第62話 馬鹿の正体
俺たちの後を不自然に着いて来る謎の茂み。あれは一体何なんだ……? 確実に怪しいけど、露骨に反応するのも怖い。高橋に相談してみるか。
俺は前を歩く高橋に、小声で話しかけた。
「なあ高橋、あの茂み、どう思う?」
「え!? 茂みですかあ!? 茂ってるんじゃないですかねえ!」
「お前バカなの!? わざわざ小声で話しかけたんだからデカい声出すなよ!」
「あ、ここ声張るところじゃなかったですか? ちゃんと気合いを示さないとと思って」
「運動部か! そんな気合い今要らねえわバカ! 空気読めよもっと!」
「今ここの空気には『綿100パーセント』と書いてありますね」
「そんな肌に優しい空気ねえよ! 何お前空気着んの!?」
「いえ、1回試着したんですけどもうちょっと悩もうかなって」
「何をだよ! 空気買おうとすんな!」
「多分また戻って来るので、取り置きとかお願いできますか?」
「空気を取り置きすんな! そこら辺にいっぱいあるんだからわざわざ取り置くなよ!」
いやそんなこと言ってるんじゃねえよ。俺たちの後ろに着いて来てる茂みのことを言ってるんだよ。あれが何なのか分からないと、おちおち進んでもられねえだろ。
とりあえず高橋にあの茂みに特攻させてみるか?
「おい高橋、あれが何か探って来てくれよ」
「え、別にそんなに気にしなくても良くないですか? あれ多分馬鹿ですよ」
「なんだその適当な推測! あと今まで俺が言うバカの表記カタカナだっただろ! 急に漢字にすんな!」
「ああ違いますよ玄司様。馬鹿です馬鹿」
「はあ? 何を言ってんだよお前は」
「ほんとっすよねー。意味分からないこと言われても困るっすよ」
「そうだよ! 突然馬鹿だとか何だとか言われてもこま……お前誰だよ!?」
突然会話に入って来たそいつの方を見ると、そこには馬のような動物が立っていた。顔は完全に馬なんだが、なんかちょっと体がヒョロいような……。
「あ、どもっす! 俺っちはウマシカっす! よろしくっす!」
「ウマシカ!? え、高橋が言ってた馬鹿ってまさかこいつのことか!?」
「ああいえ、単に茂みに隠れてるから馬鹿なのかなと」
「全然鋭くなかった! じゃあ何の漢字表記だったんだよ!」
「それはあれです、私もまた馬鹿だからです」
「自覚はあったのかよ! じゃあもうお前とりあえず黙ってろよ!」
高橋が自分の口を足で押さえているのをスルーし、俺はウマシカの方に向き直る。いややっぱスルーしないでおこうかな。でもめんどくせえしな。とりあえずほっとこう。
「それで、ウマシカだっけか? お前は俺たちに何の用なんだよ?」
「何の用ってほどでもないんすけど、俺っちこの見た目じゃないっすか。で、今からあんたら山越えするんすよね?」
「え、もしかして乗せてくれるのか?」
「ああ違うっす。俺っちはそこのゲームセンターで働いてるんすけど、今クレーンゲーム1回無料券あるんでどうかなと思って」
「キャッチだった! だからゲーセン通り過ぎたら突然現れたのかよ! 行かねえよゲーセン!」
「まあまあ、そんなこと言わずに。今ならあの伝説の女のフィギュアもあるっすよ」
「伝説の女……? そんなのがいるのか?」
「そうっす! なんでも、一輪車でこのズッコケ山を越えたらしいっすよ」
「じゃあウメボシじゃねえか! 要らねえよあんな婆さんのフィギュア!」
なんで俺は異世界に来て山を越えるっていう時に、ゲーセンのプライズの話してるんだろうな……。今までノリでやってきたけど、だんだん頭が着いていけなくなってきたぞ。もうちょっと地球との境目を無くして欲しいもんだ。
「ということで玄司様。行きましょう」
「お前どこに行くつもりなんだよ!? この流れだとゲーセンだけど!?」
「ああ違いますよ。ショッピングモールの方です」
「どっちでも一緒だわ! 山道進んでもらえる!?」
「でもズッコケ山のショッピングモールには、す〇いらーくの全チェーンが入ってるんですよ」
「入りすぎだわ! レストランフロア全部占領してんじゃねえの!? あとすかい〇ーくって異世界にも進出してるんだ!? 知らなかったわ!」
「え、ゲームセンターには行かないんすか? 1回無料券あるんすよ?」
「だから何なんだよ! 俺たちは今から山登るんだよ! ゲーセンに来たわけじゃねえの!」
「玄司様、ショッピングモールの中にもゲームセンターはあるので、そっちに行きましょう」
「どっちにも行かねえって! 早く王都目指させてもらえる!?」
めんどくせえなこいつら……。俺たちはさっさとこの山を越えて、王都オオボケへ向かわないといけないってのに。まあ俺たちって言っても、その片割れの高橋がずっと脱線してるんだけどな。あいつほんとなんとかなんないのかな。
「高橋、いいから行くぞ! さっさと山越えて王都に入らねえと!」
「分かりました。ではウマシカよ、私たちの足になりなさい」
「ええ!? なんでっすか!? 俺っちはただゲームセンターに勧誘しに来ただけっすよ!?」
「ウマシカよ、王都まで私たちを連れて行ったら、王都の人々をたくさんゲームセンターに勧誘できるとは思いませんか? そうしたらあなたの手柄です。ボーナスもしっぽりですよ」
「ボーナスはそんな個室居酒屋みたいに入らねえよ! おいこんなしょうもねえ口車に乗るわけ……」
「分かったっす! 俺っち、王都で頑張って大勢を勧誘するっす!」
「やっぱバカだった! ウマシカっていうだけあるわ!」
ウマシカは四本足でしゃがみ込み、俺たちを背中に乗せた。細い体にも拘わらず、思ったより安定感がある。
「では出発です! これで私たちも体力を冷凍保存できますね!」
「温存だろ! 俺たちの体力はアイスクリームか!」
「どちらかと言えばソフトクリームでは?」
「どっちでもいいわ! そういやウマシカ、お前なんでウマシカっていうんだ? 馬要素しか無さそうだけど」
「ああ、俺っちの体が鹿なんすよ! 顔だけ馬っす!」
「分かりにくいな! 角とか生やせば良かったのに!」
ウマシカの背に跨った俺たちは、そびえ立つ斜面をゆったりと登り始めた。




