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ADHAM  作者: 三途川末期
2/2

第2話「Who breathes inner me?」

 

 Nobody, no me.


Someone breathes inside of me.


Don’t breathe inner me.




1.Prologue:dark room

──────────────────────


 暗室に静かに響いている──。

真新しくはないデバイスの、少し埃被った可動音と

画面に映る映像から僅かに漏れ出る音だけがそこに在った。

ディスプレイを取り囲む男たちは呼吸すらも禁じられているかのように黙り込んでいる。


PCの前には、ドレッドヘアに真っ赤なアロハシャツの男が座り、彼を中心に、少し後方に白い制服に身を包む青年が一人、その隣に白衣の青年、その反対側にスーツの男たちが立ち、1つのディスプレイを見守る様に、または畏怖するかの様に見つめていた。

きっと良くないものが流れているのだろう。

皆眉を顰め、白い制服の青年に至っては、

同じく真っ白なハンカチで口元まで抑えている始末だ。


ノイズがかった映像がブツ、と切れたのと

誰かが、ふう、と息を吐いたのは同時だった。


アロハシャツの男、権藤は困った様にこめかみを揉む。凝り固まった背筋を解すように身じろぎをし、天井を仰ぎ見る。

ギ、と椅子が揺れる。

仄暗い電灯は答えを返してくれない。


うーん、と小さく唸り、ぼんやりと画面の再生ボタンを見るが、自分と男達の姿が反射しているだけだ。

食い入るように画面を見つめ、前屈みに座り直す。

組んだ指を上から順に動かし、

権藤は重い口を開いた。

「本件は特別機密事項L-401に該当します。

…ここで見たものに関してはこの室内で留めるように。

お願いします。」


権藤の決定に、難色を示したのか

スーツの男が口を開きかけるが、

サングラス越しの目が揺らがないことを悟り、

バツが悪そうに黙り込んだ。

「うん、東京都治安維持局として、そう判断しました。」

穏やかな声色が、室内の重い空気に浮いている。

尚も動こうとしないスーツの男達は

無言で抵抗を表しているのか。


権藤の発言に重ねるようにして

白衣の青年が内鍵を外し、ドアを上げる。

廊下から入ってきた明かりに埃が舞っているのが見えた。

「じゃあ、帰ってもらっていいですよね〜

はい、どうぞ、ほら。」

人の良さそうな笑顔だが、早く、という圧を感じる。

ほら、と青年がもう一度言うと、スーツの男達は

顔を見合わせながら渋々部屋を出て行った。

カツカツと急ぎ気味に革底が廊下を打つ音がして、消えていく。


室内に残った者たちも部屋を後にしようと機材や証拠の撤収にかかる。

電源用コードや鍵、使わなかったプレイヤーなどを片付けていく。

「それじゃあ、出ましょうか」

権藤の声に青年らが頷き先に部屋を出る。

最後に部屋を一望しながら、何も残っていないことを確認する。


此処には何も無かった。

此処では何も無かった。


パチリ、と

電灯のスイッチが切られ、

真っ暗な部屋からは誰もいなくなった。

--------------------------------------------------------


○録画された映像を見る所長「…ここで見たものに関してはこの室内で留めるように。」

→PCの画面に映し出されたのは24日(1話)の夜の白河邸の様子だった。所長を含む、監視官(ハンダ)情報管(ユマ)、国の役員(第三者管理部)、計5名ほどでディスプレイを確認。

※モモコは未成年者のため閲覧不可

※後からハンダより事実は伏せられたまま「目ぇ離さんようにお願いします、やて」と伝えられる。




scene2:AM3:00

──────────────────────────

 

