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わたしの秘密  作者: ちー
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撃ち抜く女

某アプリの友人達がネタ出しをしたコラボ小説で、ついでに言うと「そらつば」の世界を使ってるし縁の無い人ぶっちぎりなので、うっかり開いちゃった人はそっ閉じ推奨だよー♪

 昼間の熱が夜空に吸われた午後8時。私立聖凰せいおう学園高等部女子寮。その2階にある空き部屋、二〇七号室の前に1人の少女がいた。パステルピンクの可愛らしいルームウェアに身を包み、トートバッグを肩掛けにしている。手に持っているのは寮監からかりてきた鍵。それを差し込んで回し、扉をそっと開ける。


「お邪魔しますわ」


 可愛らしい声で部屋に挨拶して入ると室内灯を点けた。正面に開放感のある大きな窓。中央のソファーセットとローテーブルはシーツが掛けられている。少女の自室と反対のレイアウトなのは右隅にあるテレビ台だ。それと――左の壁を見る。

 そこはロフト式の上階とその下の空間で個室の様になっていて、ベッドと机、簡易クローゼットが設えてある。上階部分の壁だけが少し新しい色なのは同じだ。少女は小首を傾げつつ階段を登る。


「壁をぶち抜きでもしたのかしらね」


 何気ない呟きが実は当たっていたりするのだけれど、それ以上気にかける事もなく机に向かうと椅子を引いてバッグを置き、タブレットとスタンド、マイクに配信機材にケーブルと出して手際よくセッティングを済ませてタブレットの電源を入れた。

 ログイン画面の「おもち」と書かれたアイコンをタップして起動する。普段は花園桃はなぞの ももだから「ももちゃん→ももち」と呼ばれていて、そこから「もち→おもち」と連想した結果で、大学生の従姉妹以外、誰にも教えていない。


 配信アプリを立ち上げて「( 'ω')ミュートじゃないですわ」とタイトルを記入。自然に笑顔が零れる。


「ふふっ、同室の翼ちゃんも知らないってドキドキしますわね」


 桃は壁の下の方を見て呟いた。高等部に上がって寮でも同室となったクラスメイトの翼――御門翼みかど つばさは、この時間なら小説の執筆をしているはずで、お互いプライベートに干渉しない性格なのもあって、桃がこっそりアバター配信を始めて1年が経った今もバレた様子はない。

 何故隠しているのかと言えば、ネットに浸かっている=オタク、の様な風潮を警戒しているから。

 桃自身は配信を良くないものと思った事なんて1度も無いけれど、中学生の時に目覚めた趣味などは立派にオタクの領域と言っていいのもあって、だからこそ、よく思わない人が一定数いると知っている。


 どれだけ親しくても、オタクと知るや手のひらを返す人がいることも。


「――はっ」


 つい感情に影が差したところでブンブンと首を振って吹き飛ばすと、大人しくて守りたくなるけれど妙に気の合う、そんな同室の友達を思い浮かべて(いつかはこの趣味のことを話せるかしらね?)と気持ちを切り替え、カメラに向かって微笑んだ。





 関西圏の某所にある「御茶所おひさ」では、閉店後のルーチンを済ませた青年店主がレジ横に置く名刺を刷っていた。薄緑の台紙に濃い緑でそよ風をイメージした筆線を流したシンプルなデザインに、筆字で店名、その右下に自身の望月尾久もちづき おぐの文字が入っている。


「ふうっ、おわったーーー!」


 バンザイするように伸びをして、疲れを感じさせない爽やかな声をあげると、スマホを手にしてお気に入りの配信アプリを立ち上げる。

 ホーム画面のトップに配信している相互フォローの一覧があり


「お、やってるやってる」


 1番左に女の子のアバターと「( 'ω')ミュートじゃないですわ」の枠タイトルが表示されていた。

 タップして入室すると、コメントを投げる。


――オグさんが入室しました


――オグ

――もちち、こんばんは


『やあ、おひさ。おこんばんは』


 すぐに枠主――おもちのアバターが手を振り、挨拶が返ってきた。


「こらっ!何言ってんだ」


 尾久はニヤリと笑ってコメントする。


――オグ

――もち嬢、それは修羅の世界でたまわりし真名まなゆえ軽々しく口にしてはならぬ……


『ふふふっ、オグさんでしたわね。わたくしとした事がうっかりさんですわぁ』


 おもちがコメントを読み上げて言葉を返す。ライバーの


「あっはっは、白々しいなぁ」


 あからさまな故意の間違いに笑い、ふと昨年の夏を思い出す。偶然だそうだけれど、彼女は従姉妹との旅行中に尾久の店に来た事がある。その当時で既に彼女とも従姉妹ともコラボ配信をした事があった。だから――



