第117話 王城突入
王城に着くと、ヘッポコは門番の仕事を代わってもらった兵隊に軽く挨拶をし、ゆっくりと重い王城の門を開ける。
いよいよ王様と対峙するんだ…….。この結果次第で、俺とボケルト王国の命運が決まる。
改めて生き返りゲージを確認すると、既に100パーセント。あとは王様を満足させることができれば、俺は生き返ることができる。そして、ボケルト王国も救える。今が頑張りどきだ。
「では城金玄司、高橋、王城に入るぞ。お前らは王城に入ったことはあるか?」
「俺はもちろんねえけど……。高橋はあるんだよな?」
「食料庫に忍び込んだことはありますよ。暗くてよく分かりませんでしたが、確かに廊下から見えるドアは1つだった気がします」
「ああ廊下にある冷蔵庫とかあるタイプの家!? 本当にワンルームじゃねえか! 王城なんだからもっと立派にしとけよ!」
「やはり高橋でも部屋に入ったことは無いか……。入って驚くなよ」
なんだよ、そんなに驚くことがあんのか? 俺はもうワンルームの時点で驚き切ったと思うんだが。
真剣な表情のヘッポコは前を向き、玄関ドアへと向かって行く。うん玄関ドアとかあるんだ。まじのアパートじゃねえか。よく見たらドアに101って書いてあるし。いやこの部屋しかねえんだから101しかねえだろ。わざわざ書かなくていいわ。
ヘッポコは鍵を取り出し、玄関ドアを開けた。
「では、入るぞ……」
「玄司様、私ちゃんと王城に入るの初めてなので緊張してきました。心臓がヌルヌルします」
「心臓は多分元々ヌルヌルしてるわ! ドキドキしろよ!」
「あ、靴はここで揃えておいてくれ。誰のものか分からなくなることも多いから、ちゃんと自分の靴を覚えておくよう頼むぞ」
「公民館じゃねえんだから! いまいち緊張感ねえなあ!」
靴を揃えて上がると、巨大な廊下の先に巨大なドアが1つ見える。そして廊下には巨大な冷蔵庫とキッチンがいくつも並び、冷蔵庫の上にはカップスープの箱が重ねておいてある。
いや生活感ありすぎるだろ。王城かこれ本当に。なんで冷蔵庫の上にカップスープの箱おいてあるんだよ。ちゃんとしまっとけよ。キッチン下収納とかあるだろ。
あ、よく見たら右側にもう1つドアあるわ。そんでその横に半透明の折れ戸があるから、多分あれトイレと浴室だな。廊下にあるんだ。まじデカいだけでただのアパートじゃねえかここ。
廊下を歩き、巨大なドアの前でヘッポコが立ち止まる。
「着いたぞ。ここだ」
「見りゃわかるわ! ここしかねえんだから部屋!」
「すまんが、トイレはさっき通り過ぎたあの1つしか無い。もし不安だったら今のうちに」
「初めての映画館か! 別に大丈夫だわ!」
「玄司様、私ちょっと催してきました。快い方です」
「快便確定じゃねえか! 普通大きい方か小さい方で言うんだよ! さっさと行ってこいバカ!」
「大きい方か小さい方かで言うと、低い方です」
「だから大きい方か小さい方かで言えよ! どっちなんだよそれは!」
トイレに向かった高橋を見送って、俺はヘッポコの方に視線を移す。
「なあヘッポコ、俺は本当に王様を満足させられるのかな?」
「それは……分からん。だが確かなことは、高橋はマヨラーだということだ」
「確かすぎるし関係ねえだろそれは! なんで今高橋のマヨラーが出て来たんだよ!」
「あれほどマヨネーズを愛し、マヨネーズに狂わされた者は他に見ない。やつのマヨネーズ愛は、本物だ」
「うんだから何なんだよ! 真面目な顔してそんなどうでもいいこと言うな! 俺の不安を和らげろよ!」
「そう言われてもな……。俺はそこまで器用なげっ歯類ではない」
「ああお前げっ歯類なんだ!? 初めて知ったんだけど!? 親戚がネズミだったりする!?」
「いや、生みの親がカピバラだ」
「ユルい生きものから生まれてんなお前! なんでそんなイカつい人間の見た目になったんだよ! 突然変異にもほどがあるだろ! あとお前養子なんだ!? ハラマキとイドバタの息子じゃなかった!?」
意味不明の生い立ちに意識を持って行かれて、自然と俺の緊張は和らいでいく。もしかしたらこいつはこいつなりに考えてボケてくれたのかもな。
そんなことを話している間に、高橋が戻って来る。
「いやあすみません遅くなりました! ちょっと便が話しかけてきまして。おじいちゃんって」
「せめてパパだろ! なんで1回生み出した上で子孫残してんだよ! この数分の間に便の世代交代したの!?」
「なんですか便の世代交代って」
「俺も知らねえわ! お前が変なこと言うからだろ!」
「高橋、便の母親についてなんだが、ちゃんと出生届は出したのか? まだ届いていないと思うんだが」
「便の世代交代について詳しく掘り下げなくていいわ! どこ真面目なんだよ!」
なんで高橋の排泄の話をこんなに掘り下げなきゃいけねえんだよ……。今1番どうでもいいわ。なんでこのクライマックス前にそんな話してんのこいつら? 緊張感はねえのに、俺だけ王様と対峙するのを考えてちょっと緊張して、バカみたいじゃねえか。返せよ俺の緊張感。
「よし、では部屋に入るぞ。覚悟はいいか?」
「もちろんです。いざとなったらマヨネーズを噴射してやりますよ」
「本当に迷惑だからやめてね!?」
高橋のアホな言葉を聞いているのかいないのか、ヘッポコは真面目な顔でドアを開けた。