 夢をみていた。

多分、夢だと思う。

夢だ、とわかる夢だ。

わかっているのに、瞼だけが重くて

開くことができない。

起きなければ、と思うのに、

全身が穏やかな倦怠感に包まれていて、

身を任せてしまう。

起きなければ、今、と思うのに、

体が思うように動かせず、

ブランケットの中で足が僅かに動くだけだった。

遅れて腕を反対側へとやる。

布団の冷たさが心地よい。


ブラインドの隙間から月明かりが照らしている。

瞼の下で眼球がぴくり、と動いた。

ベッド脇のデジタル時計の夜光塗料が塗られた数字は

もう直ぐ3時をなろうとしている。


 夢をみている。

きっと夢だ。

目の前にあるのは住み慣れた家のドア。

アンティーク調の、無駄に装飾的すぎるドアだ。

ドアノブに手をかけて右に回すと、

キィ…と高い音がして、簡単に開く。

中に入る。

玄関の靴箱の上に置かれた写真立て。

今は行方不明の叔父と、自分が映った写真が入れてある。

夢の中だから靴は履いていない。

だから靴を脱ぐ必要もない。

そのままフローリングの床に足を乗せる。


さり、と何かを踏んだ感触がして

あっ、と思う。

わたしはこれを知っている。

あっ、と思う。

途端、鼻腔を擽る土と生臭い香り。

嫌だ、と思った。

此処から先に進んではいけない。

此処から先を見るのは嫌だった。


 「うぅ……!」

白い小さな歯の間から呻き声が漏れる。

眉間に寄せられた皺は深く、

悪夢に魘されているのは明白だった。

踠いた膝でブランケットの影の形が変わる。

早く目覚めたいだろうに、

目頭には逆に力が入り、ぎゅう、と目を瞑っている。

強く噛んだ歯が一瞬緩み、はあ、と息を吐いた。


 はあ、

はあ、

はあ、

はあ、

夢の中で呼吸をしていた。

見てはいけないのに。

視線が外せないのだ。

何か大きな生き物の口のように暗く

ぽっかりと開いた廊下のドアの向こう。

視線が固定されてしまっている。

生臭い。

鉄臭い。

もうこの香りの正体を知っている。


昏がりの中の血走った目と目が合った。

その瞬間、バチン、と弾けたように動けるようになる。

逃げなきゃ、そう思った。


そうでなければ追ってくる、アイツが。

あの男が、追ってくる。

頬を何度も張り、馬乗りになって襲ってくるはずだ。

そうしてあの汚れた鋭い「吸血鬼」みたいな牙を

わたしの喉元に突き刺すのだ。


いつの間にか廊下には無数の鴉の死骸や

生ゴミが散乱し、腐臭を放っていた。

そんなことお構いなしに、

見知った恐怖から逃れるため、闇から背を向け

走り出す。

無我夢中で、玄関の外から出る。

逃げなければ。

逃げなければ。


とにかく走って、手当たり次第、

出来るだけ遠ざかるように走った。

はあ、

はあ、

はあ、

はあ、

息だけが上がり、逃げ切った実感が湧かない。

夢だからか。

しかしこの上がった心拍数は夢ではなさそうだった。


いつの間にか森の中を走っていた。

いや、これは家の近くの森林公園?。

それにしては木々の闇が深すぎる。

とうに靴下は泥だらけで、跳ねた土汚れが太ももにまで跳んでいる。

男の気配は感じなくなったのに、

見られている気がする。

目を凝らして見てみると枝々の隙間から

光沢のある目が光った。

鳥の目だ。

木の枝に鳥達が止まっている。

自分だけが懸命に走っているのに、

鳥達はずっと静かに此方を見ていた。


気味悪い…、と目を伏して走り去ろうとした瞬間、

鳥達は謳い出した。

女とも、男ともつかない声色で、

高くもなく、低くもない、不思議な声色で、

ともすれば人間ではないのかもしれない。


  『棺から目醒める十三羽の鳥の王は 

  あなたをずっと見ている 

  ずっと見ている ずっと見ている

  あなたのそばの木陰 洞窟の中 街灯の上 屋根裏、

  カーテンの後ろ あなたのベッドの下から

  ずっと見ている ずっと見ている ずっと見ている

  怪物退治のヴォーパルの剣は、

  肉から生まれた生命を絶つナイフ

  皿の上のハンプティダンプティは、

  落ちたらもう戻らない』


不気味な歌に気を取られ、

ぬかるみに足が嵌まる。

「あっ」、と手をつこうと前に出す。

同時に後ろから胸ぐらを力強く掴まれ、

体を引かれ、転ぶことはなかったが、

嫌な予感で胸中が満たされていた。


はあ、

はあ、

はあ、

はあ、


耳裏に生暖かい肉を感じる。

纏った臭気に、ヒッと息が詰まった。

まさか、と目だけで横を見て、

真っ赤な、血色の恐怖が眼前に広がった。


「……よォ、捕まえたぜ」

ざらついた声が喜びと苛立ちを滲ませて微笑んでくる。

その口唇を捲った奥の牙は異様に鋭く尖っている。

