第76話 フンシツの後ろ
フンシツの馬車の後ろに、俺と高橋を背に乗せたウマシカが続く。あいつはすぐ何か落とすからな。俺たちが後ろにいてやらないとな。
「へえー、それであの商人と一緒に王都に向かうことになったんすか。びっくりしたっすよいきなり走り出すから」
「お前がもっと足早ければ良かったんだけどな。お前ゆっくりしか進めねえだろ」
「酷いっすよ救世主様! 俺っちだって頑張ってるんすから! 本気で走ったら動く歩道ぐらいのスピード出るんすからね!」
「遅すぎるだろ! 普通に歩くより遅いじゃねえか! 走るって知ってるお前!?」
「玄司様、私はバック走で50メートルを走ると2時間18分59秒かかります」
「分かったわもう! お前とりあえずバック走で進むのやめたら!?」
「いや別に普段からバック走してるわけじゃないですよ。何言ってるんですか」
「なんだお前この野郎! じゃあ普通にも走れんだな!?」
「当たり前じゃないですか。普通に走ったらちゃんと50メートルを10秒87で走れます」
「遅いわそれでも! お前そんなバケモノみたいな見た目で鈍足なの!?」
「玄司様、バケモノ『みたい』ではありません。バケモノです」
「自分でそこ訂正するんだ!? こんなに自分がバケモノなことに対して前向きなやついる!?」
こうして高橋やウマシカと話している間にも、フンシツはどんどんものを落としていく。人参にじゃがいも、たまねぎに鶏肉、バターとカレールーなんかだ。なんでこいつバターチキンカレー作ろうとしてんだよ。よくもまあこんなに食材ばっか落とせんな。
俺たちはフンシツが落としたものを交互に拾いに行き、馬車の中に投げ込んでいく。いちいち馬車止めてたら進まねえからな。大きなカゴを用意してもらって、落としたものはそこに放り込んでいくことにしたんだ。
「しかし玄司様、あのフンシツという男、ものを落としすぎじゃないですか? こんなに落としていたら、1番落ちるのはスピードじゃないですか」
「やかましいわ! 上手いこと言うな! まあフンシツはそういうやつなんだし、俺たちがサポートするって言ったんだから、そこはしっかりやってやろうぜ」
「そうは言われましても……。私はもっと早く進みたいんですよ」
「どうしたんだよお前。今までそんなに焦ってなかっただろ?」
「どうしたも猫舌もありませんよ」
「そこは『どうしたもこうしたも』だろ! なんで今熱いものに弱い話したんだよ!?」
「いや、昨日ホットマヨネーズを飲んだら火傷しちゃいまして」
「何ホットマヨネーズって!? そんなココアみたいに飲むもんなの!?」
「え、玄司様ホットマヨネーズ知らないんですか? マヨネーズを温めて飲むんです」
「うんそれは字面で分かるけども! その行為の意味が理解できねえんだよ!」
「まあそれはいいんですよ。で、ホットマヨネーズを飲んでたんですね。そしたら食道を火傷しちゃって」
「舌じゃねえのかよ! なんで食道火傷するレベルで熱いもん飲んで舌は無事なんだよ!」
「安心してください。ちゃんと舌は焼けただれましたよ」
「安心できるわけねえだろ! え、お前舌焼けただれてんの!?」
えぐいことになってんじゃねえか……。いやいやちょっと待て。俺ホットマヨネーズの話なんかしてねえんだわ。なんだよホットマヨネーズって。
そんなことより、なんで高橋が急に早く進みたがってるのかを聞きたいんだよ。こいつと話してるとこんなに話逸れるんだよ。
「それで高橋、お前はなんでそんなに早く進みたいんだよ?」
「もちろん、早く王都に行きたいからです。王都にはとんでもない施設があるのをご存知ですか?」
「とんでもない施設……? なんだよそれ?」
「いいんですか聞いて。これを聞いたら耳が飛び出しますよ」
「大体目だろそういう時は! なんで耳なんだよ!」
「そりゃ、『イヤー!』って叫ぶほど驚くからです」
「やかましいわ! ダジャレじゃねえか! いやお前、勿体ぶらずにさっと教えろよ」
「分かりました。実は王都には、タルタルソースの手作り体験ができる施設があるんです」
「めちゃくちゃどうでもいいわ! 勝手に作ってろよそんなもん!」
「あとラバーネームタグのワークショップができる施設もあるんですよ」
「なんでそんなもんあるんだよ! ギャルか! 今どきのギャルか!」
「玄司様、これはギャルではありません。ギャグです」
「分かってるしメタすぎるわ! お前が言っちゃいけねえ言葉だろそれ!」
「私が言ってはいけない言葉は、リクライニングシートだけです」
「リクライニングシートに何したのお前!?」
「いやちょっとマヨネーズをかけて食べようとしただけなんですが」
「じゃあ恨まれるわ当然! リクライニングシートに謝れ!」
「ごめんなさいニングシート」
「なんださいニングシートって! 一発ギャグで謝んなよ!」
そんな会話をしながらも、フンシツはどんどんものを落としていく。俺たちはフンシツの落としものを交互に拾いながら、ゆっくりとしたペースの馬車の後ろを着いていく。
これは……遅いな。高橋じゃないけど、これは確かに急ぎたくもなる。でもこのフンシツ、ちょっと放っておけないんだよなあ。このまま放っておくと良心が痛むと言うかなんと言うか……。
ま、どうしても急ぐわけじゃないし、のんびり行けばいいだろう。
フンシツの落としものを拾いながら、俺たちはゆっくりと、だが着実に王都へ向かっていた。




