役立たずと傭兵団を追放された桃太ロウ! 鬼族を支配下において朝廷に復讐します! 純度100%のきび団子さえあれば無敵です! 今さら後悔してももう遅い!
「桃太ロウ! あんたを鬼滅白刃団から追放する!」
「なん……だと……!?」
何が起こってるんだ……俺の傭兵団から……俺を追放だと!?
「あんた口ばっかじゃねえか! 何が鬼退治だ! そこらの魔物にすら勝てねぇじゃんか!」
俺の最初の賛同者にして腹心だった犬養ケン……ロウさんに一生付いていくっす! なんて言ってたくせに……
「きび団子さえあればっていつも言ってんけどよ! もううんざりなんだよ!」
雉村シン……三幹部の一人にまで引き立ててやったのに……
「はっきり言うわロウさん! アンタじゃ下のモンが付いてこないの! ウチら傭兵は力こそ全て! なのにアンタときたら! きび団子がないと何もできない体たらく! そんなんじゃ団員達に示しがつかないのさ!」
猿田メイ……ガリガリで男か女かすら分からなかったこいつを一人前の傭兵にまで育てたのは俺じゃないのかよ……
「委任状は用意した。署名しろ。そしたらあんた個人の財産や装備には手を付けないでおいてやる。俺らだってあんたから受けた恩を忘れたわけじゃねぇんだから」
「それとも俺ら相手に戦うかよ? いいぜ? それも傭兵の生き方だもんよ?」
「そん時ゃ朝廷に錯乱したから斬り捨てたって届け出てやるさ。でもロウさん……ウチらにアンタを斬らせないでおくれ?」
くそ……きび団子さえあれば……
今の俺じゃあこいつら三人どころか一般の団員にすら勝てねぇ……
「ここだな……」
署名をした……
ヤケクソで暴れてもいいが……何の意味もない。憎き鬼どもをぶち殺したくて結成した鬼滅白刃団なのに……俺はもう何もできないってのか……
「よぉーしあんがとよ。そんじゃロウさんお疲れだったな。本当になぁ!」
「ぐぐぁっ! お、お前ケンっ、な、何を!?」
背中を刺された!?
「さよならだよロウさん」
「シンっ!? があっ!」
今度は腹を!?
「ロウさん、いつかアンタに抱かれたかった。無敵のアンタにさ。だから早く大きくなりたかったのに……じゃあな!」
メイまで……的確に心臓を貫かれた……
そんな……あんまりだろ……俺が何をしたってんだ……ああ……何もしなかった、できなかったからか! 仕方ないだろ! きび団子がないんだよ!
俺を育ててくれたばあちゃんが死んじまって……もう誰にもきび団子は作れなくなっちまったんだよ! どうしろってんだ! 殺すなら殺せや! あ……そうか……もう殺されてるのか……
ちくしょお……寒い……こんな昼間の草原なのに……
「よーし帰ろうぜ! 後は放っておけば魔物が食い散らかすだろうぜ?」
「あーあ疲れた。わざわざこんな所まで来なくてもよかったんじゃね?」
「じゃあねロウさん。アンタに幻滅する前に殺せてよかったわ」
こいつら……
くそっ……くそぉ! きび団子……きび団子さえあれば! 混じりっ気なし純度100%……本物のきび団子さえあれば……ちくしょう……ちくしょお……ちくしょおおおおおおおおおお! ばあちゃんなんで死んじまったんだよお! ばあちゃんのきび団子さえあれば俺は天下無敵の桃太ロウだったのに!
ああ……もう血も流れない……痛くもなければ……寒くもない……
ばあちゃん……もうすぐそっちに行く……
「あぁ? おんどりゃ桃太ロウじゃろう? こねぇなとこで何しよるんじゃあ?」
「だ……れ……だ……」
聞き覚えのある声……野太い、強者の声……
「あぁ? おんどりゃあワシのことを忘れたぁ言うんか! ぶち殺しゃげたるどお! 三年前におんどれと殺し合って引き分けた夜叉童子をよぉ!」
「や……しゃ……」
覚えてる……鬼族四天王の一人……
鬼の領域に単身乗り込んだ俺の前に立ち塞がった強大無比の赤鬼……
「てめぇら四人がこねぇな所に集まっとるって聞いたからのぉ? まとめてぶち殺っしゃろう思うて来てみたんじゃけどのぉ? おんどれぁ放たっといても死にそうじゃのお。ワシの手でぶち殺したかったんじゃがのお?」
「き……び……」
くそ……きび団子さえあれば……
あの時だってそうだった……ばあちゃんが死んでヤケになって……最後のきび団子を持って鬼の領域に乗り込んで……
「あん時ぁ他の四天王が世話んなったのお! 結局生き残ったんはワシ一人じゃあ! おんどれにゃあずっと礼をしてぇと思うとったんじゃあ! おらぁ立てやあ! ワシの手でぶち殺しちゃるからよぉ!」
「す……ま……」
すまない……立つどころか……指一本も動かない……こいつになら殺されてもいいが……
「待ちな夜叉。こいつ放っておいたら本当に死ぬよ。ねえ桃太ロウ? あんた助かりたくはないのかぁい?」
だれだ……
「たす……」
「そうだろうともさぁ。ほぉら、これ食べてみなぁ? 懐かしい味だろぉ?」
こ……れ……は……
き、きび団子か!?