男が大きく口が開いた。

首筋に向かって、勢いよく牙が振り下ろされる。

断頭台のギロチンのように、鋭く、冷酷に、無慈悲に。

「いや、」

「御前もコッチ側なんだよ!あはははは!」

狂った笑い声から逃れたくて。

踠いても体に力が入らない。

ぬるま湯をかき分けてるかのようだ。

夢だ。夢だ。夢だ。こんなの夢だ。


「い、いや、…嫌ーーーーーッッッッ!!!」


 ブツ"、と嫌な音を耳元で感じたところで目が覚めた。

はあ、はあ、はあ、はあ、と乱れた息と

じっとりかいた汗が、まだ身体に緊張感を残している。

室内に漂う冷気が、ここが現実だと教えてくれる。

念のため首筋に触れるが、そこに傷一つ残ってはいなかった。


眠気とあまりに生々しい夢の感覚の間で頭痛がする。

ブラインドの外はまだ鳶色が濃く、月が雲に隠れて仄かな輝きで街を照らしていた。

疲弊し、重くなった身体を引きずって、洗面台に向かう。

ふわふわとした足取りはまるで夢遊病者のようだった。


洗面台で顔を濡らし、タオルで拭く。

前髪の一房から雫が垂れるのを鏡越しに見ていた。

「……わたしは、…」

ボソと声に出してみるが、

その後に続く言葉を見つけらない。

三面鏡に映る自分は一体、何なのだろうか。

す、と深呼吸をして、息を吐く。

目を閉じて、開けて、映る姿を見る。

映っているのは少し寝不足気味の、

白河星(しらかわ ひかる)だ。

そう、きっとこのまま何も変わらない。

そう思いベッドへ戻った。

洗面台から戻る途中、冷蔵庫からとってきた

ミネラルウォーターはよく冷えていて、

かいた汗を程よく冷やしてくれる。

もういちど枕に頭を沈め、ブランケットを胸元まで引き上げる。

月を背中にするように向きを変え、

またやってきた眠気に抗うことなく瞼を下ろした。

時計の時刻はAM3:00を指していた。


--------------------------------------------------------

○悪夢を見る星




scene3. Across the Glass

──────────────────────────


 あ、やっちゃった…と崩れた目玉焼きをみて思った。

黄身がとろりと溶け出して、皿にゆるやかに円形をつくる。

一緒に盛り付けたサラダや空白の部分にも侵食して、

パンの柔らかい部分が卵色に染まっていく。

それをジッと見ていた。


星はどちらかと言うと黄身は黄身で食べたい派だ。

白身や他の具材と味が混ざって、

ぐちゃぐちゃになるのはあまり好きではなかった。

見た目も少し汚い。

いつもは硬めに焼いた黄身と白身の間にナイフを差し込んで、フォークを使って上手く切り離して食べるのだが、

他人の焼いたものだと如何も上手くいかないらしい。

何だかツイていないような、情けないような気持ちになって

仕方がない、と上から隠すようにハムを乗せて食べる。

やっぱり別に食べたかったなあ、などと思っていると


「星さん、白河星さん!ちょっと、あなた聞いてますの?」

と高い声で名前を呼ばれて我に帰った。

向かいに座った少女、茜家モモコ(せんげ)はアイスティーにはいったミルクをストローで混ぜながら、形の良い眉を吊り上げていた。


「あ、えぇと…はは…」

曖昧な返事に苛立ちを感じたのか、眉尻がさらにきゅ、と上がる。

逆に口角は下に下がり、ムッとした顔になる。

何だか自分と一緒にいる時の彼女は、この表情のことが多い気がする。


「全く!仕方ないからもう一度説明いたしますけれど、しっかりしてくださらないと困ります。私達は暇ではないんですから。遊びでやってるんじゃありませんのよ。」

初対面の時に言い争いになったからか、

相性が悪いのか、

彼女の少々高飛車な物言いも、

正義漢ぶった、

きっぱりと言い切るようなところも正直苦手だった。


水滴がついたグラス越しに、氷がカラコロと鳴るのを

何処か他人事のように聞いていた。

要するに、IDカードが出来上がったのでこれから人事部に取りに行く必要があるとか、改めて維局の案内をしつつ今日から本格的な業務に参加することになるとか、そのためのブリーフィングが午後にあるとか、そういう話だった。


「えっ、今日からその任務?とかやるんですか?私が?」

聞き流してしまったが、今日から?早くないか?と思い直して、焦った声が出る。

だってあんなバカみたいに力の強い、化け物みたいなものを相手にするのに、特に何も習ったりしていない。

というか、以前に「あなたにはアレを倒す力がある」とか言われたけど、あの化け物の倒し方とか?知らないし。


「ええ、あなた以外に誰が?あなたの本来やるべきことを果たして貰いますわ。そのために維局に入っていただいたのですから。それに現場に早くなれるには現場を体験するのが早いので。」 

