第59話 ビタミンの危機
「ビタミンが寝込んだ!? なんでそんなことになるんだよ!?」
あの八百屋のビタミンは、霜降り肉をどこまでも探すくらいには元気だったはずなんだが……。なんで突然寝込むようなことになってるんだよ。何があったんだ?
「フクラミ、ちょっと何があったのか落ち着いて話してくれないか?」
「分かったよ。ビビビビビタミンががががが! たたたた大変なことにににに!」
「落ち着いて話せって言っただろうが! 何をさっきより動揺してんだお前は!」
「あ、ああすまないね。つい動揺してしまった。そう、ビタミンの話だったね。ビタミンは昨日まで元気に野菜を作っていたんだ。お前さんが降らせてくれた雨のおかげで、野菜が育てられる環境になってきたからね」
おお、それはいいことだな。俺が降らせた雨がいい方向に作用してる。でもそれならなんでビタミンは突然寝込むような事態になったんだ……?
「お前さんも知っている通り、ビタミンは腰に爆弾おにぎりを抱えているんだが……」
「初耳だわ! なんで爆弾じゃなくて爆弾おにぎりなんだよ! 美味しそうな腰!」
「玄司様、結局美味しいのはちゃんとしたおにぎり屋さんで握ってもらったおにぎりですよ」
「知らねえよどうでもいいわ! お前は勝手におにぎり食ってろよ!」
「ちょうどマヨネーズ握りがあるんですが、玄司様も食べますか?」
「え何その気持ち悪いおにぎり! マヨネーズしか具入ってねえの!?」
「ああ違います。マヨネーズでご飯を握ってるんです」
「なんで逆なんだよ! もう固体の形保てねえじゃねえか!」
「大丈夫ですよ。私が魔法でフリーズドライにしてるので」
「ああその設定まだ生きてたんだ! お前が凍結できるの銀行口座だけじゃなかった!?」
いやほんと高橋のどうでもいい話はいいんだよ。そんなこと話したいんじゃねえんだわ。ビタミンがどうなったのかを聞かないと。
「それでフクラミ、ビタミンはどうなったんだよ?」
「ああ、ぎっくり腰だよ」
「さらっとしてんな! あんな感じで走って来るから何かと思ったのに! ぎっくり腰ならほっといたら治るだろ多分!」
「でも救世主様、ビタミンの野菜はこのコボケ町の栄養源なんだよ。ビタミンが野菜を育てられないと、僕たちの腸内環境が危ない」
「そういやこの町の困りごとって便秘だったな! そっかそこをなんとかしないといけないのか……」
「玄司様、私が魔法で便秘薬を作りましょうか?」
「できんのかよ! じゃあお前最初っからそれやっとけよバカ!」
「できませんよ。言ってみただけです」
「なんだお前この野郎! できる時だけ言えよそんなこと!」
「言うだけなら誰にでもできますからね」
「その言葉をポジティブな意味で使ってるやつ始めて見たわ!」
全く、高橋はなんでいつも通りマイペースなんだよ。今高橋に付き合ってる場合じゃねえんだよ。ビタミンのぎっくり腰が治らないと、コボケ町の人たちの便秘も治らない。
この町での俺の役目は、人々の便秘を改善すること。そこが解決できないことには、俺はコボケ町を出ることができない。
……なんか改めて考えたらアホみたいな使命だな。なんで異世界に救世主として転生したのに腸内環境の改善とか考えてんだよ俺。管理栄養士か。
「とにかくフクラミ、ビタミンのところに連れて行ってくれないか?」
「もちろんだよ。走って行こう!」
「お前走ると激遅じゃねえか! 急いでんなら歩いて行け歩いて!」
「玄司様、ビタミンの家のすぐ前にリニアモーターカーの駅がありますよ」
「早く言えよ! じゃあリニアで行くぞ!」
「では玄司様、この交通系ICカード『jinshinjikodetomatta』をお使いください」
「『人身事故で止まった』っつってんじゃねえか! 嫌だわそんなカード使うの!」
俺たちは近くのリニアの駅に向かい、リニアに乗ってビタミンの家まで向かった。
5分ほどして降りると、以前見た無線スピーカーの墓場が後ろに見える。こんなところに駅あったのかよ。前回来た時もこれ使えば良かっただろ。なんで歩かせたんだよ。
「さあ救世主様、高橋、こっちだよ。ビタミンは相当参ってるみたいだ。ぎっくり腰とぽっきり腰が同時に来たからね」
「後半知らねえんだけど! 何ぽっきり腰って! もう折れてねえ!?」
「大丈夫ですよ玄司様。ぽっきり腰は3分ポッキリで治ります」
「じゃあどうでもいいわ! いいから早くビタミンのところまで案内しろよ!」
フクラミを先頭にビタミンの家まで歩いて行くと、立派な畑の中に今にも萎れそうな葉がいくつも見える。ビタミンが世話できてないから、野菜も死にかけてるんだな……。これは思ったより大ごとなんじゃないか?
「ビタミンの部屋はこっちだよ。ピンクの土台に平仮名で『びたみん』と書いてあるネームプレートが下がっているから、すぐ分かるはずだ」
「女子小学生か! なんだそのラブリーなネームプレートは!」
フクラミの後に着いて行くと、奥の方にフクラミが言った通りのネームプレートが見える。なんで本当にこんなんなんだよ。だから女子小学生かって。
フクラミがドアをノックして部屋に入ると、そこには苦しそうな表情で横たわるビタミンの姿があった。