「あぐっ、はぅ、ああああっ! があっ! ああっあっっあああああ! あがっがぁっがぅ!」
ばあちゃんのきび団子だ! 混じりっ気なし! 正真正銘純度100%のきび団子だ!
「うおおおおおおおおおぉがああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!」
旨い旨いまずい旨い旨い旨い旨い旨い旨い旨い旨い旨い旨い旨いまずまずい旨い旨い旨いうまうまうまうまぅうまうまぅまずずずぅあううううまあまあまうまぁ……あああ…………
「久しぶりだな夜叉童子。こっちのきれいな鬼は初対面か。俺が桃太ロウだ。命を救ってくれたこと、礼を言う」
最高の気分だ……頭はすっきりと澄み渡っており……体には力がみなぎっている……
あぁ……ばあちゃんのきび団子……最高だ。
「アタシは異薔薇木童子だよぉ。当代の鬼燐王さぁ。アンタにゃ親父を殺されちまったがねぇ。さぁて桃太ロウ。アンタが今食べたのは間違いなく本物のきび団子さぁ。やっぱり噂は本当だったんだねぇ? 桃太ロウはこぉーんなクソまずいきび団子を喜んで食べるってさぁ」
「きび団子がまずい理由は一切の混ぜ物ができないからだ。塩や砂糖などあれこれと味を整える一切がな。そんな本物のきび団子でなければ俺は強さを発揮できない。鬼族の王よ、この製法をどこで知った?」
そもそもなぜ鬼族が俺を助ける? 放っておけば死んだものを……
「内緒に決まってるさぁ。それはそうと不思議そうな顔してるねぇ? 助けた理由を知りたいんだろぉ? 簡単さぁ。一つは、うちの夜叉がアンタと戦いたがってるからさぁ。もう一つは……そのうち話してやるさぁ。それよりアンタ、これからどうすんだぁい?」
ふっ……分かりきったことを……
「もはや俺に帰る地はない。そして貴様らは俺の生命線とも言えるきび団子を持っている。言え! 俺に何をさせたい? 朝廷を潰してこいとでも言うのか!」
「くっくっく……察しがいいねぇ。そもそも何故朝廷がアタシら鬼族の領域を狙ってるか知ってるのかぁい?」
「知れたこと! 貴様ら鬼族は我ら人族を拐い、その身を喰らうからだ! そのような悍ましい奴らを滅せずしてどうする!」
だが、今となってはどうすることもできない。俺はきび団子がなければ……
「くっくっくっ……桃太ロウってのは前しか見えない猪武者ってのは本当だったようだねぇ。アタシら鬼族の強さの秘密を知らないのかぁい?」
「ふざけるな! 知らないはずがないだろう! 剛力無双の夜叉童子に代表される頑健な肉体! 貴様ら鬼族の肉体の強さは我らでは比較にならぬ!」
しかも、それだけではない……
「そこまで評価してくれるのかぁい。夜叉が喜んでるよぉ。ねぇ?」
「ふんっ! 人族の分際でワシと引き分けたおんどれも中々のもんじゃあ!」
「そんな夜叉が振るってこそ脅威となる武器の素、確か……御磨瑠と言ったか。我らの武器より数段上を行っている……」
俺がもし……御磨瑠の刀を持っていたら……夜叉童子が相手だろうと鎧袖一触だったのだろうか。
「よぉく分かってるじゃないかぁ。そうさぁ。アタシら鬼族にゃ御磨瑠があるのさぁ。で、欲の深い朝廷はそいつを欲しがってるってわけさぁ。なんせ国中探したってウチでしか採れない金属だからねぇ? さぁて桃太ロウ? ここまで話したんだ。アタシの言いたいことも分かるだろぉ?」
分かるさ……
利害も一致している……
「さあ、返答を聞こうか。アタシらと一緒に来るのか来ないのか、どっちなんだい!」
俺の選択は……
こうして桃太ロウは鬼族とともに朝廷に攻め込んで全ての利権を握りました。
めでたしめでたし。
夜叉童子と異薔薇木童子が登場する作品はこちら。
『金が欲しい祓い屋と欲望に忠実な女子校生』
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