第110話 マヨネーズを取り返せ
「はあ……はあ……。やっと撒いたか……?」
「お疲れ様です玄司様。うどん出汁でも飲みます?」
「飲まねえよバカ! 余計喉渇くだろ! お前なんか水分とか持ってねえの!?」
「ああ、もちろんですよ。持ってません」
「持ってねえのかよ! このくだりも何回目だよ!? どうせ次はマヨネーズならあるとか言い出すんだろ!?」
「マヨネーズは今持ってないですよ。さっき言ったじゃないですか」
「ああそうか……。このうどん屋にいるシキサイが持ってるんだもんな?」
「そうですよ。でも辛子マヨネーズはあります」
「あるんじゃねえか! なんでお前辛子マヨネーズはマヨネーズカウントじゃねえの!?」
「何言ってるんですか玄司様。辛子マヨネーズとマヨネーズは全然違いますよ。パッケージとか」
「見た目の話!? せめて味の話しろよ!」
高橋のマヨネーズ談義は置いといて、とりあえず休みたいな。うどん屋だし、どっか座らせてもらえないだろうか。
「それにしても玄司様、なんでそんなに疲れてるんですか?」
「お前が交渉失敗したからだろうが! 何初っ端から降伏してんだお前は!」
「いやだって、槍とか向けられたら怖いじゃないですか。私先端恐怖症なんです」
「知らねえよ! 突き進めよ! 門番なんだから槍ぐらい持ってんだろ!」
「しかも耳を抑えてましたよね? あれは何ですか?」
「お前の騒音公害のせいだろ! マヨネーズ無いとあんなことになんの!?」
「そうなんですよ。マヨネーズを摂取しない時間が続くと、あそこまで大きな鼻声を上げてしまうんです」
「あれ鼻声だったんだ! 何お前風邪気味!?」
「そうなんです。ちょっと手首から風邪を引きまして」
「珍しいかかり方! 感染源手首とか聞いたことねえよ!」
何を言ってんだこいつは……。でもあれか、今は騒音公害も収まってるけど、マヨネーズを摂取しないとまたああなるのか? だとしたらマズい。早くマヨネーズをシキサイから取り戻さねえと……。
そんな時、カウンターから緑のベレー帽がチラりと見える。いた! あそこだ!
「高橋、シキサイ見つけたぞ! 早くマヨネーズ取り返すぞ!」
「待ってください。今ブログチェックしてるんです」
「なんで今そんなことしてんだよ! お前ブログやってんの!?」
「そうなんですよ。『高橋ヒデキの浦島太郎現象』っていうタイトルなんですけど」
「なんでその名前で桃太郎じゃねえんだよ! いやあんま言っちゃいけねえけどさ人の名前だから! なんでお前高橋ヒデキって言うの!?」
「親にも名前の由来を聞いたことがあるんですが、桃太〇侍から取ったそうです」
「うんじゃあダメだわ! よくお前そのネタ100話まで隠してたな!」
なんだよ高橋ヒデキの浦島太郎現象って。高橋ヒデキじゃなくてもあんまり意味分かんねえわ。どういうことだよ。
いやそんなこと言ってる場合じゃねえ。シキサイからマヨネーズを取り返さないと、また高橋が騒音公害を起こしてしまう。早く行かないと。
「高橋、早くシキサイのところ行くぞ!」
「仕方ありませんね。今度からはもう少し余裕を持って行動してくださいね?」
「これ全部お前の問題だからな!? なんで俺が説教されてんだよ!」
高橋を連れてシキサイがいる席まで行くと、シキサイは食べ終わったうどんのどんぶりをデッサンしているところだった。
「うん何してんのお前!? そんなもんデッサンして楽しい!?」
「ああなんだ、君かね。吾輩は楽しいからデッサンをしているわけではないのだよ。吾輩は、デッサンをしないと死んでしまうのだよ」
「ああだからずっとデッサンしてんだ! とりあえずなんか描かなきゃいけねえのな!?」
「玄司様、私もずっと呼吸をしないと死んでしまいます」
「分かってるわ! 誰しもみなそうだろ! なんで改めてそんなこと言ったんだよ! ……いやそんなことはいいわ! おいシキサイ、高橋にさっきのマヨネーズ返してやってくれよ」
シキサイはキャンバスからこちらに視線を上げると、ゆっくりと隣の席に置いてあるマヨネーズに手を伸ばした。
「マヨネーズ? そんなものは知らないね。吾輩がいつ高橋のマヨネーズを盗ったと?」
「じゃあお前が今持ってるのは何だよ! 高橋のマヨネーズだろ!」
「玄司様、高橋のマヨネーズだと私が作ったマヨネーズという意味で捉えられるかもしれません。ここはちゃんと『高橋が盗んだマヨネーズ』と言った方が」
「お前これも盗んだのかよ! ちゃんと買ってもらえる!?」
シキサイはマヨネーズを持ち上げてテーブルの上に置き、じっとそのマヨネーズを見る。
「そういえばこれは高橋のものだったね。しかしこのマヨネーズ……非常に良い形をしている。デッサンしたいものだ」
「さっきしたって! 何お前認知症も入ってんの!? いいから早く返してくれよ! 高橋が騒ぎ出すから!」
「仕方ないね。ほら、マヨネーズだよ」
シキサイは高橋にマヨネーズを手渡す。高橋はキャップを開けてマヨネーズを直飲みし、ようやく落ち着いたようでその場で目を閉じ、寝息を立て始めた。
「よく寝れんなお前……。立ってんじゃねえか。ああいや、でもこいつ逆立ちとかで寝れるからそんなもんか」
「それより君たち、王様には会えたのかね?」
「ああ、それが……」
俺が経緯を話そうとしたその時、うどん屋にぞろぞろと兵隊たちが入って来た。




