第70話 救済
せっかくカリヤドが簡易宿を設営してくれたのに、高橋がソリティアに俺の金を全部課金したせいで、宿に泊まることができなくなってしまった。
なんでそんなことになるんだよ……。俺の財布に入ってた金なんて大した金額じゃないけど、それにしたってカリヤドの簡易宿に泊まるぐらいはできる額が入っていた。
「はあ……。じゃあ今日はまた野宿か……」
「安心してください玄司様。落ち込んでいる玄司様に、私からいいニュースと緊急地震速報があります」
「地震起きてんの今!? もう山にいるから助からねえじゃねえか!」
「ああ、緊急地震速報があるだけで、地震は無いですよ」
「じゃあなんで緊急地震速報はあるんだよ! 速報じゃねえよそれは! フェイクニュースだよ!」
「それではニュースを伝えますね。午後17時28分頃、コボケ町を震源とした地震が発生しました」
「地震速報はいいから早くいいニュースを言えよ! 地震ねえんだろ!?」
「分かりました。ではいいニュースをお伝えしますね。たった今、オトボケ村で温泉事業を展開するオンセンから、玄司様の口座に……あーっとここで臨時ニュースが入って来ました!」
「サッカー実況みたいな入り方! そんなテンションで臨時ニュース入んの!?」
「指名手配犯の高橋ですが、ズッコケ山に入るところを目撃した人が多数いるそうです。ズッコケ山周辺にいる人は十分注意してください」
「お前そんな悪いやつなの!? 指名手配されてるんだ!? ちょ、もうそれはいいからさっさといいニュースを言えよ」
「トマトジュースは体にいいそうですよ」
「いいジュースを言えっていってんじゃねえよ! ニュースを言えよ! さっきまでニュースできてたじゃねえか!」
「続いてのシューズです」
「靴はいいって! あとさっきのニュースの続きを言えよ!」
めんどくせえな相変わらずこいつは……。俺の口座に何があったんだよ。ていうかそんなこといちいちニュースにすんなよ。原稿に俺の名前書いてあんのが恥ずかしいわ。
「では先ほどのニュースの続きです。オンセンから、玄司様の口座にアドバイザー料が振り込まれました」
「え、まじで!? じゃあカリヤドの簡易宿に泊まれるってことか!?」
「ああいや違いますよ。またソリティアに課金できるということです」
「クソ野郎だなお前は! 勝手に俺の金使うなって! バカなのかよ!?」
「俺っちは馬鹿じゃないっすよ! ウマシカっす!」
「お前は黙ってろ! 今お呼びじゃねえんだわ!」
でもこれでカリヤドの簡易宿に泊まれるな。1ヶ月のサブスクだから、山を越えるまで宿に泊まれることが確定したってわけか。助かった……。
「では玄司様、とりあえずお金を引き出しましょう」
「待てよ高橋、今思ったけど、こんな山の中でどうやって金なんか引き出すんだよ。そもそもこの世界に来てから銀行なんて見てねえぞ?」
「大丈夫ですよ玄司様。私が玄司様の名義でデビットカードを作っておきました。これで支払えば引き出さなくてもいいですよ」
「お前何勝手に人の名義でカード作ってんの!? いつの間にそんなことしてたんだよ!」
「オトボケ村で牛の群れに追いかけられていた時についでに作りましたよ」
「めちゃくちゃ序盤じゃねえか! 牛に追いかけられながらよくそんな余裕あるな!? だからあの時帰って来るの遅かったのかよ!」
「さあ玄司様、これで支払いを」
そう言って高橋が差し出して来たのは、ICチップが付いたカード。マヨネーズに目玉焼きが乗った絵が描いてあるデザインだ。
「クソみたいなデザインだなおい! なんでこんなデザインなんだよ!」
「だってせっかくカードを作るんですから、自分の好きなデザインにしたいじゃないですか」
「うん自分のだったらな!? でもこれ俺のなのよ! お前が勝手に作っただけで、使うの俺なのよ! 俺の好きなものにしてくれたら良かったのに!」
「玄司様の好きなものと言うと……ベーゴマですか?」
「昭和男児か! そんなもんカードにデザインしねえよ! ピアノだピアノ!」
「ああ、ピアノってあれですよね。ものを運ぶ時とかに使われる、厚紙でできた箱のことですよね」
「ダンボールじゃねえか! だからお前もっと語感近いもんと間違えろよ! ダンボールと間違えられたピアノの気持ち!」
「ソファソー、ソファソーって感じですかね」
「ポテトが揚がった時の音じゃねえか! なんでお前がそんなこと知ってんだよ!」
とりあえず高橋からデビットカードを受け取った俺は、カリヤドの方へ向き直った。カリヤドはにまにまとした笑みを浮かべながら、両のハサミを手もみのように動かしている。
「カリヤド、カードって使えるか?」
「もちろんやで! カードでも電子マネーでもなんでも使えるで! 今はマッチレスの時代やからな!」
「キャッシュレスだろ! マッチ減らしてどうすんだよ! ライター使うだけじゃねえの!?」
「でも兄ちゃん、最近は電子タバコが主流やで」
「知らねえよ! タバコ事情の話今してねえから!」
まともに話ができるやつはいつ出て来るんだよ……。この国は本当にボケるやつしかいねえんだな。しかもなんかだんだんキャラが濃くなってきてるような……。
まあとりあえず泊まれるならなんでもいいや。ここ最近は野宿で見張りもやってたから、体は痛いし寝不足だ。今日はゆっくり休んで、明日からの旅路に備えよう。
俺は高橋に渡されたデビットカードで簡易宿のサブスクに登録し、カリヤドから領収書を受け取った。
「ほな兄ちゃんら、簡易宿の中に案内するで! びっくりしすぎて髪抜かしたらあかんでえ?」
「そういう時は腰だろ抜かすの! なんで宿に入るだけでハゲなきゃいけねえんだよ!」
「玄司様、ハゲにだってちゃんと人権があるんですよ」
「分かってるわ! 俺ハゲにそんな酷いこと言った!?」
高橋とウマシカを引き連れた俺は、カリヤドの背中を追って簡易宿の中に入った。




