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第14話 ロビーの憂鬱

(ロベルト第二王子視点)


 僕は名ばかりの王子だ。

 第二王子という肩書だけで実質、何の権限もない。

 むしろ、こうして十四歳になるまで生きていられるだけでも感謝しなくてはいけない身の上にある。


 お母様は薄幸の人だったと耳が痛くなるほどに聞かされてきた。

 モニカ・ロシツキー。

 ロシツキー家は特産品や鉱山もこれといってない平凡な子爵の家だったと言われていた。

 当主も夫人も飾るところのない気さくな人柄なだけで取り立てて、優れた能力を有していた訳ではないらしい。


 ただ、お母様が一際、目立つ美貌の持ち主だったのが不幸の始まりだったとしか、思えない。

 白銀の美しい髪と紫水晶(アメジスト)のような瞳は珍しく、それだけでも人目を引く。

 お母様の色を強く受け継いだ僕自身が一番、それを分かっている。


 お母様にとって不運だったのはお母様を見初めた相手が王太子だったことだ。

 その時、既にディアナ様という正妃がいたお父様――ドミニク・チェフはお母様を公妾という身分で迎え入れたんだ。

 子爵家の令嬢に過ぎないお母様に断ることなど、出来るはずがない。


 お母様にはパネンカ侯爵夫人という称号に広大な敷地を有する屋敷や豪華な贈り物を寵愛を与えられたが、その頃のお母様は全てを諦めていたのだろう。

 それなのに運命とは過酷なものだ。

 生きたいと望んでいなかったお母様は《《国王陛下》》の御寵愛を一身に受け、僕を身籠ってしまった。


 お母様はとても優しい人だったのだと思う。

 生きる望みもなく、生きているのに僕を生かそうとしてくれたのだから。

 僕はお母様の命を奪うようにして、この世に生を受けた。


 お父様は僕のことを憎んでいたのかもしれない。

 お母様の色を受け継いだ僕を見るあの人の眼差しに愛情の欠片も感じたことはない。

 お母様の命を奪った僕のことを嫌いなんだろう……。


 僕に手を差し伸べる者など、誰もいない。

 そのまま、死んでもおかしくない状況だった。

 そんな僕を引き取って、育ててくれたのがミリアム・ネドヴェトだ。

 彼女はお母様と友人だった。

 ただ、それだけの理由で僕に手を差し伸べて、助けてくれた。


 頼る者とて誰一人いなかった僕に家族が出来たのだ。

 優しくて、頼りになる姉に囲まれ、僕は幸せだった。

 そして、《《妹》》が生まれた。


 エミー(アマーリエ)は小さくて、弱々しくて、守ってあげたい大事な妹だった。

 マリー(マルチナ)ユナ(ユスティーナ)は確かに姉ではあったが、そこに見えない壁のような物が存在していなかったか? と問われると『是』と答えるしかない。

 いい友人関係ではあったもののどこか、他人行儀なところがあったのだ。


 エミーにはそれがなかった。

 僕のことを本当の兄のように慕ってくれた。

 僕もまた、彼女のことを実の妹のように思っていた。

 そんな関係がずっと続くと考えていた僕が子供だったのだろう。


 エミーから向けられる視線はいつしか、違うものになっていたのに僕は気が付かない振りをし続けていた。

 もしもエミーの想いに応じたら、これまでの関係が終わってしまう。

 そう考えてしまったのだ。


 それが間違いであるなどと知らなかった……。


「どういうことなんだい?」


 その時の僕は恐らく、間抜けな顔をしていたことだろう。

 それだけ、彼――ユリアン・ポボルスキーの言葉が理解に苦しむ内容だったから。


「ですから、このままでは取り返しのつかない事態になるんです。是非、御一考ください、殿下」

「しかし、それにしても変な話だとは思わないかい?」


 ユリアンは真面目が服を着ているような人間だった。

 あまり冗談を言うタイプではない。

 そんな彼が真顔で言っているのだから、何か理由があるに違いない。


 それにしてもエミーと距離を置かないとエミーの命が危ないとはどういうことだろうか?

 どうにも解せない話だ。


「僕を信じてください。この件に関しては妹にも協力を仰いでいます。ネドヴェト嬢と妹が同級生ですから、大丈夫です」


 何が大丈夫なんだ? と聞きたいところだがユリアンのあまりに切羽詰まった様子に頷かざるを得なかった。

 そのことを後悔することになろうとは……。


 クッキーを断った時、エミーはどんな表情(かお)をしていたか。

 いつも元気なあの子を悲しませるようなことをして、僕は何をしているんだ!


 エミーはあの日から、学校にも来ていない。

 マリーやユナに聞いても言葉を濁されるので全く、分からない。

 そんな中、エミーが登校した。

 焦った僕はユリアンとの約束を忘れ、エミーのいる教室に行ってしまった。


 エミーを守ろうとして距離を置いたのに何をしているんだと思いながら、居ても立っても居られなかったのだ。

 まさか、エミーに拒絶されるとは思わなかった。


 彼女の蒼玉(サファイア)のような瞳に僕が映り込んでいる。

 それなのに彼女の心に僕は、存在していないとでも言わんばかりに冷たい反応だった。

 何てことだ。

 僕はエミーを傷つけてしまったんだ。

 どんなに後悔しても謝っても許してもらえないかもしれない。


 僕はそこから、どうやって自分の教室に戻ったのか、覚えていない。

 ふと我に返った時には剣術の授業を受けていた。


 ユナがいつも以上に荒れていた。

 何に怒りを抱いているのかは分からないが、それを僕にぶつけようとしている。

 それだけは確かだった。


 考えてみるとユナはこんなにも自制の利かない人だったろうか?

 幼い時から一緒だったが、違和感がある。

 男勝りで「騎士にあたしはなる!」と棒切れを振り回して、野山を駆け回る元気過ぎる人ではあった。

 だが、言い方がぶっきらぼうなだけだ。

 家族思いの優しい性格だったことを知っている。


 今のユナはまるでエミーのことを嫌っているどころか、憎んでいるようだ。

 そればかりではない。

 自分自身をも憎んでいるように見える。

 どういうことだろうか。


 調べてみる必要がありそうだ。

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