「ええ……」 


淡々と、当たり前のように言われてこっちが可笑しいのか、と自分の感覚を一瞬疑ってしまった。

「本来やるべきこと」もそちら側が勝手に期待したことであって、自分が決めたわけでも、望んでもない。

ただ(権藤さん?とかいう人曰く)維局の情報網を使えば、叔父の行方を探せるかもしれないという話だったから乗っただけだ。

勝手に決めないでほしいし、

そういう。自分がさも正しいです、みたいな顔をして話せるところも苦手だなぁ…と思う。


「何か?」

「…いや、…はあ……まあ、…」

色々な感想が脳裏をよぎって、怪訝そうにしたグレーがかった瞳と目が合ったから、つい反射的に逸らしてしまった。

曖昧な態度ばかりとるから苛立たせてしまったのだろうか。

怒った顔、というかいつもムッとしているからよくわからない。


「それにしても白河さん、あなた、よく食べますのね。」

周りに重ねられた皿を見て、

説明している時と変わらない淡々とした声色で言うから、

嫌味なのか、感想なのかわからず、やっぱりよくわかんないな…と思った。


「へへ…そ、そうですかね…?」とまた、へらり、と笑うと

モモコは興味を失ったのか、無言でまたグラスの中身を、くるりと混ぜた。





scene4:another place

─────────────────────────


 沈黙の中、靴音だけが二人の間を繋いでいた。

食堂を出て、まずは人事部のある22階へ向かう。

人事部でIDカードを受け取った後、

実際の執務室などへ出入室が出来るか確認しながら、

施設案内も、ということらしい。


少しだけ背の高い頭を見つめてぼんやりと後を歩く。

手入れがされた、高そうな艶のあるローファーは

星の履いているスニーカーとは違って、

コツン、コツン、と静かに音がする。

それが妙に心地良いからか、

あまり無理に会話をしようという気にはならなかった。

そもそもまた下手に話をして怒らせても面倒くさそうだ。


 22階につくと、あっさりとした顔の人が、

思ったよりあっさりとIDカードを渡してきた。


「ここと、ここに判子、あ、こっちはサインでも大丈夫です。はい。」

「あ、…えーと、じゃあ、判子で…」


言われるがまま、受取書の「印」がついた場所に印鑑を押し当てる。

2つの印のうち1つは、長年使ってなかったからか、

力みすぎたのか、

ダマになってブレたようになってしまった。

じわり、と滲んだ箇所に、なんだか血のシミみたい、と思ったが、特段問題はないみたいだった。


モモコが管理者ということでサインをしている間に

オフィスを見回してみる。

大きなガラス張りの大きな窓が全面的にあって光がいっぱい入ってくる。

偉そうな(これは職位が上そうという意味)人のデスクに置かれた植物も、

心なしか育っている気がする。

純白のデスクが列になって沢山並んでいて、

その上には同じくらい沢山のパソコンが置かれていた。

モニタの後ろ側には、デスクて同じ色の衝立がしてあって、

そこに適当にプラスチック製の名札が掛かっている。


当たり前だが、学校の教室とは全く違う空間で、

皆黙々と業務をしていて、

カタカタとキーボードを打つ音だけが響いていた。

手元のIDカードを見てみる。

名前と、恐らく個人の番号らしきもの、バーコード、

そしてそれらの横に顔写真が印刷されている。

写っている顔は口がへの字になり、むすくれて見える。

わたしの顔、こんなんだったっけ?と思いながら、

ストラップに首を通した。


全然違う場所だ、と思う。

光も、空気も、人も。

全てが違くて落ち着かなかった。 





scene5:XI:SILENCE

─────────────────────────


 「ありがとうございました。では、」

モモコのサインも終わって、人事課を後にする。

スタスタと歩いて行ってしまう彼女の背中を追う。

途中、人事の男にお礼を言っていないことに気づき、

慌てて振り向いてぺこ、と頭を下げたが、

相手は深々としたお辞儀を続けており、

視線が合うこともなかった。


「今のが人事課、何か手続きで困ったことがあれば

メールなどで質問するとすぐに教えてくれますから、

お世話になることも多いです。」

「はあ…」

「は総務部、と情報システム部へいきましょうか。

情報システム部と直接やりとりすることは少ないでしょうけれど、

やはりお世話にはなると思いますから。」

「はあ」



「では次は、」「はあ」のやり取りを何回かして、

連れていかれるがままに歩き、

22階から20階、19階、と下がっていく。


行く先々で「し、白河星です。よろしくお願いします。」と

慣れない自己紹介をして、その度にお辞儀をして、

お辞儀をされての繰り返しで、

自分がなんだか自動人形にでもなった気分になる。


誰もがみんな冷静で、淡々としている、

そんな印象だった。

へら、と会釈などしてみても、

特に意味があるわけでもなく、

愛想笑いのし損と言った感じがする。

大人ってこんなものなのだろうか。

今日何度目かのエレベーターに乗り込んで、

モモコがボタンを押すのを見ていた。



 「…それでは、地下へ向かいましょう。

今挨拶をしてきた部署は特段珍しさはなかったでしょうが、

これから行く地下は、我々が『維局』であることの意味が

わかるところだと思いますよ。」

「は、はい…」


何処か緊張感のある眼差しに、

ごくり、と唾を飲み込む。

そもそも「維局」である、こともよくわかっていなかったが、

あんな化け物を相手にしているのだ、 

これから行く場所はきっと特別なのだ。