――強烈な日差しから逃れて一息つきたい、誰もがそう思いそうな午後。カランとドアベルが鳴り、2人の女性客が入ってきた。


「いらっしゃいませ。お二人様で宜しいですか?」


 たまたま入店と鉢合わせた尾久がにこやかに出迎えたところ、


「ふぁっ!? はぇ!?」


 可愛らしい少女が驚いた様な声をあげて目を見開き、隣の姉らしき女性は尾久をガン見した。そして


「あら、その声。オグさんじゃん」


「ちょっ!? ぱいせん!? 今お外ですわ!!」


 そのやりとりに尾久も一瞬リアルを忘れ、


「え。もちちとなのさん?」


 詮索しないいのがネットマナーだから現実の名前など知らない。知らないけれど声もやりとりも良く知っている。だから尾久は、つい配信の感覚で返してしまった。


「あはは、いまその名前で呼ばれるの恥ずかしいんだけど」


「ブーメランに巻き込まれましたわぁ!」


 しまったと思ったけれど時すでに遅し。お互い完全に理解してしまったらしい。さてどうしたものか。

 大学生くらいに見える「なの」と中学生に見える「おもち」をしげしげと眺めていた尾久だったが、


「……あの、オーナー?」


「――はっ! あ、そうだ、こちらのお客様を……」


 駆け付けたアルバイトの子に声を掛けられて現実に戻り、職;;;|権で本来なら予約が必要な個室に案内させ――



――思いがけずオフ会となったあの日、尾久は本名でログインしていることと読み違えを店名にしている事を明かし、2人の本名と敢えて「ぱいせん」呼びしている理由も知った。そして人柄にほっこりした尾久は、うっかりだけれど親しくなった事だしと配信で呼び方をネタにするのも許している。


――オグ

――今日はお歌は?歌わないの?


『お時間も遅いですし近所迷惑なので歌いませんわ』


――オグ

――もちちの可愛い歌声に釣られた変態が近所をうろうろしちゃうからね。わかるわかる


『さすがの説得力ですわねオグさん』


「あはは、僕が変態ってか」


 呟いた尾久は普段、何も言い返せないコメントをしている。だから、


―オグ

―そうそう。僕みたいなのが、てなんでやねん!おや、ダレカキタヨウダ


 こう書いたのだけれど。


(つばさ)さんが入室しました


―ちー さんが入室しました


(つばさ)さんがいいねしました


―ちー さんがいいねしました


『翅ちゃん! ちーちゃん! おこーんばんは!』


―オグ

―タイミングwww


『ふたりとも、いいねありがとうですわ。「タイミング」うんうん、ちょうど「誰か来たようだ」て言ったところでしたわね、あははっ』


(つばさ)

―こんばんは


―ちー

―やほー、いつも忘れるから便乗した!


(つばさ)

―( *´艸`)


『同時に来るとか仲良しさんですわね』


「ははっ、ほんとに」


 巨大掲示板でよくあるネタを書いたら、枠の常連の女の子2人が入室してきた。おもちがコメントを読み上げて回答し、そこから話を広げていく。いつも通りキャッキャウフフなやり取りが始まり、見てて心が温かくなる。


「うんうん、楽しそうで何よりだね。さーて、ぼちぼち帰りますか」


 尾久はこれから帰宅することを書き込み、見送りの明るい返事とコメントに頬を緩めながらアプリを閉じた。





 翌日のお昼休み。

 購買に行く者、中庭の場所取りに行く者、仲の良し同士で机をくっつける者などなど一斉に動き出したとき、桃が隣の席を見た。そして嬉しそうな笑顔を浮かべる。


「翼ちゃん! お腹が鳴りましたわ!」


「え? あ、うん……」


 翼と呼ばれた少女が首を傾げて、ああそう、みたいな顔で頷いた。つまり、いつもの事。桃が机をガタガタとずらして向かい合わせにくっつけるのも、いつもの事。


「元気無いですわね。ちゃんと食べてますの?」


「今朝も一緒に食べたじゃん」


「能面のような視線やめて下さいまし」


「くすくす、そんな顔してないってば」


 翼は堪えきれずに口を拳で押さえて笑った。


「ほんと、桃ちゃんて世話焼きなんだから」


「翼ちゃんが可愛いからですわ」


「むう。可愛い禁止」


 そんなやり取りをしながらお弁当を包むハンカチを広げる2人。寮生なので同じメニューだ。厚焼き玉子とプチトマトにほうれん草、茹でた人参、そして――


「こ、これは……っ!」


 桃がコロッケの切り口から覗くチーズを見つけて言葉を詰まらせ、それに気付いた翼が自分の分から厚焼き玉子と人参を桃のお弁当に移し、チーズコロッケを奪い取る。


「いいの?」


「桃ちゃんが苦手申請してるの知ってるし。食堂の人達がうっかりしてたんでしょ」


 桃はチーズが苦手であった。

 アレルギーの問題もあって食べられない物を申請しておけば代替品だいたいひんを入れてくれるのだけれど、高等部の寮生は50人近く居るものだから稀にこうした間違いが起きる。


