第12話 村長ツエツキ
うん、意味分からん。まずラジオがあるのはとりあえず置いとこう。異世界だけどもうボケルト王国はそういうもんだからな。
でそれはいいとして、なんだ「差せ!」って……。新聞振り回してるけど、あれは何の新聞だ? いや心当たりはある。まあパチンコ台役所に入れるのを普通に受け入れる村長だから、有り得る話ではある。
「さあ玄司様、今です! 早く『なんで競馬やってんだよ!』とツッコミを!」
「なんで競馬やってんだよ! ……いや恥ずかしいわ! ツッコミを先回りすんな!」
村長室の入口で騒ぐ俺たちの声で、村長はこちらに気づいたようだ。驚きの表情で俺たちを見ている。
「なんじゃお主らは? この村長に何の用じゃ?」
「あ、高橋です」
「もういいわその何の役にも立たない自己紹介! だから情報を言えって!」
「information」
「バカじゃねえの!? 情報を言えってそういう意味じゃねえよ! あとなんてお前英語知ってんだよ!」
アホの高橋はもうほっとこう。俺はこのラクダの誤解を解きに来たんだ。ちゃんと目的を果たそう。当のラクダは高橋の腕の中で呑気にマヨネーズを吸っているが、もうちょっと真剣になれないものだろうか。お前のために来てやってんだけども。
「む? それはまさか、災厄ではないか! お主ら災厄を連れて来るとは、さてはケチャップ派じゃな?」
「違うわ! 別にその調味料の派閥で争ってねえし! いやちょっとほんと話聞いてくれる!?」
「なんじゃ一体……。とりあえずお主らは何者なんじゃ」
「あ、高橋です」
「お前は黙ってろ! 何回やんだよそれ!」
だがこの高橋の発言が、思わぬ効果を発揮した。村長が更に驚きの表情に変わったんだ。目はもう丸ごと飛び出しており、顎は外れ、鼻からは煙が出ている。いや驚きすぎだろ。どうやって鼻から煙出してんだよこいつ。
「た、高橋じゃと……? 高橋が何故こんなところに……」
「村長、高橋を知ってるのか?」
「もちろんじゃ! 高橋一族はボケルト王国を救う救世主様に道を示す存在! その使命から、高橋一族は『歩くカーナビ』の異名を持っているのじゃ!」
「異名のセンスねえな! カーナビ以外にもなんか道示すもんあっただろ! 地図とか!」
「2メートル先、行き止まりです」
「もう手遅れじゃねえか! 乗んなよお前も!」
「車にですか?」
「ボケにだようるせえな! ややこしいからお前は黙ってろって!」
やかましい高橋を黙らせ、俺は村長の方に向き直る。村長はまだ高橋の存在に驚いているようで、目が飛び出したまんまだ。瞼を通り越してるから物理的に瞬きができないようで、だんだん充血してきている。いいから早く目引っ込めろよめんどくせえな。
「ちょっと待つのじゃ、高橋がここにいるということは、隣にいるのはまさか……救世主様じゃと!」
「ああ……まあ一応そう呼ばれてはいるけども」
「こ、これは失礼なことをしましたじゃ! ワシはオトボケ村の村長、ツエツキですじゃ。誠に申し訳ないですじゃ、救世主様がお見えになるとは知らず、ボートレースに夢中になってしまって……」
「競馬じゃなかったのかよ! いやもうどっちでもいいわ! 職務中にギャンブルすんなよ!」
「それより救世主様、このツエツキに何の用ですじゃ?」
ああそうだそうだ、こいつらが騒がしいせいで本題を忘れるところだった。俺は高橋が抱いているボケルトラクダを指さしながら、改めてツエツキに話を始めた。
「お前らが災厄って呼んでるこいつのことだ。こいつはボケルトラクダ。お前らはこいつが村からマヨネーズを盗んでいくと思ってるけど、実際はそうじゃない」
「ほう……。そうじゃないじゃと?」
「ああ。こいつはただのマヨラーで、マヨネーズはちゃんと自分で買ってる。恐らくマヨラーでラクダとかいう意味不明の存在だから、こいつがマヨネーズを盗むと思われたんだろう。でも、実際にマヨネーズを盗んでるのは高橋だ」
「なんと!? 高橋、お主が盗んでおったのか?」
「村長さんも喜んで飲んでたじゃないですか。マヨラーは全員仲間だとかなんとか言いながら」
「何この村ってマヨラーしかいねえの!? あとなんでマヨネーズ酒みたいに飲んでんだよ!」
「いやあ、あのマヨネーズは絶品じゃったなあ。高橋、また盗んで来てはくれぬか?」
「お前が盗みを助長してどうすんだよ! もう村長辞めちまえお前!」
何故か高橋が盗むのはOKなんだな……。ていうかツエツキのやつ、もう高橋と会ってたんじゃねえか。マヨネーズで酔って忘れちゃったのか?
あとこのツエツキも高橋のことは呼び捨てなのかよ。救世主を導く存在なんだから、もっと崇められたりしててもいいのにな。ああでも異名がカーナビなのか……。それは威厳ねえわ。
ツエツキは少し考えてから、新聞を置いてイヤホンを外した。いやまだイヤホン付けてたのかよ。イヤホン越しに話してたのかよこいつ。
「そのラクダが災厄というのは勘違いじゃと……。あい分かった。ワシが村の住人にそれを伝え、災厄は幻じゃったという事実を広めればいいということじゃな?」
「話が早くて助かる。お前が言うのが1番みんな信用するだろうからな」
「任しておくのじゃ。ではワシは今からマヨネーズ専門店の方に行くが、救世主様も着いて来ますじゃ?」
「いやなんで今マヨネーズ専門店なんか行くんだよ! もっとなんか人が集まる場所とかねえの!?」
「玄司様、この村で人が1番集まるのは、マヨネーズ専門店です」
「もう嫌だこの村! マヨラーしかいねえんだもん!」
「マヨネーズ専門店! ボクも大好きだよ! ねえ高橋、ハチミツマヨネーズは売ってるかな?」
「売ってるとは思いますが、わざわざ買わなくても盗めばいいんじゃないですか?」
「なんでお前救世主を導く存在になれたの!? 早く捕まれよもう!」
振り回していた新聞紙を杖に持ち替えて歩き出すツエツキ。その後ろに俺たちも着いて行き、マヨネーズ専門店で村人たちの誤解を解くことにした。
みんな分かってくれるといいんだけどな……。




