第17話 雨宿り
「うわ、このタイミングで雨かよ。ツイてねえな」
「玄司様、これは恵みの雨です。玄司様がツッコミをしながらヘッドスライディングをしたことによる影響ですね」
「俺いつヘッスラしたよ!? 内野安打狙ってねえんだけど!?」
「どちらかと言えばタッチアップでホームを狙ったのでは?」
「どっちでもいいって! なんでお前野球知ってんの!?」
そんなことを言いながらも、俺たちは温泉から上がる準備をする。うわ、そういやタオルねえじゃん。困ったぞ、何も考えずに入っちゃったな。
するとオンセンが走って行き、すぐに何かを持って戻って来た。なんだあれ……?
「救世主様、高橋、フタコブ、これを使うゲートウェイ! オイラ特製の厚紙タオルゲートウェイ!」
「なんで素材厚紙なんだよ! ゴワゴワしてまともに拭けねえだろ!」
「ですが玄司様、このままビショビショで上がるわけにもいきません。とりあえずこの厚紙タオルを使うか、私が持っているこのタオルを使うか、どちらか選ばなければなりませんよ」
「タオル持ってたのかよお前! さっさと出せよそれ!」
高橋が持っていたタオルを奪い取り、俺たちはサッと体を拭いて温泉から上がった。幸い脱いだ服は大きな木の下にあり、ほとんど雨には濡れていない。慌てて服を着た俺たちは、そのまま木の下で雨宿りをすることにした。
「しかし俺がツッコミ入れる度に雨降ったりなんだりじゃ不便だな。これどうにかならないのか?」
「玄司様のツッコミは、その場所において人々を困らせていることを解決する力があります。このオトボケ村においては、水不足に困っていたということですね。まあ村人たちは飲水には困ってなさそうでしたが」
「そうなのか? でも水が無いと何飲んで暮らしてたんだ……?」
「そりゃもちろん、ボクと同じくマヨネーズだよ!」
「ああそうだったわ。ここのやつらみんなマヨネーズ直飲みするんだった。狂ってんなこの世界」
「大丈夫ですよ玄司様。オトボケ村ではマヨラーが多いですが、町や王都に出るとケチャラーも増えます」
「だから何なんだよ! 水飲めっつってんだろ!」
もう嫌だこの世界……。このままだと俺もマヨネーズの直飲み強制されるんじゃねえかな。想像しただけで気持ち悪いわ。なんかもう予め水ラーとか適当な称号名乗って水だけ飲んでようかな。いやそれはそれでご飯に水とかかけられそうで怖いわ。
アホなことを考えている俺の隣で、オンセンはじっと腕を組んで考え込んでいる。
「どうしたんだオンセン? 何か困ったことでもあったか?」
「うん、円安がどうにかならないかなって」
「お前円安関係ねえだろ! 何ここの通貨円だったりする!?」
「玄司様、ボケルト王国の通貨は円ですよ」
「円だったのかよ! じゃあこいつ関係あるわ! なんで円なの!?」
「それは私の先祖が持ち込んだお金をそっくりそのままパクったからだと言われていますね」
「また余計なことしてんじゃんお前の先祖! 三重から色々持ち込みすぎだろ!」
「でも私の先祖の生まれは岐阜市だそうですよ」
「どっちだっていいわ! なんの『でも』なんだよ!」
衝撃の事実すぎるだろ。なんで異世界の通貨円なんだよ。拍子抜けにもほどがあるわ。
……ん? ちょっと待てよ。ここの通貨は高橋の先祖が持ち込んだ日本円をそのままパクったんだよな? てことは、俺が持ってる日本円そのまま使えたりする? ちょっと高橋に聞いてみるか。
「なあ高はs」
「きえええええええ!!」
「うるせえよお前! 何を言ってんだ!」
「あ、すみません。幼稚園時代の返事の癖が抜けなくて」
「大丈夫お前の幼稚園変な拳法とか教えてない!?」
「なんか黙秘拳とかいうの教えてましたね」
「教えてんじゃねえか! その名前なら返事が奇声じゃダメだろ! 静かにしろよ!」
「来週登園したら先生に言っておきますね」
「お前まだ幼稚園在籍してんの!? 小学校入った話は何だったんだよ!?」
「小学校のレベルに達してないからって、副担任の先生に幼稚園に入れられたんですよ」
「副担任の権力すげえな! そこまで決める権限ねえだろ絶対! ……いやそんなことはどうでもいいんだわ! お前これ使えるかどうか分かる?」
そう言って俺は高橋に千円札を見せる。すると高橋は目を十二角形にして驚いた様子を見せた。
「なんで十二角形なんだよ! そこまで行ったら丸で良かっただろ! ちょっとだけ角を残した意味は何!?」
「それは、我がボケルト王国の通貨、円ではないですか!」
「セリフの違和感がすげえな。普通に日本円なんだけどこれ」
「玄司様、それをどこで手に入れられたのです? まだ玄司様はこのボケルト王国に来て8ヶ月ほどのはずですが」
「そんなにいねえよ! まだ2日だわ! 8ヶ月もいたら通貨ぐらい持ってるだろ普通!」
まあとにかくこの日本円は使えそうだな。そんなに手持ちは無いけど、ちょっとした買いものぐらいならできそうだ。助かった。これとフタコブ触れ合い商売で耐えて、とりあえず暮らすことはできるだろう。
「玄司様、お金を持ってらっしゃるのでしたら早く言ってくださいよ。そんなに持ってるなら牛串だって奢られてあげましたのに」
「なんで上からなんだよ! 仮に奢れたとしてもお前には奢らねえわ!」
「それより玄司様、オンセンとフタコブが仲良くなっているみたいですよ。この木に生っている青い柿を投げ合っています。微笑ましいですね」
「バカお前喧嘩だろそれ! なんだその光景! 新手のサルカニ合戦か!」
それにしてもオンセンとフタコブ、何があって喧嘩したんだ? ちょっと止めて話を聞いてみるか。