並んだボタンの「B11」が光っている。

「ち、地下11階って、随分と深いんですね…」

「ええ、重要機密エリアなので。」

会話が途切れ、「重要機密」という単語が重くのしかかる。

気まずくて、頭の中で言われた言葉を繰り返してみる。


重要機密、じゅうようきみつ、ジュウヨウキミツ…。

そりゃ確かにさっきまで挨拶してきた普通そうな人達が

あんなのと戦うわけないか、

だってあまりにも普通そうだったと妙に納得してしまう。


そんな重要な、秘められた場所に、

どんな人達がいるのか、全く予想がつかない。

ジェイソン・ステイサムや

ドウェイン・ジョンソンみたいな

人達ばかりだったらどうしよう、と想像を巡らせてみる。

けれどもどれも映画でみたアクションシーンのような、

フィクションが浮かんでは消えて、

あまり意味がなかった。


緊張感にじわ、と冷たい汗をかきはじめ、

落ち着かなくなる。

盗み見るようにモモコの顔を見るが、

矢張り目は合わなかった。


『ドアが閉まります。』

閉ボタンが押されて、電子音声が流れる。

ドアが閉まった。

首を伸ばして階数を知らせる表示を睨むように眉間に軽く力を入れる。

数字のカウントがどんどん減っていく。

“Abbandonate ogni speranza, quando questa porta si chiude.

(この門が閉まる時、汝一切の希望を棄てよ)”だ。

何処か祈るような気持ちで、もう一度唾を飲み込んだ。


---------------------------------------------------------------------------


 「…地下は維局ならではとも言える特殊な領域ですが、

あなた方『特別保安官』は殆どの時間を此処で過ごすこととなります。

慣れていただきたい所ですね。」


「先程の人事課やシステム部とはわたくし達がやりとりする部署ですから、

…まあ、お名前などは忘れてしまっても大丈夫です。

都度聞いてくださればお教えします。」 


落ち着かない様子の星を見て、何か感じとったのか、

モモコが発した言葉達はエレベーターの中で自然と溶けていったような気がした。


「"わたくしたち"?」

何か含みがある気がして、隣に並ぶ横顔を見る。

というか、忘れてしまって大丈夫って…、

冗談か何かだろうか。

彼女とは今日は朝から一緒にいたはずだが、

何だか今はじめて、じっくり顔を見た気がする。


綺麗な顔だな、と思った。

つん、と尖った鼻と、形の良い眉。

つん、とした、グレーがかった目の形が猫を思わせる。

凛としていて、

どちらかというと丸みを帯びている自分の目と違って、

自立したイメージを持たせる。

そんなことを考えていると、ちら、と目があって、

もしかして、さっきのは和ませるためのジョークだったのかもしれない、

と思った。


モモコが前を向いた。

その横顔、立ち姿、上から下までじっくり眺めて、

初めて、髪の隙間から見えるIDカードのストラップの色が

自分のものとは異なっていたことに気づいた。


「あ、ストラップの色。」

「ええ、そう。わたくしと星さんは厳密に言えば役職が異なりますの。

だから、違うんです、色。」

相変わらず視線を前に向けたまま言葉を紡いでいく。

星のストラップは黒だが、モモコのは白に近いグレーだ。


「えっと、…あっ、茜家さんの方が偉いから…?」

「いいえ、わたくし達の職位に差はありません、同じです。

あなたが『特別保安官』、つまり対ヴェノム保護を専門に行うのに対して、わたくしは『特別管理官』だから。」


「他にも、ほら、」と見せられたIDカードの右上、濃いグレーで印字されたロゴマークがあった。

あわてて自分のものを確認すると確かに違う。

星のロゴマークは紐と同じく黒色だった。


「わたくしはあなた方『保安官』をサポートする役割になりますの。

そのため、保安官と人事課やシステム部との間に入って業務することが多いんです。」

「へぇ…てっきり同じなのかと思ってた…」

「残念ながら。でも同じ班ですから、接する機会は多くありますわ。なのでわからないことはわたくしに聞いてください。……それから、」 

 


『ドアが開きます』



 会話を遮り、

チン、と高い音がした。

アナウンスと共にエレベーターが止まる。

それと同時に二人も口を噤む。

止まったのはF1、つまりエントランスがある階だ。

しかし、開いたドアの先には誰もおらず、

パッと開けた光と、鈍色に光を反射する対岸のエレベータードアが

見えただけだった。


再度、モモコの形の良い指先が「閉」ボタンを押す。

『ドアが閉まります』

また静かにドアが閉まり、密室となる。

二人を乗せた箱は地下に降りていく。

沈黙と緊張感、僅かな呼吸がこの箱の中で繰り返される──。

もう長い時間、無限に繰り返されたやりとりのように感じた。



 「あの、それからって…、さっき言いかけてたことって…」

今度は星の方から口を開いた。

また目が合う。

グレーの瞳に、ジ、と見られている。

「…それから、わたくしのことは“モモコ"とお呼びください。

“茜家“って呼びにくいでしょう。」


…へ、と思わず気の抜けた声が出てしまう。

業務についての小難しい話かと思ったのだ。

名前の呼び方なんて

そんな、小学生の子供みたいなこと。

いや、自分達は15歳なのだから子供ではあるのだけれど…。

今話されるとは思っていなかった。


「星さん?」

予想外の内容に変な沈黙ができてしまい、不審がったのか

怪訝な顔を向けられる。


「あっ、いやっ、わ、わかりました!

