第14話 行く末
村人たちに追いかけられる高橋を待ちながら、俺はボケルトラクダを抱いて撫でていた。ちなみにツエツキは役所での仕事があるからと、そそくさと帰ってしまった。
しかしこのラクダ、意外と毛並みはサラサラしてるんだな。まだ小さいラクダだけど、これから大きく成長したりするんだろうか。それともボケルト王国のラクダはこのくらいの大きさなのか?
ボケルトラクダも心地良さそうに目を細め、俺に撫でられるがままになっている。やっぱ動物ってのはいいもんだ。こうして抱いているだけで癒される。
「救世主様、ボクの撫で心地はどう?」
「ああ。サラサラしてて気持ちいいよ。ずっと撫でてたいぐらいだ」
「それは良かった! じゃあずっと撫でてていいからさ、限定品のハチミツマヨネーズ買ってくれない?」
「可愛くねえなお前! マヨネーズ欲しさに撫でられてたのかよ!」
「だってハチミツマヨネーズはレアものなんだよ! 滅多に手に入らないんだからね!」
「知らねえよ! そもそもなんだハチミツマヨネーズって!」
「知らないの? トーストなんかに塗ったりするんだよ」
「ああそういやハニーマヨトーストとか聞いたことあるような……。いやでも俺ボケルト王国の金持ってねえんだよ」
暇つぶしにラクダと会話していると、高橋が戻って来るのが見えた。元々バケモノみたいな顔は、何かで叩かれでもしたのか、ボコボコで更に醜くなってしまっている。
「玄司様、ただいま戻りました! これからもしっかりマヨネーズを盗んで参ります!」
「買え! なんでお前そんなにボコボコにされて懲りてねえんだよ!」
「ああ、これはあれです、ニキビです」
「嘘つけお前! そんなたんこぶみたいなニキビ見たことねえわ!」
「これからはちゃんとスキンケアしないとですね! 玄司様も一緒に柚子胡椒パックやります?」
「やらねえよ! なんだそれめっちゃくしゃみ出そうじゃねえか!」
絶対ボコボコにされただろうに、高橋は呑気なもんだ。俺としてはもうちょっと懲りて欲しかったけどな。だって異世界に転生させられて、旅の相棒になるやつが鬼みたいな見た目のバケモノ且つボケまくりのマヨネーズ泥棒なんだもん。要らねえ属性がモリモリだわ。
「見てください玄司様、空に虹がかかってますよ!」
「ああ本当だな。あれも俺のツッコミがもたらしたものなのか?」
「そうですよ! それほど玄司様のツッコミは、このボケルト王国に対して大きな影響を及ぼすんです!」
高橋は珍しく興奮していたかと思ったら、今度は真面目な顔で俺の方を向いた。
「玄司様、改めてお願いです。このボケルト王国の行く末は、あなた様にかかっています。どうか……どうか……」
「ああ分かってる。俺が生き返るついでに、ちゃんと救世主としての役割も果たしてやるよ」
「ああ違います。どうかお茶碗に付いたご飯粒を残さないでくださいと言いたかったんです」
「全然関係ねえじゃねえか! なんだお前オカンか!」
「玄司様がご飯粒を残さず食べればいいんじゃないですか」
「うるせえな! そもそも俺お前のいるところで米食ったことねえだろ!」
そんな真面目な顔で頼むならもうちょっと真面目なこと頼めよ……。ボケルト王国の行く末がどうのって話はどこ行ったんだよ。
まあいいや。とにかく俺は自分が生き返ることを第一に、ついでにこのボケルト王国の救世主になる。だってどっちにしろツッコミ入れてたらいいんだろ? ならボケルト王国も救ってやった方がいい。
「では玄司様、改めてこの先のことについてお話します。ボケルト王国は小さな王国ですので、このオトボケ村から王都に向かう1本のルートしかありません。そのルート上で、玄司様が立ち寄るべき場所がいくつかあります。まずはトイレ」
「早く行ってこいよ! 何今までずっと我慢してたの!?」
「すみません、ずっと追いかけられていたもので……」
「追いかけられるようなことするからだろ! 本当お前今度からはちゃんとマヨネーズ買えよ!?」
「そしてトイレに行った後に向かうべきは、洗面所。歯磨きをしたら、布団に向かいます」
「待ってまさかお前これからの行動全部言おうとしてない!?」
「そうですよ? あ、夢の中での行動についても詳細にお話した方が良かったですか?」
「要らねえよそんな説明! 夢の中でぐらい自由にさせろ!」
「まず玄司様は夢の中でホホジロザメの群れに出会います」
「もうゲームオーバーだわ! 悪夢確定させんなよ!」
そんな説明はいいから、これからの旅路についてとかもっと説明するべきところあるだろ。なんで俺今日見る悪夢の話されてんだよ。
「玄司様には、まずこのオトボケ村をツッコミで救っていただきたいのです。そうすれば、次の目的地、コボケ町への道が拓けます」
「なんか別にいいんだけど、もうちょっと真面目な名前にできなかった!? なんで地名までボケてんだよ!」
「さあ玄司様、まずこのオトボケ村を救いましょう! そして玄司様も生き返り、水道業者として働く夢を叶えるのです!」
「そんな夢持ってねえよ! 俺ピアニストになりたいんだって! なんで水道業者に就職しなきゃいけねえんだよ!」
しかし意外と道は長いんだな……。村を救ったら町、で王都か。まあ目的地は見えた。あとはツッコミ入れて進んでいくだけだな。
腕の中にいるボケルトラクダは、何故か不安そうな目で俺を見ていた。




