第42話 郵便局のお姉さん
郵便局に入ると、高橋が既にカウンターで何か話している。何してるんだあいつ? 手紙とか何も持ってなかっただろうに。本当に何か郵便局に用事でもあったんだろうか。
「ですからお願いしますよ! 私にも手紙を出させてください!」
「何してんだよ高橋。手紙出すのか?」
「そうなんですよ玄司様。手紙を出したいのに、この女性がなかなか許可してくれないんです」
「え、なんで? ここ郵便局だろ? 手紙出すのを許可されないってどういうことだよ?」
「私にも分かりません。もう少し交渉してみますね。お姉さん、お願いです。手紙を出したいので、お姉さんの名前と住所を教えてください」
「ナンパじゃねえか! そりゃ嫌がられるわこんな鬼に手紙出したいとか言われたら!」
「別に突然家に押しかけたりはしません。ちゃんと事前にこの日に家行きますって手紙を出しておくので」
「どっちにしろ突撃はしてんじゃねえか! やめろバカお前、マヨネーズ泥棒だけじゃなくてストーカーの罪も追加されんぞ!?」
「いいんですよ。マヨネーズ泥棒に比べれば、ストーカーなんて小さな余罪です」
「開き直んなよ! お前もし今捕まったら懲役何年になるの!?」
「ざっと4万80年ですかね」
「聞いたことある数字! それオトボケ村にいたカキアゲの年齢だろ! 最高齢の懲役出されたらお前もう生きて出られねえよ!」
郵便局のお姉さんは本気で嫌そうな顔……と言うか恐怖に怯えた顔をしていて、なるべく高橋の方を見ないようにしている。そりゃこんな鬼みたいなやつに突然ナンパされたら怖いわな。むしろよく逃げないでちゃんと対応してるわ。
俺が逆の立場なら確実に逃げ出してるだろうな。だってもうほぼ襲われてるもんこの状況。
「お姉さんお願いしますよ。私は本気でお姉さんのことを想っているんです。お姉さんのためなら例え夢の中布団の中、どこへでも行く覚悟ができています!」
「そういう時は火の中とか水の中行くんだよ! 何ぐっすり眠ってんだお前は!」
「でも睡眠は大事じゃないですか。1日6時間しか寝ない日が2週間続くと、徹夜と同じレベルになるそうですよ」
「だから何なんだよ! 今別に睡眠の話してねえだろ! お前もう寝たいならホテル帰れよ!」
「玄司様、ボケルト王国ではホテルに帰ることをホテると言います」
「知らねえよなんだその使いづらい略語は!? お前いいからナンパやめろバカ!」
「ではナンパをやめてキャッチになりますね。お姉さん、草履お探しですか?」
「特殊なキャッチ! 草履探してるやついねえよ! この町草履屋激戦区だから!」
「えっ……。なんであたしが草履を探してることを知ってるの?」
「なんで探してんだよ! 町に出たことねえのお前!?」
「では私がいい草履屋を紹介しますよ。こんなつまんない職場、2人で抜け出さない?」
「パーティー抜ける時のセリフ! 誰がその前振りで草履屋行くんだよ! 江戸時代のパーティーか!」
「やっぱり江戸時代だと侍が前衛なんですかね」
「そのパーティーじゃねえよ! 江戸クエストとか聞いたことねえだろ!」
「でも玄司様、このボケルト王国には大人気RPG、江戸ラゴンクエストというものが……」
「それ以上はやめろバカお前! ラゴンはなんだよラゴンは!」
「もちろん竜ですよ。てやんでいブレスとか放ってきます」
「てやんでいブレス!?」
高橋は結局郵便局のお姉さんを連れ出すことに成功してしまい、そそくさと郵便局を後にした。俺も慌てて高橋の背中を追う。何やってんだあいつは……。ナンパなんかしてどうするつもりだ?
すると高橋はホテルがある方向に戻って行く。おいおい、まさかあいつ本気であのお姉さんを……。いやそれはマズくないか? 所謂お持ち帰りだろ? 高橋ってそういうことするやつだったんだな……。なんかちょっと残念だ。
そのまま高橋とお姉さんを追いかけていると、高橋は俺たちが泊まっているホテルを普通にスルーして進んで行く。
え? ホテル行かねえの? いやまあ俺も泊まる部屋だからそんなことされても困るんだけどさ。どこ行こうとしてるんだあいつは?
不思議に思いながら後を追うと、高橋は大きな建物の前で立ち止まった。なんだここは? 何か機械音が聞こえてくる気がするけど……。
「さあ着きましたよお姉さん。ここでじっくりお姉さんに叩き込みますからね」
「おい高橋! お前こんなとこで何しようとしてんだよ!?」
「あ、玄司様も着いて来てたんですか。なら玄司様も一緒にどうです?」
「一緒にってお前、何するつもりだよ!? まさかこのお姉さんを……」
「ああはい。草履工場の見学に連れて行こうと思いまして」
「何を言ってんのお前は!? 草履工場の見学!?」
「そうですよ? いい草履を選ぶ目を鍛えるには、まず作られる過程をちゃんと見ないといけません。コボケ町の草履工場はここ1つだけ。見学するにはここに来るしかありません」
「え? 工場ここしかねえの? じゃあなんであんな大量に草履屋あるんだよ?」
「ああ、大体の草履屋はカンボジアからの輸入品を取り扱っていますので」
「そうなんだ!? 日本に衣類輸出するみたいなノリでコボケ町とも貿易してんだカンボジア!?」
「そうですよ。コボケ町はバッタンバンと姉妹都市ですので」
「あんまピンと来ねえよその地名! え、じゃあコボケ町って割とカンボジア人とかいんの!?」
「ああ、カンボジア街がありますよ。今度行ってみます? アンコールワットのアクスタとか売ってて楽しいですよ」
「アンコールワットの推し活するやついるんだ!?」
高橋から衝撃の事実を聞いていると、隣で黙っていた郵便局のお姉さんが口を開いた。