モ、モモコ、さん!モモコさん、で…。

あっ、で、でも呼びにくいなんて…全然!わたしは格好いい苗字だなって

思いました、けど……」

「…」

不自然な空気を打ち消そうと、反射的に声を張り、

矢継ぎ早に言葉が出てくる。

余計なことまで言ってしまったのかもしれない。

短い沈黙のあと、ちょっとムッとした、あの表情。

あ、また、と思った時丁度チンッと音が鳴って、

自動音声が目的階へ着いたことを知らせた。



『ドアが開きます』。




scene6:TOKYO Security Maintenance and Control Bureau

─────────────────────────

 

 「維局の重要機密エリア」、地下11階。

足を踏み入れる時、

ドクドクと鼓動が耳に反響した気がした。

エレベーターホールの両側にガラスドアで入室制限がされている。

B11 の文字の下、モモコの後に続き、

タッチパネルにIDをかざすとピッ、と

軽快な音がして、ロックが解除された。


重いガラス製のドアを通り、通路に立つ。

キョロキョロと見渡してみるが、

どこも同じ造りのようになっていて、

迷ってしまいそうだ。

違うとすれば複数あるドアの左についている

シルバープレートのナンバーぐらいだろうか。


キューブリック作品の空間に対する不気味さみたいなものを感じる。

それに、先程の人事部も静かだったが、

此処はまた異様なほどに静かだった。

自分達の他に人がいるのかと、

疑いたくなるほどに、だ。

それが余計、人工的な不気味さを助長しているのだろう。


「静かでしょう。

此処の壁は完全防音になっていますし、

職員達もそんなに大きな声で話しませんから。」

星の考えを見透かしたかのようにモモコは話す。

皆さん、おっしゃいます、と少しボリュームを抑えた声でもしっかりと聞こえるから、 

下手に声を出したら響いてしまいそうで、

頷きだけで返事をした。


見渡す限りが白一色。

一つの濁りも、模様もない白に目が眩みそうになる。

白い壁に白い天井、白い蛍光灯、

ツルツルした床だけは少し灰色がかっていて、まるで病院だ。


どうぞ、と小部屋に案内されて

言われるがままに椅子に座る。

あらかじめ準備されていたのだろう。

モモコがカチカチ、とマウスを弄ると目の前のスクリーンに

『東京都治安維持局 概要説明』のタイトルが出て来た。


「先日資料もお渡ししましたが、改めて色々と説明させていただきますわね。」


カチ、と音がしてビルの写真が映し出される。

自分達が今いるガラス張りの高層ビルだ。

上空から見ると11角形になっていて、

歪だが、何故かバランスが取れているようにも見える。


「我々が所属する『東京都治安維持局』は政府公認団体として、

警察や医療機関などと協力して活動をしています。

わたくし達は「ヴェノム対策専門」の組織として

ヴェノムが関わる事象の全てに関わり、捜査・保護・調査・研究、

情報収集・分析、を行います。

その中で、ヴェノムとの交戦も行うことも少なくありません。」


スクリーンに「捜査」「保護」「調査・研究」「情報収集・分析」などの

文字とデフォルメされたピクトグラムのようなものが浮かぶ。


「あ、あの…保護なんですか?討伐とかじゃなくて?」

あんな化け物を保護するということなのか、如何して?

