第66話 山の夜明け
「ヂュン!! ヂュンヂュン!! ヂュンヂュンヂュン!!」
なんだよ、やたらうるせえ鳥がいるな……。なんか罠とかに捕まったりしたのか? なら助けてやらないとな……。
体を起こして周りを確認すると、2メートルほどの赤鬼が、両手をばたつかせながら鳴いている姿があった。
「ヂュンヂュンヂュン!! ヂュンヂュンヂュンヂュン!!」
「うるせえなお前! 何騒いでんだ高橋!」
「あ、おはようございます玄司様。お早いお目覚めで」
「お前のせいだよバカ! 何やってんのお前まじで!?」
「え、鳴き真似ですけど」
「『ですけど』じゃねえわ! なんだそのやかましい鳴き声は!? 知らねえぞそんな鳥!」
「ああ、鳥じゃありませんよ。スズムシです」
「そうだったの!? この世界のスズムシそんな不快な音出すんだ!?」
「そうなんですよ。真夏の夜に群れでこの音を出すので、おちおち寝てもいられないんですよね」
「もう秋ですらないんだ! 多分地球にいるやつとは全然違うんだろうな! いやまあそれはどうでもいいわ! なんでお前こんな朝っぱらから鳴き真似なんかしてんだよ!?」
「え、暇だったので」
「じゃあ静かに暇つぶししろよ! お前さっきまでソリティアとかやってたじゃねえか! あれどうしたんだよ!」
「流石に飽きましたよ。もう14年も毎日やってるんですから」
「そうなんだ!? むしろその14年間1回も飽きなかったのがすげえわ! バカだなお前は本当に!」
なんで暇つぶしでスズムシの鳴き真似(騒音)やるんだよ。人に迷惑かける才能だけは飛び抜けてんなこいつ。マヨネーズ盗んだりホテルの部屋に忍び込んで血で手形付けたり……。
うんなんでこいつが救世主を導く存在とされてるんだろう? 改めて考えたらまじで意味分からねえな。いや多分他のボケルト人でもツッコミ疲れはしてたんだろうけどさ。高橋が相棒だと捕まらねえかヒヤヒヤなんだよ。警察とかねえのかなこの国。
「まあ一旦鳴き真似は置いといてだな……」
「鳴き真似を置いておくんですか? またどこかで拾ってもいいですか?」
「1回置いたんだからもう拾い上げんなよ! そんな引っ張るネタでもねえし!」
「いやでももう拾っちゃいましたよ。どうしたらいいんですかこの鳴き真似は」
「かなぐり捨てろそんなもん! 拾う価値ねえよ!」
「分かりました。ではアンダースローから繰り出される138キロで……」
「マヨネーズの空容器と同じスピードじゃねえか! スっと捨てろよめんどくせえな! いやそんなこと言ってんじゃねえよ!」
なんでこいつほとんど寝てないのにこんなに絶好調なんだよ……。おかしいだろほんと。だって俺が見張りしてる間もずっとソリティアしてたんだぜ? 全然寝てないだろうにこんなに元気なのは、やっぱり人間じゃないからなのかな。まあそれはいいや。
「それで高橋、見張りをしてる間に何か変わったことは無かったか?」
「特にはありませんでしたね。ちょっと太陽が昇ってまた沈んでを2、3回繰り返しただけです」
「え、待って今もう3日ぐらい経ってんの!?」
「そうですよ。玄司様もお疲れだったんですね。まあ確かに、コボケ町を出た時もほとんど休んでませんでしたもんね」
「いやそんなのはどうでもいいけど、起こせよお前! 何普通に3日も寝かせてんだよ!」
「いやあ、せっかくぐっすり眠っておられたので、起こすのも野暮かなと思いまして」
「それで3日間ずっと見張りしてたの!? どこ健気なんだよ!」
まじで言ってんのこいつ……? じゃあ俺3日間眠り続けてたのか? いや確かに高橋の言う通り、コボケ町でビタミンのぎっくり腰を治してからすぐにズッコケ山に来たから、全然休めてはなかったんだけども……。
いやそれにしても寝すぎじゃねえ俺!? そんなに寝ることある!? 地面だよだって!?
「なあ高橋、本当に何も無かったのか? 自分が3日間も眠ったなんて信じられないんだが」
「そりゃ信じられるわけないじゃないですか。嘘ですもん」
「嘘なのかよ! なんだお前この野郎! 何のための嘘なんだよ!」
「でっぷりです」
「ドッキリだろ! なんだその100キロはありそうな擬態語は!?」
俺たちが騒いでいると、焚き火の横で眠っていたウマシカが起きてきた。いや割と今までも騒いでたけどな? よく起きなかったなこいつ。
「おはよーっす! 今日も元気にゲームセンターにお金を落としに行くっすよー!」
「行かねえよ逆戻りじゃねえか! お前さては寝ぼけてんな? お前はもうゲーセンを出て、王都に向かってる途中だぞ?」
「え!? ……ああ! そうだったっすね! すんません、夢の中であんたらをゲームセンターに勧誘するのに成功したもんで……」
「お前夢の中でもキャッチやってんだ!? 仕事に対して真面目すぎるだろ!」
「それはいいんすけど、俺っち気になることがあるんすよ。実は夜中に何回か目を覚ましたんすけど、高橋と誰かが何度か喋ってるのが見えて……」
「は!? おい高橋、お前何も変わったことは無かったって……」
「変わったことは無かったですよ。あのマヨネーズの空容器を置きに来た人とより親睦を深めましたけどね」
「お前まじ何やってんの!? 不審者と談笑すんなよ!」
「ちゃんと離婚歴まで聞き出しましたよ」
「気まずい内容聞いてんなお前!? いやそんなこと聞かなくていいから追い払えよバカ!」
「バツ68でした」
「結婚しすぎだろ! 寿命の方が保たねえだろ普通! 何そいつエルフか何か!?」
「救世主様、それはエルフに失礼っすよ。ボケルト王国のエルフは結婚せずに遊び続けるっすからね。チャラフって呼ばれてるっす」
「お前の方が失礼じゃねえか! なんだチャラフって!」
何やってんだ高橋のやつ……。でもそのマヨネーズの空容器を置きに来たやつは、一体何が目的なんだ……?
もやもやしながら俺はウマシカの背中に跨り、再びハイキングコースを進み始めた。




