第56話 玄司復活
町に出ると、太陽が明るく町を照らしている。行き交う人々の表情も太陽と同じように明るく、イキイキとしている。
俺はこんな町にいたんだな……。今まで全然見えてなかった。この町に生きる人々は皆楽しそうで、水不足で生きるのが苦しいはずなのに、強く生きている。俺は今までこんな人々の顔を見てなかったんだな。
「玄司様、どうしたんですか? まるで半カバ人でも見たような顔をして」
「半カバ人!? 半魚人とかじゃなくて!? 半分カバの人!? どこがどうカバなんだよ!?」
「顔の上半分と膝から下がカバです」
「ああ全部合わせて50パーセントカバなんだ! なんでカバで人間をサンドイッチしたんだよ! 気持ち悪すぎるだろ!」
「カバはピンクの汗をかくって言いますよね。半カバ人の汗は何色か知ってますか?」
「知らねえし興味もねえよ! どうせ薄ピンクとかだろ!?」
「私も知りませんよそんなこと。もっと知ってそうなこと聞いてください」
「なんだお前この野郎! そもそも俺聞いてねえし!」
高橋と歩いていると、郵便局の前を通りかかった。透明なドアの向こうで、コヅツミがこちらに気づき、駆け寄って来る。
「高橋くん! ごめんあの、2人でお話したいんですけどいいですか?」
「まだやってんのお前それ!? そのノリもういいって!」
「もうあと1日しか無いじゃん? だからさ、高橋くんとちゃんと話して、誰に告白するか決めようと思って」
「時間制限あったのかよ! 俺それ聞かされてねえんだけど!?」
「旅のしおりに書いてあったじゃないですか。何言ってるんですか」
「知らねえよそんなもん! え、あった旅のしおりとか!?」
コヅツミはベンチに高橋を誘い、2人で座った。いやまじ何やってんだよこいつら。俺が復活した直後の回なんだからもうちょっと俺にフォーカスしろよ。なんで恋愛メイン回なんだよ。
「あのね、私第一印象には3人入ってて、高橋くんとナゾカケくん、あとフクラミくんと玄司くんなんだけど」
「4人じゃねえか! なんで俺勝手に参加させられてんだよ! いつの第一印象!?」
「でも今は高橋くんの方がちょっと気持ちが上かなって思っててね」
「私はアナコンダの丸焼きに気持ちが持って行かれそうです」
「もうちょっと乗ってやれよ! なんでアナコンダの丸焼きがそこに入ってくるんだよ! お前だけ恋愛リアリティショーでもなんでもねえな!?」
「だから、高橋くんを誘って、もう1回ちゃんとお話しようと思って」
「いいですよ、話しましょう。何の話をしますか? ドラム式洗濯機の話とかですか?」
「誰がしたいんだよそんな話! 興味ねえよドラム式洗濯機!」
「あっ、そうだね。実は私、ドラム式洗濯機のことも気になり始めてて」
「ドラム式洗濯機もメンバーなの!? なんだお前全員気になってんじゃねえか! 恋愛脳か!」
「玄司様、恋愛脳なんて酷いこと言わないであげてくださいよ。恋愛脳は日本で言うとトロびんちょうと同じくらいの悪口です」
「トロびんちょう別に悪口じゃねえよ! なんでボケルト王国では寿司ネタが悪口の認識なの!? イドバタも言ってたけどそれ!」
相変わらず意味不明だなこの世界は……。でも、悪くない。このテンポでツッコミを入れていくのは気持ちがいいし、ボケルト人たちは俺を必要としている。ナゾカケは除いて、だけどな。
「それでね高橋くん、高橋くんの今の気持ちを聞きたいなって思って」
「私の今の気持ちですか? そうですね、紙袋が食べたいです」
「そういう話じゃねえだろ絶対! あと紙袋食うなよ! 食いもんじゃねえよ紙袋!」
「そっか、紙袋ちゃんの方が気持ちが上ってことだよね」
「多分違うぞ!? こいつ腹減ってるだけだから! 紙袋にちゃん付けるやつ初めて見たわ!」
「じゃあ私は高橋くんを諦めて、ナゾカケくんに絞ろうかな」
「フクラミと俺はどこ行ったんだよ! 何さらっと消してくれてんだ! いや別に消されてても問題ねえけど俺は!」
よくこの恋愛リアリティショーのノリずっと続けられんなこいつ。コヅツミって最初こんなキャラだったか? もうちょっと落ち着いたキャラだった気がするんだが……。いつの間に恋愛脳キャラになったんだよ。
話を終えたのか、高橋が俺の方に戻って来て、コヅツミは郵便局の中に戻った。高橋は俺の傍まで来ると、そっと俺の肩に自分の頭を乗せた。
「やっと2人っきりになれたね」
「気持ち悪すぎるわ! お前そっちなの!? 俺今までそんな目で見られてたの!?」
「玄司様、これからも私たちは2人で2つですよ」
「じゃあそれぞれ別じゃねえか! 普通だろそれ! なんで改めて今言ったんだよ!」
「それはそうとして、お腹が空きましたね。何か食べに行きましょうよ。コオロギとか」
「カメレオンか! コオロギなんか食わねえよ!」
「でも地球ではタンパク源としてコオロギが注目されていると聞きましたよ」
「なんでお前がそんなこと知ってんだよ! 余計なことばっか知ってんなお前は!」
「あ、ちょうどあそこにファストコオロギの店がありますよ。行きましょう」
「ファストコオロギ!? ファストフードじゃなくて!? コオロギ専門店!?」
「専門店ではありますけど、チェーン店ですよ? 割と庶民的な味だと思います」
「コオロギに庶民的とかねえよ! まず食ったことねえんだから! お前だけ行ってこいよ!」
「え、玄司様行かないんですか? ならお土産にフライドバッタを」
「買わなくていいから! 食うなら1人で食って来い!」
コオロギ専門店に行ってしまった高橋の背中を見送っていると、俺の背後から突然男の声が聞こえた。
「お題ください」




