第39話 八百屋との約束
「それで、そこのビタミンはどうしたらいいんだ?」
さっきフクラミに呼び出されたビタミンは、未だに地面を掘って霜降り肉を探しているようだ。呼び出したはいいけど、とりあえず俺が今すぐ何かできるってわけじゃなさそうだし……。あいつは何のために呼び出されたんだ?
「ああ、とりあえずこいつがビタミンだよってことを教えるために呼び出したんだ。だから今すぐ何かする必要は無いよ。挨拶でもするかい?」
「なんで呼び出したんだよ可哀想に! まだ霜降り肉探してんぞそいつ!」
「玄司様、私も一緒に探していいですか?」
「大人しくしてろお前は! 霜降り肉なんかねえって言ってんだろうが!」
「ですが玄司様、霜降り肉というのは信じれば現れると言われていますよ」
「言われてねえよ多分! 信じれば現れるとかそういうのは妖精とか神様とかに使う言葉だろ! なんでそのノリで霜降り肉が出て来るんだよ!」
『呼んだか城金玄司よ』
「呼んでねえよ神この野郎! お前は引っ込んでろ!」
『だがせっかく出て来たのだから何か爪痕を残したいぞ。海に飛び込めば良いか?』
「若手芸人か! 身体張らなくていいから帰ってもらえる!?」
ほんとやかましいなこいつら……。まともなやつが1人もいないぞ? ちゃんと会話ができるやつを呼んで来て欲しいもんだ。まだオトボケ村の方が会話できたわ。
「まあでも、一応ビタミンに声はかけとくか。何かあった時にこいつだって分からなかったら困るしな。おいビタミン、霜降り肉探すのやめてこっち見てくれよ」
「ガン見かチラ見どっちがいいでござるか?」
「普通に見ろよ! 極端だな選択肢が!」
「ではよそ見するでござる」
「いいからさっさとこっち見ろバカ!」
ようやく地面を掘るのをやめて俺の方を見たビタミンに、俺と高橋は近づく。
「ビタミン、俺は城金玄司ってもんだ。ちょっと事情があって地球の日本ってところからこのボケルト王国に来た。一応救世主って呼ばれてて、ボケルト人たちにツッコミを入れに来たんだ」
「ほう、お主が救世主でござるか? ならオススメの香水とか教えて欲しいでござるな」
「お前救世主のことなんだと思ってんの!? 今からお前の八百屋を復活させようって言ってんだぞ!?」
「え!? ミーの八百屋を復活させてくれるんでござるか!? そんなことがお主にできると!?」
「ああまあ……。雨を降らせることはできるから、野菜を仕入れることはできるようになると思うぞ」
「仕入れる? いやうちは野菜を仕入れていないでござるよ。ちゃんと自前の畑でズッキーニとかルッコラを育てていたでござる」
「イタリアの野菜! なんでもっとメジャーな野菜作ってねえのお前!? まあ自分で育てて自分で売ってるってことだな? なら話は早い。お前んとこの野菜を復活させてやれるぞってことだ」
「玄司様、私の受験資格も復活させてもらえませんか?」
「それは知らねえよ! 自分で何とかしろ! そもそもお前は何の受験をしようとしてんの!?」
「あ、小学校に入り直そうと思って」
「ああそういやお前小学校から幼稚園に戻されたんだもんな!? いいんじゃねえの再挑戦!」
「玄司様、私は幼稚園から産婦人科にも戻されていますよ」
「そうだったわ! じゃあまず幼稚園受け直せよ! ……なんだ幼稚園受け直すって!」
いちいち話に茶々を入れる高橋は放っておいて、ビタミンの方に向き直る。するとビタミンはまたしても地面を掘って霜降り肉を探し始めていた。
「いやもういいわお前! 霜降り肉はねえって言ってんだろ!」
「いやでも、赤身ならどこかにあるかなって思うでござるよ」
「赤身もねえから! あと地面に埋まってるなら食えたもんじゃねえから見つけても意味ねえぞ!?」
「それより救世主様、本当にミーの八百屋は復活できるんでござるな?」
「ああ。水不足が原因なら、俺がいるだけで解決できるとは思うぞ」
「それは助かるでござる! ミーの八百屋はここ数十年全く野菜が採れずに寂れてしまってたんでござるよ! それが復活できるとあらば、急いで準備をしなければでござる!」
「準備……? お前が何の準備をするんだよ?」
「それはもちろん、八百屋復活パーティーで振る舞う霜降り肉の準備でござるよ!」
「だから霜降り肉はもういいって! どんだけ引っ張るんだよその話! お前八百屋なら野菜でパーティーしろよ!」
「でも野菜を振る舞っても盛り上がらないでござろう?」
「その通りだね。この町の人は僕のパンを振る舞っても盛り上がらないからね。振る舞って盛り上がるものと言ったら、現金ぐらいのものだよ」
「卑しいなここの住人! パーティーなんだから無条件で喜べばいいのに!」
「玄司様、野菜と霜降り肉に塩胡椒を振って焼き、それをパンで挟むという画期的な料理を思いついたのですが、どうでしょう?」
「それをサンドイッチって言うんだよ! 何この世界サンドイッチの概念ねえの!?」
「サンドイッチの概念くらいありますよ。楕円形のボールを後ろにパスしながら進むスポーツですよね?」
「ああこの世界ではサンドイッチってラグビーのことなんだ!? ややこしすぎるだろ!」
まあ高橋のサンドイッチ案はめちゃくちゃどうでもいいが、要するに俺がこの町でやることは、今までと変わらずツッコミを入れることってわけだな。
生き返りゲージを見ても、もう23パーセントまで溜まっている。ここまでツッコミを入れてきた俺なら大丈夫だろう。ちゃんと救世主としてコボケ町を救って、さっさと王都へ向かおう。
そんな決意を固める俺の視界の端に、何か赤いものが見えた気がした。




