第37話 ロビーだけが、何も分かってないような顔してる
思っていた以上に穏やかな日々を過ごしてた。
こんなにのんびりとしてて、いいのだろうかと思うくらいに……。
ポボルスキーのお屋敷は家にいた時よりも心穏やかでいられる。
サーラはあたしの親友と大きな声を上げても恥ずかしくない。
何気ないお喋りをしてるでも楽しいし、一緒にいるだけでも心が弾んでくるのだ。
ユリアンとはまだ、そんなに親しくなっていない。
女神様の夢が影響しているのか、何となく見えない壁のような物が彼との間にある気がする。
これが心の壁とでも言うものなんだと思う。
あたし、ちょっと大人みたいだ。
そんなことを口に出したら、「大人の女はそーいうこと言わないわ」とサーラに言われたけど。
ロビーは毎日のようにカブリオレで迎えに来てくれる。
学園に行ったり、おじい様の離宮に行ったりするのに便利だし、別にロビーのことが嫌いな訳ではないから。
だからって、前のように彼のことを無条件で好きな訳でもない。
「あのね。エミー……いや、何でもないんだ」
「ふぅん。変なロビー」
距離を置いたってことではなく、適切な距離感を保っているつもりなのにロビーはどこか、おかしい。
何か、言いたそうなのに言わない。
そんなあたし達を見て、ユリアンも何かを言いたそうにしていた。
あまりにもどかしいのであたしは我慢出来なくなってしまい、ユリアンに問いただしてしまった。
彼はサーラよりも気が弱いところがあって、気圧されたように口を開いてくれるけど……。
それでも肝心なことは教えてくれない。
「殿下との約束なので言えません。彼から、直接聞いてください。お願いします」とはぐらかされちゃうのだ。
そのうち、ロビーが教えてくれるのかしら?
エヴァはおじい様の離宮で順調に回復してるところだ。
たっぷりとご飯を食べて、ゆっくりと休んでる。
それだけではなくて、髪や肌のお手入れもしてくれるみたい。
やつれてたエヴァを知っているだけに今のエヴァはもはや、別人に見えるくらいに見違えた。
とんでもない美少女がもう一人、姉にいたのだと思い知らされた!
あたしと違って、鼻もつんと高くて、目もぱっちりとしてる。
オレンジブラウンの長い髪もお手入れされて、艶々としててきれい。
マリーは誰が見ても美人だけど、エヴァだって、きっと負けてないと思う。
そして、気になることがある。
そんなきれいになって、明るくなったエヴァとユリアンの距離が縮まってる。
二人で仲良く、お喋りしていて、笑顔が絶えない。
怪しい。
そんな気がして、ならないのだ。
「あれって、そういうことかしら?」
「お兄ちゃまも意外とやるってことね」
「そうよね」
どうやら、サーラも気が付いてるみたい。
そんな会話をしてるとロビーだけが、何も分かってないような顔してる。
ホントに分かってないのか、それとも振りをしてるだけなのか。
とにかく、あまりにも平穏すぎる日が続いてたある日のことだった。
いつも朗らかであたし達を優しく、温かい眼差しで見守ってくれるセバスさんが浮かない顔をしてた。
まるで徹夜でもしたみたいに目の下にはクマがあって、疲れた表情を隠せてなかったのだ。
「お嬢様には少し、酷な報告をせねばならないセバスめをお許しくださいますかな」
セバスさんの言うことはたまに難しくて、分かんないことがある。
だけど、今回は何となく、分かってしまった。
あまりよくない知らせがあるんだってことを……。
「コラー伯爵邸が全焼したとのことでございます」
セバスさんの話は続いていたけど、あたしの耳には何も入ってこなかった。
火事の原因が落雷によるものだったこと。
普段、そのような事件では動かない近衛騎士団が動いてること。
全てが他人事のように聞こえたのはよく知ってる場所が燃えて、何もなくなってしまったせいだと思う。
自分が思った以上にショックが大きかったのだ。




