火周りで踊ろう
どこまでも広がる平原の中で大きな火が燃えあがっているのが見えた。その周りを黒い影が輪になって愉快な音楽と共に賑やかに踊っている。
空は藍色とオレンジ色に染まり、燃え盛って飛び散った火花がきらりきらりと光っていた。
「あ、君たち!やっと来たんだ」
俺たちが道を抜けるとさっそく火の妖精らしき男の子が声をかけてきた。体中から明るい色を放っていて、頭の髪の部分が途中から炎になっている。近くにいるだけでちょっと熱い。
「一緒に踊らない?」
「え、踊る?」
俺たちが戸惑っているとわらわらと他の火の妖精も集まってきた。
「あ!おふれの子たちじゃない。一度会ってみたかったのよ」
「ルーナ!久しぶり。この前はありがとう」
「さあさあこっちにいらっしゃい」
手を引かれるままに燃え上がっている火のところに連れていかれる。基本的に頭の部分以外は火は出ていないので触れることはできたけどそれでも手は熱かった。
「おまえたち、熱いだろうから俺たちの火の妖力をちょっとわけてやるよ。この妖力があれば火や俺らに触っても熱く感じないからな。あ、俺はリャマっていうんだ。よろしくな」
「よろしく。俺は陽杜って言います」
リャマは頭から燃える炎の勢いがひときわ強い、やんちゃな顔つきをした火の妖精だった。そして体格がとても良い。羨ましい。
雨の妖精のシャウアがしたように俺の胸をチョン、と押す。すると、胸にポッと明るい火が生まれた。
その火からなにか熱いものが体中をめぐっていく。不思議な感覚だった。
「それが火の妖力。帰るときには俺が勝手に返してもらっているから。ここにいる間中持っておいて平気だよ。みんな、他のやつのもやってくれ」
みんなも他の妖精から火の妖力をもらう。
ためしに俺はリャマの頭の炎に少し指をつっこんでみた。
「ほんとだ!全然熱くない…すげえ…」
「だろだろ!さ、踊ろーぜ!」
「踊るって何を?」
「まずはみんなで手をつないでこの大きな火を囲むんだ」
「わかった」
小学校の頃の移動教室のキャンプファイヤーを思いだした。胸がわくわくするような、あの感じ。
俺は近くにいたリャマと、女の火の妖精と手をつないだ。みんなもそれぞれ近くにいた妖精たちと手をつないで輪を作った。
「うちはフォティア。よろしくね!」
右隣の女の妖精が言う。赤毛の長い髪の毛を無造作に垂らし、長い睫毛に小麦色の肌。野性的な美しさを感じる妖精だった。
アースは美形が多いけど、女子耐性があまりない俺はまだ一緒にいるルーナたちでさえ顔を近づけられると少し緊張してしまうくらいなのだ。
「よ、よろしくお願いします。俺の名前は陽杜です」
「ハルトくん。火原の都を楽しんでいってね!」
「はい!」
「よおし。じゃ、踊りの順番を教える」
リャマがぱんぱんと手を鳴らした。
「まずは手をつないだまま右に六歩移動。それが終わったら左に六歩移動。やってみて」
言われるがままに動く。人間界でもよくする動きだ。なぜかはよくわからないけど輪になりながらこれをやるとテンションがあがる。
「終わったらそのまま火に近づくんだ」
輪の大きさが縮まる。大きな火のすぐそばまで来ているが、全然熱くない。
「そしたらまた離れる。それを三回繰り返す」
「なるほど?」
なんだかダンスの授業を受けている気分だな…。
「そしたら手拍子を三回。それから散らばって、音楽がいつものメロディに戻ったらまた輪になる。以上だ。覚えたか?」
「うん。覚えた」
「よし」
リャマは近くにいる燃える太鼓や笛、吹奏楽器の形をした植物を持った火の妖精に合図した。
さっきの音楽が流れ始める。
足元からステップを踏み出してリャマの指示通りに動く。
右に六歩。左に六歩。火に集まる、離れる。それを三回して手拍子も三回。手を離して散らばる。
散らばった時、火の妖精がはなったであろう、走る馬やミニ花火のような、火でできている美しい幻影が空にたくさん浮かび上がった。
「すごーい!綺麗!」
「ほんとうですね…!」
単純な動きになのにたまらなく楽しくて、ひどく気分が高揚していた。火にはなにかそういう特別な力があるのかもしれない。笑顔で別のメンバーと手をつないで、再び踊りを再開する。
二週目に入ってから曲が少しアップテンポになっていた。
足はよりリズミカルに。体全体が音楽に魅了されたようだ。
三週目はさらにアップテンポになっていた。四週目、五週目とどんどん速度があがっていく。
「あははっ速いっ!」
「間に合わなーい!」
それでも楽しくて、だからみんな笑顔だった。
そして俺たちは曲が終わるまで必死に踊り切った。結局十週目まで踊った。
「はあっ。はあっ」
「つかれたー!」
「最後速すぎでしょ!」
火の妖精ともども全員地べたに寝っ転がる。しばらく荒い呼吸がおさまらなかった。
夕焼けの空はとても綺麗だった。手をかざすと、かすかに風が吹き抜けてゆく。
みんなの呼吸がやっとおさまると、リャマが立ち上がった。
「いやー!今日は一段と盛り上がったよ!大丈夫か?疲れただろ」
「大丈夫。めっちゃ楽しかったよ」
「こういうのもたまにはいいな」
ルーナは笑いながら額をぬぐった。肌がとても白いルーナはこの夕暮れの都によく映える。
「それはよかった。ところでお前たちこれからどうするんだ?」
「今日は火原の都を見ていくつもりだ」
「なら俺が案内してやるよ。やることもないし」
「アースはどこに行っても案内してくれる気のいいやつがいるんだな…」
俺が呟くとアカネが「そうだね」とうなずいた。
「うちも暇だからついていこっかな」
フォティアもそう言ってくれた。
「そうと決まればさっそくだ。行くぞー!」
リャマの頼もしい声にぞろぞろとみんながついていく。
その中に一人、いないことに俺は気が付いた。
「カナメ?」
後ろを振り向くとカナメはなぜかそこに突っ立っていた。
俺は大きく目を見開く。
カナメの頭の毛先から、火がでていた。




