第61話 山登りをしよう
町を出て少しすると、大きな山が見えてきた。あれがズッコケ山か……。デカいな。あんなのを何の装備も無しに越えられるのか? 既に大分不安になってきたぞ……。
「玄司様、大丈夫ですか? 随分と山に対して恐怖心を覚えていらっしゃるように見えます。もしかして、山にトラウマが……?」
「いやねえよ別に! 山に特別な感情持ったことねえわ!」
「今すぐに話してくれとは言いません。ですが、山を越える上で私も知っておいた方がいいことです。ゆっくりで大丈夫ですので、話していただけると助かります」
「うんだから無いのよトラウマ! 山デカいなと思ってただけなんだわ! なんかごめんなしょうもない感想で!」
「ああなんだ、そうでしたか。じゃあ早速行きましょう。この山を越えるには、大体一輪車で1ヶ月ほどかかります」
「徒歩で言えよ分かりにくい! 前半ずっと上り坂だからそれぐらいかかるんじゃねえの!?」
「ということで一輪車を用意しました。早速これに乗って山を越えましょう」
「無理だよ! なんで山の険しい道を一輪車で行かなきゃいけねえんだよ! お前見たことあるそんなやつ!?」
「ウメボシが過去にやっていたらしいですよ」
「まじで言ってんの!? もうそれギネスとかに申請した方がいいよ絶対!」
高橋が渡してきた一輪車を投げ捨て、俺たちは徒歩でズッコケ山の麓へと向かう。なんでいちいち徒歩でとか言わないといけねえんだよ。大体徒歩だろ登山は。一輪車のやつ見たことねえわ。
「しかし山か……。どれくらい険しいんだろうな」
「あ、大丈夫ですよ。ちゃんとハイキングコースになってます」
「拍子抜けだわ! え、何ここハイキングコースなの!?」
「そうですよ。ちゃんと整備されてますし、途中に休憩所とゲームセンターもあります」
「それはありすぎだろ! 誰に需要あってゲーセン作ったんだよ! 余裕だなおい!」
「私もそこのゲームセンターで一輪車をゲットしたことがありますよ」
「ああその一輪車なんだ!? 珍しいなゲーセンの景品で一輪車! 何のゲームやってもらったんだよ!」
「めんこです」
「めんこ!?」
そんなことを話していると、ようやく山の入口が見えてきた。おお、確かにちゃんとハイキングコースだわ。入口にゲートみたいなのがあって、そのゲートに『ズッコケ山ハイキングコースへようこそお越しくださいました。どうぞお楽しみください。我々ズッコケ山スタッフ一同、心よりお待ちしておりました。ズッコケ山の景色と素晴らしいハイキングコースが、お客様の心を癒してくれることを願っております。ズッコケ山とは元よりあった山をオーナーが買い取り、名前を付けた山で、オーナーの一声でハイキングコースが整備されました。道中には休憩所やゲームセンター、ショッピングモールなど充実の施設を完備。最高のエンターテインメントをお届けします』と書いてある。
長いわ! ゲートに書く内容にしてはだらだらしすぎだろ! パンフレットとかに書けよこんなもん! 長すぎて文字めっちゃ小さいじゃねえか! 読むの苦労したわ! あとショッピングモールあるんだ!?
「さあ玄司様、いよいよズッコケ山に入ります。頭の準備はいいですか?」
「なんで頭なんだよ! せめて心か体だろ! 何俺今からクイズとかすんの!?」
「いえ、大学入学共通テストです」
「なんで山でそんなもん受けなきゃいけねえんだよ! まず俺出願してねえよ!」
「玄司様は何大学志望でしたっけ。私はコボケ町にあるバーハート大学です」
「ネーミング大丈夫それ!? 怒られない!?」
「大丈夫ですよ。ここは異世界ですから。地球とは何の関係もありません」
「ほんとに!? ここ通貨円の時点で大分怪しいけど!? あとお前の先祖三重出身だったよね!?」
「玄司様、私の先祖は三重出身ですが、出生地は岐阜です」
「分かったようるせえな! 地球であれば一緒だわもう!」
高橋を先頭に、俺たちは遂にズッコケ山に入った。山道は確かに整備されており、しっかりハイキングコースだ。なんかもうちょっと冒険感を期待してたんだけどな。なんで俺異世界でハイキングしてるんだろう。
体の力が抜けるのを感じていると、高橋が突然声を上げた。
「玄司様、あれを見てください!」
「なんだよ、何があったんだ?」
「あれがズッコケ山名物のゲームセンターです」
「早くねえ!? もうちょっと中腹にあるのかと思ってたわ! なんでこんな序盤にあるんだよ!」
「いやだってここ、コボケ町から1番近いゲームセンターですよ? あんまり山の上にあると困るじゃないですか」
「じゃあコボケ町にゲーセン作れば良かったんじゃねえの!? 山に作るからそんなことになってんだろ!」
「あそこのゲームセンターでは、温泉に入るサルのぬいぐるみが人気なんですよ」
「なんか聞いたことある! オンセンだろそれ! あいつもうグッズ化されてるんだ!?」
もうほぼ麓だよこんなとこ……。ただゲーセンがあるだけじゃねえか。あんまり山に作んなよそんなもん。風情も何もねえわ。
ゲーセンから聞こえるやかましい音に違和感を覚えながら歩く俺たち。そんな俺たちの前に、不自然な茂みが現れた。ハイキングコースの道の真ん中に、突如として現れた茂み。しかもなんかガサガサしてるな。
「おい高橋、あれ避けて歩くぞ」
「なんでですか? ちゃんと見つけてあげないと、夕方までに帰れませんよ」
「別に俺かくれんぼしてねえんだわ! 誰を夕方までに帰すんだよ!」
「それはあれです、多分総理大臣とか」
「適当が過ぎるわ! あとこの国って王政じゃねえの!? 総理大臣別でいるんだ!?」
結局そんな話をしながら、俺たちは茂みの横を通り過ぎる。すると茂みは、俺たちの後ろにガサガサと着いて来る。なんだこれ……。誰が俺たちの後を着けてるんだ?




