第48話 逃げ場
高橋の手を引いて走っていた俺は、草履工場まで戻って来ていた。ナゾカケは……もういないな。良かった、撒いたみたいだ。
しかしなんだったんだあいつ……。多分あれは嫌われてるとかそういうレベルじゃなくて、もう妖怪の類だな。お題くださいしか言わないし。正直めちゃくちゃ怖かったぞ……。
肩で息をしながら高橋の方を見ると、高橋は自分の左手をじっと見つめていた。
「おい何してんだよ高橋?」
「玄司様が……私の手を……。キュン」
「キュンじゃねえよバカ! 何で恋に落ちてんだお前は!」
「玄司様の力強い手が、私の手を引いて走り出した時、私たちの恋も走り出したのです」
「やかましいわ! なんでお前それは言えて謎かけはできねえの!?」
「3日目の朝、私絶対玄司様に告白するので」
「しないでもらえる!? よくまた恋愛リアリティショーのノリ持ち出せるなお前は!?」
呑気かよこいつ……。なんであんなことがあって恋に落ちてる暇があるんだよ。ある意味すげえ根性だな。俺ならそんなこと考えてる暇ねえわ。
疲れたのと高橋発言で力が抜けたのとでしゃがみ込んでいると、向こうから女が走って来るのが見える。コヅツミか?
「救世主様! 愛しの高橋! どうしたの!?」
「まだ愛しの高橋なんだ!? お前の高橋への恋愛感情は何が理由!?」
「その様子はまさか……新種のツチノコを見つけたのね!」
「見つけてねえわ! なんでもう既存の種は見つかってんだよ!」
「玄司様、ツチノコにはタルタルソースをかけると美味しくいただけますよ」
「お前の場合全部そうじゃねえの!? とりあえず素材の味を楽しむことを覚えたらいいんじゃねえ!?」
すごいなこいつら。この状況でどうでもいいボケを放ってくる。でも……なんか安心するな。ナゾカケにはほとんどツッコミを入れられなかったから、この感じでツッコミを入れると、俺の力が戻って来た感じがする。
「それで救世主様、何があったの? 誰にも言わないから教えて?」
「別にやましいことじゃねえよ! いや、お前が言ってたナゾカケってやつに会ったんだよ」
「ナゾカケに……!? 大丈夫だったの!? サブマシンガンで撃たれたりしなかった!?」
「えそんな危ないやつなのあいつ!? その情報聞いてねえんだけど!? いや別に撃たれたりはしなかったよ。ひたすらお題を求められて、怖くなって逃げて来たんだよ」
それを聞くと、コヅツミはやっぱりという顔で俯いた。ナゾカケは町の人たちにこうやってお題を求めて回ってるんだな。これは厄介だし迷惑だ。俺になんとかできたらいいんだが……。
「救世主様でも歯が立たなかったのね……。やっぱりナゾカケはどうにもならないのかしら」
「そんなことはありませんよ。私が謎かけで倒します」
「無理だよお前には! マヨネーズかけるだけじゃねえか!」
「失礼ですね玄司様。私はマヨネーズだけじゃなくて色んな調味料をかけますよ。セメントとか」
「お前セメントのこと調味料だと思ってんの!? 死ぬぞ!?」
「セメントは穴子にかけて食べると美味しいんですよね」
「そんなセメントを甘だれみたいに!」
「救世主様、まさかセメントを食べたこと無いの? 勿体ないわね。人生の0.02割損してるわ」
「ほとんど損してねえじゃねえか! そのレベルで勿体ないって言うなよ!」
「いやいや、玄司様の生き方は勿体ないですよ。玄司様っていつも私より起きるの遅いじゃないですか。あれ本当に勿体ないです。早起きは千本ノックって言いますし」
「三文の徳だろ! なんで起き抜けに千本ノック受けなきゃいけねえんだよ! 特殊な強豪野球部か!」
「玄司様はポジションどこでした? 私はOBです」
「現役の時のポジション言えよ! なんで引退してからなんだよ!」
高橋や他のボケルト人ならちゃんとツッコミ入れられるんだけどな……。ナゾカケが相手となるとどうもツッコミどころが無い。どうしたらナゾカケにツッコミを入れられるんだ……?
あいつにツッコミを入れないことには、この町を救うことができない。もっと俺自身がツッコミを磨かないといけないんだろうか。
「救世主様、どうしたの? まるで掃除機からノズルが生えたみたいな顔をして」
「掃除機にはノズルあるだろ! 無い方が珍しいわ!」
「玄司様、ボケルト王国の掃除機にはノズルがありません」
「ああそうなんだ!? じゃあどうやってゴミ吸ってるんだよ! 逆にすごい技術じゃねえのそれ!?」
「え、救世主様の地元では掃除機にノズルがあるの? そんな掃除機見たことないわよ。どこ出身? 三重?」
「おい高橋のせいで三重の名前だけ1人歩きしてんじゃねえか! 余計なことしてんな本当に!」
「大丈夫ですよ玄司様。ちゃんと隣の秋田県も認知されてます」
「隣合ってねえよ! どんな日本地図の認識してんだお前は!?」
「まず四国アイランドリーグが……」
「もう独立リーグじゃねえか! 県の話どこ行ったんだよ! あと『まず』で四国出ねえよ普通!」
「救世主様、流石にそれは四国の人に失礼じゃない?」
「知らねえよ! 今四国の人に配慮する時間じゃねえから!」
ツッコミを入れながらも、高橋とコヅツミのボケに謎の安心感を覚えてしまう。大丈夫。俺のツッコミはちゃんと通用する。なんとかしてナゾカケの対処法を考えないとな。