頭の中に浮かんできた疑問をそのまま口にする。

モモコの方を見ると、聞かれることが既にわかっていたという顔をして、微かに頷き、手元のマウスをもう一度クリックした。


画面が切り替わり、『維局の目的』という大見出しが見える。

そのあとに続く文章の、ところどころ太字や赤線が引いてある箇所に目を走らせる。

文字の量が多くて情報を上手く整理できない。

「そう思うのも無理はありませんわ。…しかし、維局の最大の目的は東京都の治安維持、その対象には人もヴェノムも問わず、含まれているのです。」


「そんなのって」

「維局の目的はヴェノムの殲滅、ではありません。あくまでも治安維持のため、共存を望んでいます。」

「…ヴェノムの中には、敵意のない方もいるんです。あなたが遭遇したような者ばかりではない、ということは覚えておいてください。

無抵抗な者に振るう力はただの暴力であり、正義ではない。

我々は正義でなくてはならない。」


そんなことは綺麗事だ、と言おうとして、ぐっと口を噤む。

視線が合わさったモモコの目の力強さに圧倒されてしまったからだ。

真っ直ぐな、澄んだ目。

自分の言葉を、心を、歩んでいく道を、信じて疑わない人の目だ。

そんな目の人に、敵うはずがない。

何を言っても理解るはずがない。

この人は揺るがない人だ。

きっと目の前にいる少女は、理不尽さに負けない人だ。

最後まで立ち続ける気力がある人だ。

強い、人なのだ。

強い人には理解るはずがない。

如何に理不尽な不幸が暴力的で、

そんなものを目の前にした時の無力感を、

この人は知らないのだ。

机の上の拳を気付かれないようにぎゅ、と握った。


「…仰りたいこともわかりますわ。無抵抗なヴェノムの方が珍しいのは事実。対峙する殆どは、星さん、あなたが遭遇した彼のように攻撃性が極めて高く、暴力をも厭わない。その場合のみ、我々は武力を以て“無力化"し“保護“します。暴力ではなく、武力で。その”無力化“に、あなた方『特別保安官』の力が必要ということなのです。」

理論として理解は出来ても、何処か納得がいかない。

苛立ちのような、黒ずんだものを胸の中に感じる。

何だか居心地が悪くて、太ももを擦り合わせるようにして、座り直した。


「…その“無力化"って何なんですか。わたしを『毒』として使って何かするんですか。」

初めて会った際に『毒をもって毒を制す』と言われたことを思い出し、

硬い声が出る。

悪いことを言っているつもりはないが、

モモコの目を見る事はできなかった。


だって向こうが「正しい」なら、こっちが「間違っている」ことになる。

わたしは毒なんかじゃない。

わたしはあんな奴らとは違うのだ。

一緒になんてしないでほしい。

この感覚は「間違っていない」はずだ。


モモコも何か引っかかったようだが、あえて言及はしなかった。

わずかに唇を結んだ後、再び言葉を紡ぐ。

「あなたの『毒』を用いるかどうかは、現時点では未定です。何しろ、あなたという存在は極めて希少で、未知の要素が多すぎますから。武器とは、正しく扱ってこそ武器なのです。——誰も、自らの牙で自分を傷つけたいとは思わないでしょう?あなたという存在は『毒』にも『牙』にも『盾』にもなり得る、…だからこそ運用は、慎重に、丁重に判断する必要があると考えています。」


「“無力化"は我々通常の人間とクルースニク、また一部、ヴェノムの職員の受け入れもしていますから、その方達と共に従来の方法で行ってもらいます。文字通り、ヴェノムの弱点を突いて戦闘が不可能な状態にする、場合によっては拘束し、専門機関にて収容します。あなたの生態には謎が多いですが、ダンピールは身体能力や五感に優れていると伝え聞いていますから、そういった特性を活かしていただくことを期待しています。」


つらつらと、まるで台本でも用意されていたのか。

流暢に語るモモコの視線はこちらを向いていてブレない。

あくまでも星自身に語りかけている、にもかかわらず

そこに情や温度などは存在せず、

この組織が星にとってどのような姿勢を取ろうとしているのか、明らかにされた気がした。


維局は星を、あくまでもヴェノムに「対策」の一要素としてしか考えていないのだろう。

ただ「代用の効かない」モノとして、ある程度は丁重に扱う、そういうことなのだ。

一貫して「使われる」ことを前提とした身勝手な都合に

怒りを通り越して呆れが出てくる。


人々を守る、その人々にわたしは入っていないのか?と思う。

あのアロハシャツの人が言っていた言葉、「君自身を守ることにも、周りを守ることにも繋がる」これは真実なのだろうか。

“わたしのため"の言葉ではなかったのかもしれない。

テイサイ、というやつだったのかもしれない。


何処か腑に落ちないものを抱えつつ、

きっとこれ以上の言及は無駄だと諦め、話を変える。

「…それと、くるーすにく?って何ですか?ヴェノムの他にも似たようなのがいるんですか?」

あんなもの2つも3つもいてたまるか、と思いながらモモコの目を見返す。

僅かな抵抗心のつもりで。


「あぁ、申し訳ありません。それについても、ちゃんと説明いたしますわ。」

そう言ってあまり申し訳なさそうではない様子でマウスを動かす。

画面が変わり、次のスライドが表示された。

理科の実験で顕微鏡越しに見た細胞みたいな図やグラフ、専門用語みたいなものが細かく書いてあってさっぱり意味がわからない。


「…ここに書いてあることは少し専門的すぎるので、

ざっくりと説明しますね。」

見慣れない資料に、目を白黒させていると、

カチカチカチと次の頁に飛ばされる。

またピクトグラムと円が出て来て、人型のピクトグラムにはご丁寧にそれぞれ違った顔がつけてある。

これ絶対あのおじさんが作ったやつだ…と思った。


「ヴェノムという存在がいることはご理解いただけてると思います。ヴェノムは亜人、亜種という位置付けですが、それ以外に従来、あなたが見つかるまで、人間には3種類いるとされていました。わたくしのような普通の、何の特徴もない人間(ノームヒューマン)、と呼びますが、その他にも特異な体質の方々がいるのです。」


