表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プロローグ、イカれた魔女と弟子

 世界の忘れ去られた土地。

 そこは地図から存在そのものが消え、足を踏み入れるものさえいないと何百年にも渡って語り継がれていた。


 しかし、実際そこには【ある者達】が住んでおり、知る人達は口々に噂する。


 魔女達の楽園であると。


 私は雲一つない青空を見上げていると、耳を劈く破裂音と共に視界には屋根。


 忘れ去られた土地に住むこと10年。

 私にとっては見慣れた光景だ。


 住んでいる家の屋根が吹き飛ぶのは、毎朝、陽が昇ることに等しい。


 ティーカップに注いでいた紅茶の香りを楽しみ、ひと口啜る。

 はぁ…、体に染み渡る感覚が心地いい。


「…ててて…また失敗か…!」


 瓦礫の下敷きになっていたのは、青空を連想させるような水色の髪に白髪が多く混じる女性。

 せっかくの艶やかで透き通る肌はいつも汚れていて美人なのに勿体ない。


「師匠〜。何回目ですかー!」


 私が声を張ると、


「片付けるの手伝ってー!!」


 と返って来る。

 私の日課だ。


 師匠は瓦礫を退かしながら体に被っていた埃を払い、辺りに散らばった本を片付け始めた。

 私も本を拾い集めるがいつ見ても難しそうな本ばかりだ。


 魔法、魔術、調合と種類は様々で全ての本が分厚く年季も入っている。


 この女性は、エティナという魔女で約10年間、私の面倒を見てくれている師匠でもある。

 変わり者ばかりの魔女達の中でも、師匠は特に変わっていてシンプルにイカれた魔女なんて笑われる事も多い。


 私から見ても目玉が飛び出すような行動ばかりしていた。

 もう慣れたけど。


「クソがぁ〜。またやり直しかぁ」


 師匠は顔に手を当てながら悶絶している。

 昨日の夕方の5時くらいから現在時刻である10時まで鍋で煮詰めていた。

 私が知る限り、最高記録だ。


「そんなに重要ですか?不老不死を解く薬」

「重要だねっ。もう飽きた!人生に!」


 師匠は口を尖らせ、拗ねた態度を取る。


 魔女というのは、体を循環する魔力が非常に多く長生きだ。

 軽く500歳を生きると言われている。


 そんな中でも師匠は1000年以上生きているという異例の存在だ。


 世界の権力者達が憧れると噂される不老不死。


 それを師匠は、美肌を保つ潤滑剤を作る過程で偶然にも完成させてしまい、喜んだのも束の間。

 美肌を保つ潤滑剤と思い込んで、使い切る頃には歳を取らぬ外見と永遠の命を手に入れた。


 確かに憧れるものではあるけど、師匠を見ていると欲しいとは思わない。

 死なないと言っても、血は出るし痛みもある。

 それが例え、死にそうな傷を負ってもだ。


 ある程度、片付け終えると焦げた封筒に視線を向けていた。


 拾い上げて裏面を見ると、達筆で師匠に宛てられたものだった。


 落ちていた封筒の先には木箱があり、同じような封筒で溢れかえっている。


「師匠、なんか手紙みたいのいっぱいありますけど…」


 しかも封を切っていない。


「それ?片付けるついでに燃やすか」

「えぇ〜…ラブレターとかだったりして」


 冗談で言ったつもりが、師匠は顔を顰めながらうんざりしていた。


「まぁ…昔からよくもらうのよね。婚約願いとかラブレターとか」


 一度は言ってみたい台詞だ。

 照れるどころか本当に嫌そうだけど…。


「でもせっかく送ってくれたのに、読まないのも可哀想な気もしますね」


 心を込めて思いを綴っただろうに…。


「800年以上その箱に放り投げてるからとっくに死んでるって」


 惨い。


 相手の恋心を踏み躙る言動だ。

 師匠らしいと言えば師匠らしいけど。


「他の魔女の方々は婚期を気にしているのに、師匠は気にしないんですか?」


 まぁ、長生きだから気にする程でもないような事ではあるけど。


「しないしない。結婚して子供拵えるなんて真っ平よ」

「へ、へぇ…。愛する我が子に囲まれながら幸せな結婚生活なんて憧れたりしません?」

「あははは。無理無理。子供拵えたら使えなくなる魔法もあるしね」


 師匠は乾いた笑いと真顔になっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