第67話 前進
「ふう……ふう……。救世主様、この辺でそろそろ休憩入れるのはどうっすか?」
「いやお前今歩き出したとこだろ。もうちょっと頑張れよ」
「でも俺っち疲れたっすよ。そもそも俺っち、馬じゃないんすからね。体は鹿なんすからね。馬と鹿とウシガエルのハイブリッドなんすよ」
「ウシガエル要素どこだよ! 馬と鹿だけで良かっただろ! お前ウマシカって名前なんだから!」
「玄司様、ウマシカの母親はウシガエルです」
「ああそうなんだ!? じゃあむしろなんで馬と鹿の要素が強く出てんのか不思議なんだけど!? なんでお前そんなこと知ってんの!?」
「ああ、玄司様がトイレに行っている間にいろいろ話したんですよ。だからウマシカも突然玄司様のことを救世主だと認識しているでしょう?」
「確かにな!? いつの間にこいつにそんな話したっけと思ってたけど、お前がしてたのかよ! 余計なこと話してねえだろうな!?」
「話すわけないじゃないですか。玄司様が高校生の時に好きな子に告白したら、テンパりすぎて『好きです』というところを『武士です』と言ってしまって、あだ名が『頼経』になったことぐらいしか」
「話してんじゃねえか! なんでお前それ知ってんだよ! 俺の高校時代の黒歴史!」
いやまじでなんで知ってんだよこいつ。俺と同じ高校のやつしか知らねえやつじゃねえか。確かに学校ではめちゃくちゃ広まってたけどさ。たまたま刀の形したボールペン持ってたから、『刀狩り』とか言われて先生に没収されたけどさ。なんで先生までイジってんだよ。噂広まりすぎだろ。
「まあいいわもう。高橋とウマシカは仲良くなったってことでいいんだな?」
「そうっす! 俺っちと高橋は犬猿の仲っす!」
「じゃあめちゃくちゃ仲悪いじゃねえか! お前それ意味分かって言ってる!?」
「玄司様、ボケルト王国では犬と猿は協力関係にあります。猿と仲が悪いのは、ラクダです」
「確かにオトボケ村でオンセンとフタコブが喧嘩してたけども! あれ種族的にもう仲悪いんだ!?」
「そうすっよ! あと馬と鹿も仲悪いっす!」
「じゃあなんでお前生まれたんだよ! 親の顔とか知らねえの!?」
「玄司様、ウマシカの母親はウシガエルです」
「ああそうだったな! ややこしい生い立ちしてんなお前は! じゃあ父親の馬は鹿と仲悪いのか?」
「何言ってるんですか玄司様。ウマシカの父親はウシガエルです」
「じゃあこいつ純ウシガエルじゃねえか! どうやって馬と鹿の特徴持って生まれたんだよ! ……なんだ純ウシガエルって!」
めちゃくちゃだなウマシカの生い立ち……。何があってこの見た目になったんだよ。突然変異にも限度があるだろ。
まあでも、こんなアホみたいな話をしてたら勝手に進んでるのはありがたいな。自分の足で歩いてたら、もっと疲れてるところだった。
ゆっくりとハイキングコースを進んで行く俺たちは、もう山越えなんて気分ではなく、ただのんびりと山道を進んでいるだけに感じていた。
こんなんでいいのかな。すげえのんびりしてるような気がするんだが……。まあでも、これから王都で大変な仕事が待ってるんだからな。少しぐらいリラックスしておかないと、この先保たないだろう。
今日もまた日が沈み始めて、ウマシカは一旦歩を止めた。
「ぜえ……ぜえ……。お、俺っちもう限界っす……。寝たいっす……。寝て夢の中であんたらをゲームセンターに……」
「まだ勧誘しようとしてんの!? 俺たちを勧誘しなくても王都にいっぱい勧誘できるやついるから! とりあえず王都目指せばいいだろ!」
「玄司様、今日はこの辺で進むのを止めておきましょう。これ以上進むと、夜行性のニワトリが出て来るかもしれません」
「そんなのいるんだ!? やかましい夜だなそれ! 別にそいつ俺たちが進まなかろうが勝手に鳴いてんじゃねえの!?」
「そんなことありませんよ。夜行性のニワトリは、夜に起きてきてマヨネーズの匂いに反応するんです。私たちが進むと、マヨネーズの匂いにつられてやって来る確率が高いです」
「じゃあもうマヨネーズ捨てろよお前! お前がいなきゃ進めんじゃねえか!」
「ですが玄司様、マヨネーズは貴重な水分。ここで捨ててしまうと、その辺にある売店で水を買うことになってしまいます」
「買えば良くねえ!? マヨネーズ飲んでる方が気持ち悪いけど!?」
とりあえず高橋とウマシカの言う通り、今日はここで野宿をすることになった。しかしこの生活を1ヶ月か……。今まではタワマンとかホテルで寝てたから、かなりきついものがあるな。まあ異世界なんだからこれぐらい耐えなきゃいけないんだろうけど。今までがおかしかったんだと思おう。
昨日と同じように焚き火の準備をしていると、カサカサと何か小さなものが歩いて来るのが見えた。
「ん? なんだあれ?」
「ああ、あれは道というものです。英語で言うとroadです」
「道について聞いてんじゃねえよ! お前俺が道知らねえと思ってたの!?」
「え、道のこと知ってるんですか? 知識が満ち満ちてますね」
「やかましいわ! そんなことはどうでもいいんだよバカ! あれ見えねえのお前!?」
小さなものは少しずつこっちに近づいて来ていて、その姿が明らかになる。貝殻のようなものを背負ったそれは、ヤドカリとしか言い様が無かった。




