第23話 ゲージの秘密
オトボケ村は小さな村なので、15分も歩けばウメボシの住むタワマンに着く。しかし疲れたな。この1日でどれだけ色んな出来事があったんだよ。フタコブの誤解を解きに行くだけだったはずなんだけどなあ。
「あれ高橋、そういやお前このタワマンの鍵って持ってるか?」
「ああ! もちろんですよ! 持ってないです」
「持ってるテンションで言うなよ! 一瞬期待したじゃねえか!」
「鍵が無いのは困りますね。玄司様、換気口から侵入しましょう」
「インターホン押せばいいだろ! なんでお前侵入することしか考えねえの!?」
でもまあそうだよな。何にも考えず普通に家出て来ちゃったもんな。これで高橋が鍵持ってたら逆にどうしたのか心配になるわ。
俺たちは再びインターホンの前に立ち、ウメボシが住む30685号室を押す。押すボタンが多いんだよ。なんだよ30685って。老人には覚えるの大変だろこんな数字。
心の中でツッコミを入れていると、インターホンから嗄れた声が聞こえてきた。
『アッサラームアライクム』
「もういいってそのくだり! 2回目だから!」
『救世主様、おかえりなさいですのう。随分遅かったですが、色々あったんですかのう』
「そういう話は上がってからするから! インターホン越しに言うのやめてもらえる!?」
『今お茶を淹れますでのう』
「お茶淹れなくていいから開けてもらえる!?」
マイペースなウメボシに翻弄されながらも、俺たちはスロープを上って30階まで上がる。まじでエレベーター付けてくれねえかな。不便で仕方ねえわ。
ウメボシの住む30685号室にようやく辿り着くと、ウメボシがドアを開けて出て来た。
「おかえりなさいですのう救世主様。随分遅い時間ですが、色々あったんですかのう」
「うんだから玄関先で話すのやめてもらえる!? 早く上がらせろよ!」
「玄司様、女性の家に上がらせろと恐喝するのはちょっと……」
「なんで引いてんだよお前は! こいつが俺たちを迎え入れたんだろうが! なんで玄関先で今日あったこと話さないといけねえんだよ!」
「ウメボシばあちゃん、ボクはマヨネーズが飲みたくて仕方ないんだけど、ちゃんと用意してあるよね?」
「もちろんですのう。冷蔵庫にはマヨネーズしか入っておりませんのう」
「もうちょっと色々買っといたら!?」
いや朝の段階では色々食ってただろ。あれはどこにあったんだよ。もしかしてシリアルとか全部マヨネーズで食ってたのか!? だとしたらちょっと嫌だな。ババアのマヨラー……。うん、ラクダのマヨラーより嫌かもしれない。
「ではでは、上がってくださいですのう。お風呂の準備はできておりますでのう」
「お、ありがてえ。早速入らせてもらおうかな」
「このウメボシ特製のマヨネーズ風呂ですのう。ゆっくり浸かってくだされ」
「ごめんこの辺に銭湯ってある!?」
風呂までマヨネーズなのかよこの世界……。なんか異世界ってもっと剣とか魔法とか魔物とか、そういうの想像してたなあ。なんだよマヨラーって。異世界感全然ねえじゃねえか。
まあでも、一応異世界に来ちゃったんだもんなあ。ここでツッコミ入れないと俺完全に死んじゃうからな。ちゃんと頑張らないと。ついでにこの世界の救世主になるってのが俺の使命らしいから、それも頑張らないとな。
「さて玄司様。生き返りゲージについてと、チャーハンの美味しい作り方についてお話しますね」
「後半要らねえよ! チャーハンはどうでもいいわ!」
「最初に鉄鍋をできるだけ熱して、そこに油を入れて一気にご飯と卵を炒めます」
「チャーハンメインで喋んなバカ! 生き返りゲージより優先することじゃねえだろ! あとお前チャーハンちゃんと鉄鍋で作るタイプなんだ!?」
ずっと何を言ってんだよこいつ……。美味しいチャーハンの作り方とかまじで今どうでもいいわ。どうせこいつらマヨネーズかけて食うんだから、マヨネーズの味しかしねえんだろうし。
「俺が聞きたいのは生き返りゲージの方だよ! お前早くそっちの話しろよ!」
「では毎度バカバカしいお話をひとつ……」
「なんで落語の入りなんだよ! 普通に喋れバカ!」
「仕方ありませんね。普通にお話します」
「そのフェーズに行くまでなんでこんな時間かかんの!?」
高橋はひとつ息を吸ってから、真剣な顔で話し出した。
「玄司様が今溜められている生き返りゲージ。こちらは、ツッコミを入れることで溜まっていきます」
「おう、それは知ってるよ」
「ですが、一定期間ツッコミを入れないと、自然に減っていってしまうのです」
「……え?」
え、まじで? だとしたら、俺がツッコミを入れない期間があると、そのうち無くなっちゃうってことか!? その場合は1からやり直しなのか? いやえぐいなそれ。俺2日でこんなに苦労してんのに、ちょっとツッコミ入れないと減っちゃうのかよ。理不尽だなおい。
「減る基準について3行で説明しますね」
「もうちょい詳しくできる!? ネット民かお前!」
「玄司様の生き返りゲージは、丸1日ツッコミを入れないと減り始めます。それまでは大丈夫です」
「1日か……。てことは、最後にツッコミを入れてから24時間経つ前に、次のツッコミを入れないといけないってことか」
「その通りもんです」
「通りもんは関係ねえだろ! 博多名物! なんでお前そんなことばっか知ってんだよ!?」
衝撃の事実だな……。ちゃんとツッコミを入れるようにしよう。
……俺異世界で何やってんだろうなほんとに。とりあえず今日はゆっくり休もう。明日からシジボウの経営学合宿だからな。