「ありがとおおおおおおお!!」


「いいってば。あたしが苦手なの入ってたらその時はお願いね」


「もちろんですわ!は、いいけれど、翼ちゃんが苦手なの食べ物は何ですの?」


 桃に尋ねられ、翼は首を傾げて視線を彷徨さまよわせると、はたと思い出した様に桃と目を合わせた。


「イナゴ」


「10回留年しても、わたくしの出番はなさそうですわね」


 翼が首をこてん、と倒す。


「それだとあたし先に卒業しちゃうなぁ」


「そこじゃねぇですわ」


「あ、学年違うと気まずいよね」


 そこでもないと思った桃だけど、少々天然なところのある翼のことだから冗談を言っているつもりは無い、と判断して


「翼ちゃん。わたくしが嫌いですの?」


 話題をズラしてみた。

 案の定


「そんな事言ってないじゃん」


 視線がフラフラっと動いた。

 恋に恋するお年頃だからなのか翼はとても純情で、人を主語とした好き嫌いの言葉に過剰な反応を示す。桃は頬が溶け出したと自覚するくらいニヤニヤしていた。


「ふふふっ、そういう所ですわ」


「なにがよ」


 若干不機嫌に見せているのは恥ずかしいからだと桃は知っている。だから大袈裟に身を乗り出して追い打ちをかけることにした。


「じゃあさ、私のこと好き?」


 あえてお嬢様言葉を封じて普通の言葉で尋ねた。


「んなっ!?」


 ビクン、と跳ねた翼の箸からプチトマトが落ちて桃の方に転がってきた。


「あらあら、勿体ないですわ」


 ハンカチからはみ出る前にひょいと摘んで、口に放り込む。


「ふぁっ!! ちょっ、それ! 間接――」


 翼が顔をプチトマトの様に赤く染めて指差しながら言葉の先を飲んだ。


(ああっ! やらかしましたわー!)


 瞬時に間接キスの事と理解した桃だったけれど恥ずかしさよりもこの瞬間、と平静を装って頬づえなど突いてみる。


「うふふ、可愛いですわね」


「ちょっ!? 可愛い禁止って言ってるでしょ!」


「あらぁ? それじゃ動揺するほど嫌いなのかしら?」


 少し悲しそうなトーンと表情にしてみた。翼がさらに慌てる。


「そんなっ!ち、違うからっ、 嫌いなわけないからっ」


「うふふっ、ハッキリ言ってくれないと伝わらないですわよ?」


「ええええええ」


 そんな事言われてもと内心で焦る翼は自身でも呆れるくらい純情な所がある。

 加えて極度の人見知りでもあるのだけれどそれは同室になった桃も同じ様で、去年はクラスが違うのもあってお互い距離を計りつつ会話していたのだけれど、今年は同じクラスになって何の強制力なのか隣の席にもなった、そんな日常である。休日を除けば四六時中一緒に居る訳で、会話が増えれば気付く部分も増える。

 同じ人見知りながらも小動物の様な可愛さと細やかな気配りの同居した桃に憧れを抱き、勘違いしそうな笑顔に翻弄される様になるまで然程の時間はかからなかった。

 だから、好き嫌いを聞かれるとどうしても恋愛的なそれを意識してしまう。


(それを伝えて「やめてね?」って頼んだら「まあっ! 両想いですわね!」てどこまで本気なのか分からない返事で撃ち抜いてきた女だもん。天然にも程があるでしょ)


 要するに、翼は既にちていた。

 翼とて馬鹿ではない。同性に恋するなどあってはならないし、思春期にかかる麻疹はしかみたいなものでいつかきっとめると思っている。想いは膨らみ続けているけれど、伝えれば苦しませる事になるしその後に醒めでもしたら目も当てられないから絶対に知られる訳にはいかない。


(もーーー! 人の気も知らないで!)


 秘密にしているからこそ表面に出てしまい、ついジト目で見てしまう。そして、その視線を見逃す桃ではない。


「はっ!? まさか興味が無いってオチですの? 嘘と言って下さいまし!」


「違う違う違う! ちゃんと興味あるからっ――」


 そこまで言って、続きを小声で呟く。


「――ちゃんと好きだから」


 もっとハッキリ言えば冗談に聞こえたかも、と1人反省会をしかけたところで、すっと桃の手が動き、目で追ったらお弁当箱の傍にスマホが置いてあった。いつの間に?

 桃はイヤホンを着けてトトンと操作すると、


「録音しましたわ」


「へ?」


「寝る前にエンドレスで流したら幸せな気分で眠れそうですわ」


「え!? ちょっと!なに恥ずいことしてくれてんの!?」


 咄嗟に立って手を伸ばした翼だったけれど、それは先読みされていた様で。

 ほぼ同時に立ち上がった桃は舌をペロッと出して微笑んだ。


(くっ! 可愛いなぁ!もーーー!!)


 心の中で叫ぶ翼の表情は、想いとは裏腹にひどく不機嫌なものになっていた。

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