなんだよ! びっくりするじゃねえか!」
「いやあ、玄司様が起きていく気配がしたもので。ガターも寝心地良かったので、一緒にどうですかと誘いに来たんですよ」
「寝心地いいわけねえだろ! 溝だぞ!? なんだ溝だぞって言いにくい!」
「それより、あの秋のおにぎり座がどうかしたんですか?」
「あれ秋のおにぎり座っていうの!? 何その食欲に塗れた星座!」
「文化祭で食べるおにぎりって世界一美味しいじゃないですか。だからです」
「なんの『だから』なんだよ! 文化祭で食べるおにぎりより体育祭で食べるおにぎりの方が美味いだろ絶対!」
「ちなみに具は鮭アボカドです」
「珍しい具! なんだそのOLみたいなおにぎりは!?」
「でも玄司様、アボカドは『森のガター』と呼ばれてるんですよ」
「『バター』だろ! なんでアボカド転がしてんだお前は!」
やっぱりボケルト王国の星座は意味不明なんだな……。なんだよ鮭アボカドおにぎりの星座って。食欲あんのかねえのか微妙じゃねえか。嫌だなそんな健康に配慮したおにぎり。いや別に普通にある分にはいいんだけどさ。星座だからさ。梅とかが良かったな。
「それにしても玄司様、こんな時間にどうしあんですか? 遠くにいるあの子のことを想っているんですか?」
「誰のことだよ! 心当たり無さすぎてびっくりするわ!」
「そんなの、玄司様が音大時代に気になっていた片山先輩に決まってるじゃないですか」
「なんでお前がそんなこと知ってんだよ! 俺お前に音大時代の話したことあった!?」
「それで、片山先輩とはどうなったんですか?」
「どうもなってねえよ! 片山先輩には告白もできずに終わったわ! いやいいんだよそんなことは。俺そんなんで起きてきたわけじゃねえし」
懐かしいな片山先輩。今元気にしてんのかな。高橋のせいで変なこと思い出しちゃったじゃねえか。とりあえず俺がボケルト王国にいる限りは片山先輩との再会もあり得ないんだけどな。
「では玄司様は何故起きてきたんです? 何か痔になることでも?」
「気になることだろ! なんで俺夜中に突然ケツ痛くなるんだよ! いやな、あのマヨネーズ容器の犯人を見つけたいんだよ」
「ああ、ランオウですね」
「名前知ってんのかよお前! 早く言えよ!」
「彼ならそろそろ来ると思いますよ。あと2、3時間したら」
「お前そろそろって言葉知ってる!?」
「いやあ、それにしてもいい夜ですね。あ、見てください玄司様。流れブラックホールが見えますよ」
「怖すぎるだろ! なんでブラックホール流れて来るんだよ! 大災害じゃねえか!」
「ああ違いますよ。流れ星みたいに流れるんじゃなくて、竹でできたレールに乗って流れて来るんです」
「そんなそうめんみたいに流すなよブラックホール! 何それ箸で取ってつゆ付けて食うの!?」
「ブラックホールを食べるわけないじゃないですか。何言ってるんですか玄司様」
「なんだお前この野郎! じゃあややこしい流し方すんなよ!」
「その話は一旦流しますね」
「やかましいわ! 上手いこと言うな!」
そのまま結局高橋と話し続けることになり、マヨネーズ容器の犯人を待つ俺は、高橋から無駄に星座の話を聞かされた。
お弁当箱座、さっきのとは別のおにぎり座、刻み生姜座、ごま塩座、ニンジン座、さくらんぼ座、ゴボウ座、しいたけ座、穴の空いたレンコン座、筋の通ったフキ座なんかがあるらしい。完全にお弁当箱の歌じゃねえか。何を夜空で完成させてんだこいつらは。
「それであっちの星座はおにぎりケース座なんですが……」
「とりあえず三角形を全部おにぎり関連にするのやめられねえの!? 発想の幅が狭すぎるだろ!」
「そんなこと私に言われても、ボケルト王国で星座を作ったのは私の父なので……」
「じゃあお前なんとかできただろ! 止めろよ正式決定の前段階で!」
そんな時、真っ黒に見えている少し離れた茂みから、ガサガサと音がした。来たか……?




