第16話 オンセン事業
体が疲れている俺は、サルに交渉して温泉に入らせてもらうことにした。サルだって自分が掘った温泉が他の人に入ってもらえたら嬉しいだろ。多分。なんでもいいからとりあえず風呂に入りたい。
「なあサル、俺たちも温泉入っていいか?」
「き、救世主様がこの温泉に!? オイラも一緒に入ってたら七つ裂きにされるんゲートウェイじゃ……」
「しねえし1個少ねえし! なんでお前奇数に裂かれたがるの!?」
「サルよ、私たちは旅で疲れているのです。どうか温泉に入らせてもらえませんか? もちろん、タダでとは言いません。必要であれば体で払います」
「金払えよお前! そんな気持ち悪い払い方やめとけ!」
「でも玄司様、私お金持ってませんよ? ずっと洞窟で暮らしてたもので」
……え? こいつ金持ってねえの? じゃあちゃんと働かないと何も買ったりできないってこと?
「ちょっと待てよ高橋。最初にこの村に来た時、お前牛串買ってたじゃねえか。あれは何だったんだよ」
「ああ、あれはちゃんと買いましたよ。あれが最後のお金でした」
「何お前全財産かけて人に奢ってんの!? バカじゃねえの!?」
「いやあ、そこは救世主様だからお金ぐらい持ってるのかと……」
「俺頼みだったのかよ! 無責任なやつだなお前!」
おいおい、どうするんだよ。金が無いと何もできないだろ。今のところウメボシの家に居候させてもらえてるからいいけど、この先オトボケ村を出たらどうやって生活していけばいいんだ。これは困ったことになったぞ……。
「玄司様、とりあえず職を探しましょう。旅に出るのにもお金は必要ですしね。全く、大事に使わないといけないですよ?」
「お前だろ! 何お前牛串なんかに全財産使ってんだよ! もっと考えて生きろよ!」
「考えてますよ! ソーセージとウインナーの違いは何かとか」
「まだそれ考えてたのお前!? 俺もう忘れてたわ!」
「しっかり考えて生きているのに、何故私はこうもお金が無いんでしょう」
「考えてることがどうでもいいからだよ! 暇かお前!」
しかし困ったな……。無一文となると、この温泉にも入れるかどうか……。流石にタダで入らせてもらうってのは烏滸がましいしな。何とかして金を稼がなきゃいけないんだが……。
そんな時、いつ目を覚ましていたのか、ボケルトラクダが口を開いた。
「救世主様、ボクを使いなよ!」
「お前を使う? どういうことだよ?」
「ボクを撫でるのにお金を取ればいいんだよ! そうしたら一気に儲かるよ! ボクほどかわいい動物もなかなかいないからね!」
「自己肯定感すげえなお前! まあでも、とりあえず稼ぐにはいいのか……?」
「そうですね。このラクダを売りものにして一儲けしましょう。最悪売っぱらってもいいですしね」
「お前はもうちょっと愛着持ってやれ!?」
俺たちがラクダを商売道具にしようと画策していると、サルが慌てて温泉から上がってきた。
「待って待って救世主様! そんなことしなくてもオイラの温泉には入れてあげるゲートウェイ!」
「え、いいのか?」
「もちろんだゲートウェイ! オイラはみんなに入って欲しくて温泉を研究してるんだからゲートウェイ。ただ、人に入ってもらうにはもっと試作しないとだから、人に見つからいように温泉を掘ってたんゲートウェイ!」
そうなのか……。なら俺たちが入っても特に問題は無いし、なんなら実験台としてありがたいってことか。それなら別にタダで入らせてもらってもいいのか?
「玄司様、ここはお言葉に甘えましょう。私たちは疲れています。ここでゆっくり疲れをとって、ウメボシの家でゆっくり休み、4年ぐらいしたらまた村に下りてきましょう」
「だらだらしすぎだろ! 4年越しに現れる救世主とか村人も望んでねえわ! オリンピックか!」
「どちらかと言えばパラリンピックなのでは?」
「どっちでもいいわバカ! いいからさっさと入って疲れとるぞ!」
俺たちは服を脱ぎ、湯気を立てる温泉にゆっくりと足を浸けた。流石に湯気がこれだけ立っているだけあって、熱さはかなりのもの。45℃くらいか? まあ入れなくはない。
「どうゲートウェイ救世主様? 気持ちいいゲートウェイ?」
「ああ。まさかボケルト王国で温泉に出会えるとは思ってなかったよ」
「それは良かったゲートウェイ! 行く行くは温泉事業を立ち上げて、みんなに温泉を楽しんでもらいたいゲートウェイ! だからもし良かったら救世主様も手伝って欲しいゲートウェイ! 飲める接着剤の開発を!」
「そっち!? 温泉事業の端の端じゃねえの!? 素直に牛乳とか売るんじゃダメだった!?」
「玄司様、この村にはマヨラーだけではなく、少数ながらセチャザーもいるのです。その者たちへの配慮かと」
「なんだセチャザーって! 聞いたことねえわ! え、まじで接着剤飲んでんのここの人たち!?」
「ボクは圧倒的にマヨネーズ派だけど、仲間のラクダにはセチャザーも何頭かいるね」
「うっそだろ! よくそれでお前ら絶滅しねえな!?」
「玄司様、ボケルト王国ではラクダは絶滅危惧種です」
「絶滅しかけてた! 接着剤なんか飲むからだろ!」
とりあえず温泉に浸からせてもらったお礼に、俺たちはサルの温泉事業を手伝うことにした。そういやこのサル、名前とかあるのかな? 聞いてみるか。
「なあサル、お前名前はなんて言うんだ?」
「オイラはオンセンだゲートウェイ! よろしくゲートウェイ救世主様!」
「そのまんまだった! まあいいや、よろしくなオンセン」
「ちなみにボクはフタコブって言うよ」
「そういやラクダの名前聞いてなかったな! OKフタコブな!? 覚えとくわ!」
すまないラクダ、お前の名前を聞くタイミングをすっかり見失っていた。まあこれで絆も多少深まったことだろう。よし、これから3人でオンセンの事業を手伝うぞ。
そう思った時、おもむろに雨が降り始めた。




