第114話 寝起きの玄司
目を覚ますと、カーテンの隙間から差し込む朝日がマヨネーズモチーフの部屋を照らす。
案の定隣のベッドに高橋の姿は無い。もうこれ以上あいつの寝起きドッキリには引っかからねえぞ。今度はどこにいるんだあいつ……。
起き上がって周りを見渡し、高橋を探す。いねえな……。また窓の外にでもへばりついてんのか? 探しに行ってみるか。
立ち上がろうと布団を捲ると、そこには鬼がいた。
「うわああああ! おいこら高橋お前何やってんだそんなとこで!」
「おはようございます玄司様。ヌメヌメとした良い朝ですね」
「どこに良い要素あるんだよその朝! あと誰の布団がヌメヌメしてんだよ!」
「しかし玄司様、寝る時に足をクロスすると、骨盤の歪みに繋がるリスクがありますよ。ちゃんと真っ直ぐ寝ましょうよ」
「ほっとけようるせえな! まず人の布団に潜り込んで来んな! 猫か!」
「玄司様、私は猫ではありません。鬼です」
「分かってるわ! だからなんでお前ちょいちょい例えが伝わらねえの!?」
本当に何やってんだよこいつは……。絶対驚かねえって決めたのに、やられちゃったじゃねえか。なんか悔しいわ。
まあそれは置いといて、せっかく神のお告げがあったんだ。ヘッポコとの作戦会議でも、このことを伝えないとな。
「どうしたんですか玄司様? まるで傘を差すほどでも無い雨が降って来た時みたいな顔をして」
「俺そんな微妙な顔してた!? ごめん自分ではもっとキリッとしてるつもりだったわ!」
「それより玄司様、何かあったんですか?」
「ああ、ちょっと夢の中で神のお告げがあってな」
「サシのあさげ?」
「神のお告げだわ! あんまサシで朝飯誘うやついねえわ! 相場夜だろ!」
「ですが朝ご飯だとスクランブルエッグがありますよ。お互いのスクランブルエッグを食べさせ合って仲を深める老男若女がいてもいいじゃないですか」
「聞いたことあるようで無い四字熟語! なんでジジイと若い女がスクランブルエッグ食べさせ合ってんだよ! 介護だろそれは!」
「玄司様は歳の差カップルに寛容ではないタイプの方ですか?」
「まずこの話自体がどうでもいいんだわ! お告げの内容聞いてくれよ頼むから!」
なんだスクランブルエッグを食べさせ合うジジイと若い女って……。どうやって神のお告げからそんな話なるんだよ。方向転換がアクロバティックすぎるわ。
「分かりましたよ玄司様。じゃあそのお告げの内容を聞きましょう。なんて言われたんですか? タワシとかですか?」
「なんで神がわざわざ夢に現れて一言『タワシ』って言って去ってくんだよ! シュールすぎるわ!」
「じゃあ何なんですか。勿体ぶらずに早く言ってくださいよ」
「お前が余計なこと言うからだろ! いやな、王様は実は俺のツッコミを受けてみたいと思ってるって言われたんだよ。本当にそうなのかと思ってさ」
「すみません聞いてませんでした。チャウチャウがなんですって?」
「言ってねえわそんなこと! 誰がこのタイミングでもふもふドッグの話するんだよ! 王様が俺のツッコミを受けてみたいと思ってるって話!」
「ああそう言ってたんですか。なら最初からはっきりそう言ってくださいよ」
「言ってたと思うけど!?」
なんでそこまでちゃんと聞けねえんだよ。問題児が過ぎるわこいつ……。ただ、王様の件についてはしっかり考えてくれてるみたいだな。考え込むような仕草で、難しい顔をしている。
「玄司様、神は他に何か言っていませんでしたか? 体育倉庫裏に来いとか」
「それも言ってたけど! そんなことはいいだろ! ああそういや、お前の父親の名前が高橋ヨシノブだって言ってたわ」
「な……何故それを……! そんな大事なことを、何故夢の中で玄司様に伝えてしまうんでしょう! 私は今までひた隠しにしていたと言うのに!」
「なんでお前も神様もその話題に対してだけ異様に敏感なの!? めちゃくちゃどうでもいいぞ!?」
「玄司様、これは私にとってはどうでも良くないかもしれない気がしている問題なんです」
「じゃあ多分どうでもいいよ! そこまで大事じゃねえだろこの話題!」
「せっかく私がここまで隠してきたと言うのに……。せめて私に了承を取ってから言うべきではありませんか?」
「知らねえよ! だからどうでもいいんだって! そんなに重要なこと!?」
「神に対して裁判を起こします。弁護士に相談して来ます」
「待て待てバカ! そんなこと弁護士が取り合ってくれるわけねえだろ! 落ち着け!」
「落ち着きました。ではヘッポコに会う前に予め王様についての作戦を考えておきましょう」
「落ち着きすぎだわ! 急カーブから本筋に戻んな!」
いつにも増してめちゃくちゃだなこいつ……。なんであんなに怒ってたのに急に本筋に戻れるんだよ。不思議すぎるわ。
まあでも高橋の言う通り、予めある程度作戦を考えておいた方がいいよな。無策でヘッポコに会いに行くより、こちら側の作戦を伝えて、王城に詳しいヘッポコに粗を潰してもらうのがベターだ。
「よし高橋、今から作戦を考えよう」
「ちょっと待ってください。今初回相談が無料の弁護士を探してるんです」
「全然落ち着いてねえじゃねえか! 訴訟起こそうとすんなよバカだな!」
「あ、このウソツキっていう弁護士はどうですかね? かなり他より費用が安いです」
「絶対にやめとけ!?」
高橋の弁護士を探す手を無理やり止め、俺たちは王様を満足させるための作戦会議を始めた。




