第31話 神はそこにいない
この世界のこと。
未来に起こること。
あたしなりに夢で見たことを出来るだけ、分かりやすくまとめて、話した。
『淑女への子守歌』という小説の名は出さないようにして、まとめるのが難しかったけど。
話し終えるとやっと、終わったっていう感じがする。
とにかく、疲れた。
「あれは僕がちょうど……」
そして、ユリアンが話を始めた。
ユリアンはあたしと違って、話をまとめるのが上手なのか、分かりやすい。
「その時、パッと風が吹いて気配を感じ、振り向くとそこには……」と微妙に怖い話を聞かされているように感じたのは、何でかしら?
不思議。
内容があたしの見た夢と同じような内容なんだから。
奇妙に一致してることに鳥肌が立ってきた。
静かに聞いていたビカン先生はというと顎に手をやって、瞑想するように暫く、目を閉じて考え込んでる。
「ふむ。よく分かった。二人とも同じ夢でも見ていたかのようだ。これは似ている話ではない。同じ話とみて、間違いないだろう」
考えがまとまったんだろう。
先生が話し始めたけど、声のトーンがいつもより、低くて威厳がある。
有無を言わさないのはいつも通りなのにちょっと違う気がした。
これは気のせいではないと思う。
「複数の人間が同じ夢を見たという事例がない訳ではない。だが……」
先生はそこでわざと言葉を切って、一呼吸置いた。
部屋の中が静まり返って、何だか怖い。
「君達が夢の中で出会った少女は本物の女神だ」
そう言ってから、先生は手にしていた分厚い本の頁をめくっていく。
そして、開かれた頁には大きく、こう書いてあった。
冥府の女王。
生と死を司る愛の女神。
その名はヘル、と……。
「神はそこにいない。しかし、確かにそこにいる、だったか」
先生の自嘲するような呟きは難しくて、あたしにはよく分かんない。
ロビーとユリアンには聞こえてなかったのか、それとも理解が出来たんだろうか。
特に不思議そうな顔をしてない。
あたしも分かった振りをして、黙っておこうと思う。
ここで分かりませんという顔をしちゃうと後で面倒になるって、知ってるからだ。
「君らはこう言うのだろう? 『この世界は小説の中で描かれていた世界と同じだ』と……。そして、『未来を知っている』と言うのだ。違うかね?」
あたしもユリアンも夢で知った小説の話だと一言も口には出してない。
そんなことを言っても信じてもらえないと思ったから……。
それなのにどうして、先生は小説の話だって、分かったのかしら?
「その顔は私がどうしてそう考えたのか、分からないとでも言いたげだな。簡単なことだよ。これは試験に出ないから、覚えておく必要はない。だが、よくよく肝に銘じておくといい。何、簡単なことだ。君達と同じことを考えた人間が昔からいた。ただ、それだけのことだよ」
先生はそう言うと僅かに口角を上げて、悪戯っ子のような表情をする。
夢を見ていないロビーは毒気を抜かれたような顔してるけど、ユリアンは血の気を失って青くなってる。
あたしもそうなってるのかも……。