モモコの話はスケールが大きすぎて、とてもじゃないが信じられなかったが、それはつまり…「人間にも種類がいるってこと…?ですか」


自信なさげに問う星と正反対に、

モモコはその通り、とでもいいたげな視線を寄越してきた。

パワーポイントのアニメーションが動いて『クルースニク』『クドラク』と書かれた人型が上下する。


「ええ、『クルースニク』とは生まれながらにしてヴェノムの毒に耐性を持つ人間のことを指します。『クドラク』は人間から生まれたヴェノムとも言われることもあり、吸血を必要とする点や強靭な肉体、毒を持つ点、など人間から生まれた以外はほとんどヴェノムと同じ体質を有します。差異は、強いて言えば生殖能力があることと瞳の色でしょうか。」

「瞳の色?」


「はい。ヴェノムは、星さんも見たでしょう。血色の瞳をしています。特に吸血すればするほどその瞳は紅く輝く。それに対して、『クドラク』は生まれたままの瞳の色を有しますから、外見ではまず判断できないというのも特徴です。逆に『クルースニク』の方々は見ればすぐわかりますわ。」

「それも瞳の色ですか…?」


「そう、『クルースニク』の方々は毒に耐性を持つ影響で、色素細胞が欠如しやすいと言われています。

そのため青白い肌、色素の薄い体毛や虹彩が特徴として現れます。日光や熱が苦手な方も多いので、

共に任務に行く際は気をつけてください。」

「それって何か…そっちの方が"吸血鬼"っぽい…」


幼い頃に読み聞かされた物語の中に出てくる吸血鬼のイメージが遠い記憶をよぎる。

ぼそり、と呟いた瞬間、

タイミングを待っていたかのようにドアが勢いよく開いた。

驚いて過剰に肩が跳ねる。


「うはは!星っち結構言うねぇ! 

そうそう、それがオレ達クルースニクってわけ!

悪いモモコー、そろそろ終わった頃かと思って来ちった。」

言葉とは裏腹に、ドアを開けて入って来た少年に悪びれる様子は全くない。

星やモモコと同じ年頃だろうか、あどけなさが顔立ちに残る。

側頭部に入った稲妻形の剃り込みが目を引いた。

「星っち」って…、彼とは初対面の筈だ。

しかし、愛嬌があるのか、

人懐こそうな雰囲気のせいか、

不快な感じは全くしなかった。


「ミライさん!…貴方!…

はあ…全く、困った人ですわね。貴方はいつもいつも」


ぶつぶつと小言をこぼすモモコを横目に、

当の本人は素知らぬ顔でズカズカと部屋に入ってくる。

“ミライ”と呼ばれた少年のすぐ後ろには、

幾らか年上に見える黒髪の青年も続いていた。


モモコの反応からするに、この二人は馴染みの職員──

つまり班員なのだろう。


突然のことで顔を見るしかできない星と、

少年、ミライの目とふいに視線が合う。

浅瀬の海を思わせるような、淡く透き通った青い瞳。

先程の言動といい、その瞳といい、

彼が『クルースニク』なのだろう。


肌は血管が透けるほど白く、

髪も脱色したような、けれど自然な白みを帯びた金色。

艶があり、細く、柔らかそうな髪だった。

ファッションとしてのブリーチではない――

生まれ持ったものなのだと、すぐにわかる。


希少な宝石のような瞳に、

ドキリ、とした。

理由もなく、慌てて目を逸らそうとする。

けれどその瞬間、ミライはニッコリと、

効果音が出そうなほど眩しい笑顔を向けてきた。

今まで、少なくとも維局に来てからはそんな表情を向けられたことはなかった。

だから、少々面食らってしまう。

でも悪い気はしなかった。

ミライの笑顔には純粋に、いい人なのかも、

と思わせる澄んだ明るさがあった。


「あとこいつがアンタに用事だとよ、オジョーサマ」

そう言った黒髪の青年が目だけで後ろを指す。

そこには先程の人事課で星達のIDカード手続きを行った職員がいた。


「あら、貴方は、」

そう言って、モモコが目を止めると、

職員の男は反対に目を伏せた。

その様子は何処かおかしくて。

男が何かに怯えているような、

小さな動物が、大きいものに目の前にして

息を潜めているようにも見えて、不思議だった。


先程の書類に不備でもあったのだろうか。

申し訳なさそうにファイルから用紙を出し、

サインを求めている。

おどおどと、落ち着かない。

初めはそういう、

つまり腰が低すぎる人なのかと思ったが、

違う気がする。

地下という空間に慣れていないのか─。




「はい、はい、ありがとうございます。

お、お話中申し訳ありませんでした…。」

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