第72話 寝床
「おいカリヤド、これ俺たちどこで寝たらいいんだよ?」
「ああすまんな、説明してへんかったな。ボールが戻って来るとこ、ボールリターンっちゅうやつやねんけどな。そこにあるボタン押してみ」
「これか……?」
俺がボタンを押すと、突然レーンが回転を始めた。ええ……? 何が起こってんだよこれ。まさかこれ、180度回転したらベッドが出てくるとかそういう感じか?
だとしたら回りくどすぎるだろ。素直にベッドだけ置いててくれたらそれで良かったわ。
レーンが180度回転すると、そこに現れたのは座椅子と机が人数分置いてある、畳の空間だった。
「なんで和室なんだよ! この感じで旅館スタイルなの!?」
「せやで。この方がなんか落ち着くやろ?」
「いやジャパニーズスタイルすぎるって! なんでお前が日本文化知ってんだよ! 旅館で落ち着くの日本人だけだよ!」
「玄司様、私の先祖のルーツは津市ですが、私は洋室の方が落ち着きます」
「知らねえよ! お前の好みだろそれは! 今関係ねえから黙ってろお前!」
「ちゅうことで、休む時はピンの奥に布団あるからそれ出してや。座椅子と机は移動してもらってかまへんからな」
「なんで景色はボウリング場のままなんだよ! もう別で用意したら良かっただろ!」
「いやでも、そこはワクワク感と言うかな、落ち着くだけやったら普通の宿やんか」
「普通の宿で何が悪いんだよ! テントを想像してたから、和室はむしろ普通よりも上なんだよ! ボウリング場は遥か斜め上だけどな!?」
「玄司様、私的には斜め上と言っても、角度は4度ぐらいだと思います」
「なんでそんなギリギリなんだよ! ほぼ平行じゃねえか! 何お前テントの中ボウリング場で想像してたの!?」
「いえ、ゴルフ場です」
「外でやれよ! なんで中でやるんだよ! 仮にゴルフ場だったらお前どうするつもりだったの!?」
「そりゃもう、ホールインゼロポイントファイブを狙いますよね」
「なんでホールインワンですらねえんだよ! 0.5ってどういうこと!?」
「そりゃもう、クラブをスイングするじゃないですか。ボールに当たるじゃないですか。普通は当たったら振り切るんですけど、ホールインゼロポイントファイブは振り切らずに当たった瞬間止めるんです」
「なんでそんな無駄なことを!?」
いやゴルフ場の話は別にどうでもいいんだよ。今はボウリング場の真ん中に和室が出現した話をしてんだよ。高橋がいるとどうもこうなるなあ。なんとかならねえかな本当に。
早速畳に寝転びながらストライクを取る高橋に対して、ウマシカは和室を前に戸惑った様子を見せている。
「どうしたんだウマシカ? お前はくつろがないのか?」
「いや救世主様、俺っちはここに乗っていいんすかね? 一応俺っちの蹄って外歩いてたわけじゃないっすか。靴みたいな扱いになると思うんすけど、畳は靴で上がっちゃダメっすよね? 確か抗菌靴下を履いてないと」
「そこまでしなきゃいけねえの!? いや別に日本人でもそこまではしねえよ。普通に靴脱ぐだけだよ」
「でも俺っちは蹄を脱げないっすからねえ……。困ったもんすね。どうしたらいいんすかね」
「確かにそれは困ったな……。おいカリヤド、ウマシカが寝られるスペースとかねえのか?」
隣のレーンで畳に寝転がり、ガターを連発していたカリヤドは、のそのそと起き上がってこちらにやって来た。
「いや何してんだよお前! 寝転がってボール投げるならせめて上手くあれよ!」
「いやあ、ワシボウリング下手くそなんや。昔っからボウリングが苦手でなあ。やりたくない意識が強いんや」
「じゃあなんでこの簡易宿ボウリング場にしたの!? バカなの!?」
「そこの馬が寝れるスペースやろ? 任しといてや兄ちゃん、用意してあるに決まってるやろ」
「おお、そうなのか。それは助かるわ。で、ウマシカはどこに寝ればいいんだ?」
「馬にはキングサイズのベッドを用意してあるで! もちろん、蹄のまま上がれるように最初っから蹄の足跡をデザインしてあるで」
「ユニークな配慮! いや確かにそれならウマシカも気にせず寝られそうだけど!」
「で、ちゃんと天蓋付きや。馬用のネグリジェも用意してあるしな」
「プリンセスか! なんでそんな豪華仕様なんだよ! 俺と高橋はボウリング場のレーンに現れた和室なのに!?」
「まあまあ、寝られるだけいいじゃないっすか。ここなら見張りとかもしなくていいっすよ? あ、でも畳に布団だとベッドが恋しくなるっすかね〜?」
「急に性格悪くなんなよ! さっきまで素直なバカでいいやつ感出してただろ! お前のキャラ的にその言い方は損でしかねえぞ!?」
「玄司様、私も出そうと思えば体から蹄を出せるんですが、ベッドで寝てもいいですか?」
「蹄出せるって何どういうこと!? 急に足が蹄になんの!?」
「いえ、鼻が蹄に」
「鼻が蹄に!?」
もうめんどくせえからいいや。ウマシカが言うから腹立つけど、ウマシカの言う通り寝られるだけありがたいもんな。ボウリング場の景色がやかましいけど、目瞑っちゃえば関係無いし。明かりも消せばいいしな。
「では玄司様、ここまでの疲れを癒すために、今日はもう寝ましょう」
「そうだな。布団敷いて寝るか」
「そうですね。枕が12ポンドか13ポンドか選べますけど、どうします?」
「枕重すぎるだろ! それボールの重さじゃねえの!? 13ポンドの枕とか重すぎてヤンデレの夢見るわ!」
「え、重い枕だとヤンデレが夢に出るんですか?」
「例えだから! ある程度ニュアンスで伝わってくれる!? 恥ずかしい!」
とりあえず布団を敷いて横になる。ああ、布団ってこんなに温かかったんだな。久しぶりの布団の感覚に、俺はすぐ眠りに落ちてしまった。




