第28話 新たなる災厄
電動キックボードを走らせて来たイドバタ三人衆は、俺と高橋のところまで来て止まった。どうしたんだ? 何かあったんだろうか。
パーマのおばちゃんことイドバタが、慌てた様子で話しかけてくる。
「救世主様! 大変だよ! この村にまた災厄が現れたよ! 災厄2.5だよ!」
「なんで閑話なんだよ! 2はどこ行ったよ2は!」
「災厄はもうそこまで来ています! 助けてください救世主様! 魔法のこたつとか持ってないんですか!」
「持ってねえよ! 杖とかじゃねえの!? なんだ魔法のこたつって! 温かそうだな!」
メガネのおばちゃんことイドバタBの謎のこたつ発言。ボケルト人って慌てててもボケるんだな……。正直めんどくさいな。
すると今度はエプロンのおばちゃんことイドバタ3号が、後ろを指さして叫んだ。
「救世主様! 来ただわよ! 災厄後編が!」
「せめてお前らの中では呼び名統一しといてもらえる!?」
イドバタ三人衆が大騒ぎしていると、イドバタ3号が指さした方から、土煙を上げながら何かが走って来る。なんだあれ……? すごいスピードで走って来るけど、またラクダだかサルだかそういうのか?
俺の予想とは裏腹に、だんだんと近付いて来るそれは人の姿をしていた。三角形のメガネをかけてロングの髪をかきあげている。タイトスカートのビジネススーツを着たその姿は、完全にOLだ。
うんなんでOLがいんの? ここ異世界だよね? 会社で働いてる人とかいるんだ。まあ異世界にも会社ぐらいあるか。ここでは俺がイメージする異世界は通用しないからなあ。
1人で納得していると、OLはイドバタ三人衆の前まで来て急ブレーキをかけ、手信号で合図を出してから左折した。
「いや止まらねえのかよ! 左折しただけ!?」
「うん? 何よあなた。私の左折に何か文句でもあるの?」
「いや別に左折自体には文句ねえよ! お前イドバタ三人衆を追いかけて来たんじゃねえの!?」
「イドバタ三人衆……? ああ、そこのおばちゃんたちのことね。なんで走っているのかすっかり忘れていたわ」
「めちゃくちゃバカじゃねえか! なんだこいつ!」
「玄司様、私イドバタBからこのOLにターゲットを変えてもいいですか? 二目惚れしました」
「知らねえよ勝手にしろよ! なんで一目惚れじゃねえの!? 二度見でもしたの!?」
「いえ、五度見です」
「なんであと3回は何も感じなかったんだよ! 惚れてねえよ多分それ!」
危機感の無い高橋は置いといて、このOLが災厄だってのか? なんか普通に働いてるだけな感じがするけど……。でもまあキツそうではあるな。
「イドバタたち、観念しなさい! 私はあなたたちを絶対に働かせてみせる!」
「働かせる……? イドバタ、お前らこいつのとこで働いてるのか?」
「一応あたしたちはこのカキアゲっていうOLが働いてる会社で、パートやってんのさ。今日の出勤時間はもう終わったのに、あたしたちが無断欠勤したって騒ぐんだよこいつ! まるでイソギンチャクみたいに!」
「イソギンチャクは騒がねえだろ! もっと他の例え無かった!?」
イソギンチャクはどうでもいいが、働いたのに無断欠勤扱いは確かに困るな。このOL……カキアゲだっけか? こいつが何を以てイドバタたちを無断欠勤にしようとしてるのか、それが分からないとどうにも言えないな。
「おいカキアゲ、お前なんでイドバタたちが無断欠勤だって言ってるんだよ? こいつらはちゃんと働いたって言ってんじゃねえか」
「あなたには関係ないわよね? それにこのおばちゃんたちは働いていないわ。私の記憶によると、イドバタたちはゴールキーパーのイメージトレーニングをしていて、会社には来ていないわよ」
「どんな理由だよ! そんなサボり聞いたことねえけど!? サッカーで食っていこうとしてる人!?」
「玄司様、サッカーでは食事などできませんよ。食事に使うのはフォンデュフォークです」
「なんでお前の飯全部チーズフォンデュなんだよ! サッカーで食っていくっていうのは、サッカーを職業にする、つまりプロになるってことだよ! この説明要る!?」
「ああそういうことでしたか。ならサッカーボケルトリーグで盗塁王になった私に教えを乞えばいいのに」
「ごめん多分この世界のサッカー俺が知ってるやつと違うみたいだわ! あっち行って勝手にやっててもらえる!?」
なんでサッカーの話になってんだよ。今カキアゲとイドバタ三人衆の話してただろ。ほんと高橋が入ってくると話があらぬ方向に飛んで行くな。えぐいわこいつまじで。
いや高橋はどうでもいいんだよ。余計なことしか言わないからこいつ。本題は、何故イドバタ三人衆が無断欠勤扱いされてるのかだ。
「カキアゲ、イドバタたちは本当に無断欠勤したのか? お前の思い違いとかではなく?」
「私の思い違いなわけないじゃない! だってまだ始業時間からちょっとしか経ってないのよ? 朝来たらこのおばちゃんたちが帰ろうとしていたから、私は時速120キロで追いかけただけ。無断欠勤は許さないわよ!」
「なんでお前自力で時速120キロ出せるんだよ! 高速道路でも走ってんのか!」
……ん? ちょっと待てよ。今はもう夕方だぞ? 太陽もかなり傾いていて、日本で言うと15時くらいだ。なんでこいつは今が朝だと思ってるんだ?
するとイドバタ3号が俺の靴を引っ張った。
「お前そういう時は大体裾引っ張るんだよ! なんで靴なんだよ! 位置が低いわ!」
「救世主様、カキアゲは思い違いをしてるんだわよ。あたいたちはちゃんと時間通りに業務をこなして、いつも通り電動キックボードを改造してエンジン音を鳴らしてただけだわよ。むしろ遅れて来たのはカキアゲの方なんだわよ!」
「電動キックボード改造すんなよ! バイクでやれそんなもん!」
しかし、遅れて来たのがカキアゲの方? どういうことだ……?




