第101話 高橋の謝罪
高橋ヒデキをまだ消化できていない俺を置いて、王様と高橋の会話は続いていく。いやちょっと待ってくれよ。え、こいつ高橋ヒデキって言うの!? 100話やってきて知らなかったんだけど!?
「何ー? 救世主なんか連れて来ちゃってー。王様に歯向かうつもりー?」
「歯向かうというよりはハムカツが食べたいですね」
「何を言ってんだお前は! ちゃんと会話してあげろよ!」
「高橋の一族がここに来るってことはー、ボケルト王国にツッコミと笑いを取り戻しに来たってことだよねー? そんなことさせないんだからねー?」
「とりあえずハムカツはありますか? ああ、無ければメンチカツでもいいです」
「ランク上がってんじゃねえか! 贅沢言うな! ……いやちょっと待てよ王様、そもそもお前はなんでこの国で笑いを禁止してるんだ? あんなに全員ボケるのにおかしいだろ」
俺が王様に尋ねると、王様はキッと俺の方を睨みつける。白くなった眉毛と髭に、威圧感のある視線。見た目だけは怖いんだよなこいつ。威厳ありそうなのになんであんな喋り方なんだよ。
「そんなことお前に関係なくなーい? 王様が笑い禁止って言ったら禁止なのー! ツッコミなんて以ての外! 論外! チェンマイ!」
「なんで最後タイの都市言ったんだよ! 関係ねえだろ!」
「ほらー、またそうやってツッコミ入れるー! 王様はねー、そうやって笑いを取りに行く人が大嫌いなんだー! ヘッポコ、やっちゃってー!」
「はっ! 貴様、覚悟しろ! 今からこの俺がババ抜きで貴様をボコボコにしてくれる!」
「なんでトランプなんだよ! 武力でなんとかしろよそこは!」
「玄司様、ボケルト王国の決闘は基本的にトランプを使います」
「そうなんだ! ごめんじゃあ俺が知らねえだけだったわ!」
「例外として、フリースローが入ったら文句を言えるというものもあります」
「告白か! 青春の1ページ以外でそんなシーン見ることあるんだ!?」
トランプを持ってジリジリと近づいて来るヘッポコ。王様はその様子を腕を組んで見ている。あいつめ……。なんとかしてちゃんと話がしたいんだが、これじゃ何も話せやしない。あのヘッポコをなんとかしないとな……。
いや落ち着いた状況でもあの王様ならまともに会話できる気しねえけどさ。どう考えてもちゃんも話してくれねえけどさ。
「覚悟しろ! さあー勝負勝負ー!」
「なんで急にそんな時代劇みたいになった!? 雑魚のセリフだろそれ!」
「玄司様、逃げましょう」
「はあ!? なんでだよ! せっかく王様が自分から出て来たんだぞ! 今がチャンスだろ!」
「チャンスとかちゃんことか関係無いんです」
「ちゃんこは言ってねえわ!」
高橋はヘッポコの方にちらりと目を向けてから、俺の方に視線を戻す。
「玄司様、今は引くべきです。今落ち着いて話せる状況じゃないでしょう?」
「そりゃそうだけど……。あの王様がまた出て来てくれるって保証はねえだろ」
「大丈夫ですよ。王は1日に8回は散歩に出て来ます」
「暇か! なんだその老後の時間の持て余し方は!」
「だから今じゃなくてもいいんです。それに、何より……」
「何より?」
高橋は俺の方を心配そうな目で見つめる。
「玄司様はまだ、私が高橋ヒデキだということを受け入れられていないでしょう?」
「そうだけども! 確かに受け入れられてはねえけど! 今そんなこと言ってる場合か!」
「さあ、逃げますよ」
高橋は俺を担ぎ上げ、肩に乗せたまま走り出す。え、こいつこんなに速かったか!? 車ぐらいの速度出てる気がするけど!?
……いや、まあ見た目は鬼のバケモノだから、速いのは不思議じゃないんだけどさ。でもこいつバック走だと50メートル走るのに2時間18分59秒かかるからさ。その前提があるからびっくりしてんだわ。多分初見ならびっくりしねえわ。改めてなんだこいつ。
高橋に担がれて宿まで戻って来た俺は、部屋の前でようやく地面に降ろされた。
「いやあ、危なかったですね玄司様。大丈夫でしたか?」
「ああ、別に何も怪我とかはしてねえけど……。それよりお前、なんで逃げたんだよ?」
「玄司様が危なかったからですよ。私は救世主を導く存在、そして救世主を守る存在です。玄司様を守るためなら例え40℃の熱湯の中へでも行きます」
「適温じゃねえか! 何しっかり温まってんだよ!」
高橋は部屋のドアを開けて中に入るよう俺を促す。俺はそのまま中に入り、マヨネーズ容器を模したソファに座った。
すると高橋は、俺の目の前でいきなり土下座の姿勢を取る。
「黙っていて、本当にすみませんでした!」
「え!? お前なんだよいきなり! 何の話だよ!?」
「私のフルネームが高橋ヒデキだということについてです」
「うん今めちゃくちゃどうでもいいわ! 衝撃ではあったけども!」
「あの桃太〇侍と同姓同名だということを黙っているのは気が引けたのですが……。初見でいきなりその事実を言ってしまうと、混乱させてしまうと思いまして」
「大正解だよその判断は! お前がいきなりフルネーム名乗ってたら大混乱だったわ!」
「いつ言おうかと悩んでいたのですが、まさかこのタイミングで暴露されてしまうとは……」
「いや別にいいよ!? 別にいいしどうでもいいわ!」
「本当に申し訳ありません……。ですが、私は玄司様に嘘をついていたわけではないのです」
「分かってるしそんな重要じゃねえよそれ! いいから顔上げろバカ!」
高橋のフルネームはどうでもいいが、問題はあの王様だな……。話し方に対して頭は固そうだったし、どう話したものか……。




