第41話 玄司の不安
「気になるんだよな……」
さっきからチラチラと姿を見せる赤い人影。あれは一体誰なんだ? 俺たちを尾行している……なんてこともあり得るな。
俺たちはコボケ町に来てからかなり目立つ行動をしている。それに町の有名人であるフクラミとも接触を持ち、一躍注目を浴びている状態だ。高橋がマヨネーズを盗まなくても、十分誰かに狙われている可能性はある。まあ高橋の前科のせいかもしれないけどな。
万が一誘拐されたりしても、俺には頼る相手があのすっとぼけた神様ぐらいしかいない。オトボケ村には何人か助けた人がいるけど、強そうなやつもいなかったしなあ。
とにかく、変なやつに狙われているかもしれないなら気をつけないと。高橋にばかり構っている場合じゃないかもしれないな。
「どうしたんです玄司様? 考え込んじゃって。私に合わせるコーディネートを考えていたんですか?」
「俺お前のスタイリストじゃねえんだわ! なんでお前に似合うスタイリングとか考えなきゃいけねえんだよ!」
「パーソナルカラーはイエベ春で、骨格タイプはストレートです。よろしくお願いします」
「だからお前の服考えてねえって! お前が何着てても興味ねえし! そもそも何のためのスタイリングだよ! テレビとか出るわけじゃねえんだろ!?」
「テレビには出ませんが、夜に化けて出ます」
「ただのバケモノじゃねえか! 別にバケモノは有名人とかじゃねえからな!? 怖がられてるだけだからな!?」
「とりあえず大きめの盾は入れたスタイリングでお願いしますね」
「なんで盾なんか要るんだよ! 何お前タンクなの!?」
「いえ、機動隊です」
「警察なのお前!? どっちかって言うと捕まる方じゃねえの!?」
大きめの盾のデザインをオンラインで選び始めた高橋は放っておいて、俺は赤い人影が消えて行った方向に視線を戻す。
……いやなんでオンラインで盾なんか売ってるんだよ。この世界だと盾は雑貨扱いなのかな。バッグみたいな。嫌だなデートとかで盾とか持って来られたら。
とりあえず赤い人影についても盾のオンラインショッピングについても、今考えても仕方ない。いざ誘拐されたりしたら、多分神様が助けてくれるだろ。多分。知らねえけど。
「玄司様、ここで立ち止まっていても仕方ありませんよ。どうせ立ち止まるなら、しっかりレジャーシートを用意して、お菓子やお酒を持って来ないと」
「くつろいでんじゃねえよバカ! 花見か! 動き出す方に俺を焚き付けろよ!」
「でもくつろぐのも大事ですよ? あまり気を張っていると疲れてしまいますから」
「言ってることは合ってるけどここ道の真ん中なんだよ! こんなとこでくつろいでるやついたら二度見するわ!」
「玄司様、私なら八度見します」
「見すぎだろ! もう首振ってるだけじゃねえか! ちょっともうそろそろ歩き出してもいい!?」
「どうせなら足の指で歩きましょうよ」
「なんで!? 理由だけ教えて!?」
結局普通に歩き始めるが、その辺のボケルト人にいきなりツッコミを入れにいくわけにもいかない。何かきっかけがあればいいんだけどなあ。
「玄司様、とりあえずどこかお店に入りませんか? そうしたら会話の脚気も生まれます」
「きっかけだろ! 会話の膝叩いて脚気チェックすんなよ! なんだ会話の膝って!」
「玄司様も私と二ートークしませんか?」
「意味変わってくるだろ! 二ートの会話みたいじゃねえか! 誰がニートなんだよ!」
「でも玄司様ってニートではないけどフリーターですよね?」
「そうだけども! なんでお前がそれ知ってんだよ!」
「あ、あそこにちょうど良さそうな郵便局がありますよ! 入りましょう!」
「普通そういう時カフェとかじゃねえの!? 人と話すのに店探してて郵便局選ぶやつ嫌すぎるだろ!」
「でも手紙とか出せますよ?」
「だから何なんだよ! 目の前のやつと向き合えよ! 文通で話したら3、4日タイムラグできんだろ!」
「その3、4日が待ち遠しくてゲラゲラするんじゃないですか」
「なんでお前手紙待ってる間ずっと爆笑してんの!? 病気!?」
「いえ、正気ですよ」
「じゃあただの変なやつだよ! ちなみにお前それ手紙返ってきたらどんなリアクションするんだよ?」
「それはもう、大喜怒哀楽ですね」
「全部!? どれか1つじゃなくて感情全部!?」
もうずっと何言ってんだよこいつ……。大喜怒哀楽とかいう言葉初めて聞いたぞ。こいつが白ヤギさんだったら歌成り立ってねえな。感情がやかましすぎて。
そんなことを考えている間に、高橋はどんどん郵便局の方に向かって行ってしまう。え、あいつまじで郵便局行こうとしてんの? 出す手紙も荷物も無いのに? 何しに行くんだよ本当に……。
「玄司様、何してるんですか? そのままそこにいるなら置いて行きますよ。浴槽に水を張って洗剤を入れたところに」
「なんで浸け置きされなきゃいけねえんだよ! 俺汚れた雑巾じゃねえから!」
「ニットを浸け置きすると縮むことがあるので、気をつけないといけないですね」
「だから何なんだよ! ニット洗う話してんのお前だけだよ!」
話しながらもずんずん進んでしまう高橋。俺は仕方なく高橋の赤黒い背中を追いかけた。




