第73話 宿で迎える朝
『ストラーイク!!』
ボールが転がる重い音と、やかましいシステム音声で目を覚ます。
うるせえんだよ朝から。誰だよこんな起き抜けにボウリングしてるやつ。よく早朝寝起きでボウリングできるな。平衡感覚バケモンかよ。まあどうせ高橋の仕業なんだろうな。
目を開けて上半身だけ起こし、周りを見る。しかし高橋の姿はそこには無い。隣のレーンには、ストライクを連発しているウマシカの姿があった。
「いやなんでお前なんだよ! よくお前その蹄でボウリングできんな!?」
「いやーボウリングって楽しいもんっすね。初めてやったっすよ! ウシガエルの世界にはこういう娯楽は無いっすからね!」
「そういやお前ウシガエルだったな! ややこしいんだよ名前と種が!」
「救世主様もどうっすか寝起きボウリング。1発で目が覚めて気持ちいいっすよ!」
「なんで起き抜けにそんな重いボール持たなきゃいけねえんだよ! いやそれはどうでもいいんだけどさ、ウマシカお前高橋知らねえか?」
「え? 高橋ならそこに居るじゃないっすか」
「そこってどこだよ。どこにもいねえだろ」
「いやいや、よく見てくださいっすよ! ピンの真ん中!」
「ピンの真ん中……? うわあああああ!!」
レーンの先にあるピンを見ると、1つだけ2メートルほどありそうな赤いピンがあり、ピンの上部に空いた穴からは鬼が顔を出していた。
「おいこら高橋お前何やってんだよ! ボウリング場で鬼がピンのコスプレしてるとかホラーすぎるだろ!」
「おはようございます玄司様。爽やかな朝ですね」
「お前のせいで爽やかじゃねえんだわ! 何お前まさかその状態で寝てたの!?」
「そんなわけないじゃないですか。寝る時はちゃんと白のピンでしたよ」
「コスプレの色聞いてねえよ! 赤のピンだろうが白のピンだろうが関係ねえだろ! なんでお前いつも布団で寝ないの!?」
「いやー、前も言ったと思うんですけど、私布団だと興奮して眠れないんですよね。ほら、布団って英語でエキサイティングシートって言うじゃないですか」
「言わねえよ! 布団は英語でも布団だわ多分! なんだエキサイティングシートって!」
なんでこいつ寝る時に1番ボケるんだろうな……。そんな体張ったボケされても、俺が驚くだけなんだが。いやそれが目的なのか?
そんなことはまあいいんだが、今日もとりあえず山を越えるために進まなきゃいけないからな。ボウリングに色々持って行かれてたけど、俺たちの今の目的はズッコケ山を越えることだからな。
「カリヤドにお礼言ってこれ畳んでもらわねえとな。おい高橋、ウマシカ、カリヤド知らねえか?」
「ああ、昨日夜食に茹でて食べましたよ」
「何やってんのお前まじで!? 恩人だろあいつ!?」
「いやあ、美味しそうだったので。エビみたいな味がしましたよ」
「味の感想は今いいわ! え、お前まじで食ったの!?」
「そんなわけないじゃないですか。食べる直前で思いとどまりましたよ」
「茹ではしたのかよ! 相変わらず人の心ねえなお前!」
何やってんだよこいつ……。まあでも、とりあえずカリヤドは生きてるってことでいいんだよな。なんでこんな心配しなきゃいけなえんだよ。理不尽が過ぎるだろ。これでカリヤド食われてたらこの先この宿使えねえんだからな?
呆れていると、湯気を立てながら真っ赤になったカリヤドが入って来た。
「ほんとに茹でられてる! 可哀想に!」
「いやあ〜、死ぬか思たでな。久々にあんな熱い風呂入ったわ」
「風呂っていうか鍋だろ! 食われかけてたぞお前!?」
「兄ちゃんら、そろそろ出発やろ? ワシ簡易宿畳んどくから、出る準備しいや」
「え、いいのか? 俺たち何にもまだ片付けてねえけど……」
「ええねんええねん! 簡易宿の扱いはワシが1番慣れとるし、ワシが片付けるんが1番早いやろ? そこはワシに任しといてや! バナナボートに乗ったつもりで」
「すぐ転覆しそうだけど!? そんなに自信ねぇのかよ!」
「いや、この簡易宿は最近バージョンアップしたばっかりで、まだちゃんと畳んだこと無いんや。やから自信があるかって言われたら、まあ無いわな」
「頼りねえな! よくそんなんで宿屋やってんなお前は!」
大丈夫なのかよ本当に……。まじでこのまま任せて大丈夫か? まあ俺たちは何もできねえから、あいつに任せるしかねえんだよな。
カリヤドの言葉に甘えて、俺たちは出発の準備するか。
「高橋、ウマシカ、とりあえず俺たちは準備するぞ」
「待ってください玄司様。今売店でマイボール買ってるんです」
「何やってんだお前は! 重くて仕方ねえだろそんなもん!」
「いやでも、これからこの宿にしばらく泊まるわけじゃないですか。マイボールがあった方がモチベーション上がりません?」
「上がらねえよ! そんなもん持ってて旅のモチベ上がるわけねえだろ!」
「ああ旅じゃないです。ボウリングです」
「ボウリングのモチベ上げてどうすんだよ! 本来の目的どこ行ったんだよ!?」
「ああ、さっきトイレに置き忘れてありましたよ」
「適当に喋んな!」
高橋の手からマイボールを叩き落としてレーンに向かって投げ、ストライクを取った俺は、簡易宿から外に出た。




