蔓乗り
「つる乗りって、なんですか?」
「ええっとね…うん。まあつるでいろいろと…」
「乗ればわかるよ。おいらはジャック。二人は初めましてだよね?」
「初めまして!このみです」
「アカネです。よろしく」
「よろしく」
ジャックは白い道からぼこぼこと音をたててつるをだすとにんまりと笑った。相変わらずそのつるの量と精度はすごいようだ。これで勢いの調節もできたらいいんだけど…。
つるがどんどん出てきて蠢き、くるくると絡まって八つのカプセル状を作る。このみとアカネは目をきらきらさせていたが、俺とミオはげんなりしていた。見かねたようにルーナが言った。
「とりあえずしっかり中に頭を引っ込めて耳と目をつぶっておけば大丈夫だ」
「う、うん…」
「ジャック、今日はちょっとお手柔らかに頼む」
「わかってるよー。今日はちょっとゆっくりめにするって!」
ああ、それならまだ安心だ。でも念のためルーナのアドバイスに従っておこう。
「このみちゃん、アカネちゃん、最初からしゃがんでおいた方がいいかも…」
「しゃがむ?」
「これ結構やばいよ」
「そうなんですね」
ミオも二人に説明しているようだ。俺はカプセル状のつるの中に入った。
少したってからジャックの声が聞こえる。
「じゃあ行くぞー」
俺はすぐさまルーナに言われた通りにした。
自分が入っているつるのカプセルが浮くのがわかる。そして次の瞬間、俺の身体はさかさまになっていた。頭が底についていたのだ。
「え?」
そのままとんでもない勢いでカプセルが動いていく。
「ちょ、ちょ、ちょ」
「ゆっくりするっていったじゃーん!」
というミオの悲痛の叫びや「いやああああ!」というこのみの絶叫が聞こえてきた。
つづいてカプセルが急に横になった。もちろん俺の身体は横の平面に叩きつけられる。つるのざらついた部分が頬にあたって痛い。それが連続で続いた。
「ごめん!大樹の森に入ってぶつかりそうだった!」
ジャックの声が聞こえてくる。
「いや!あの!もうちょっと!ゆっくりできない!かな!」
「ごめん!ゆっくりしてたつもりだったんだけど…」
カナメのおかげで少し速度が緩まったが、俺はすでにぐったりしていた。頭がくらくらする。
それから一分後…
「着いたぞ!ここを少し歩けば火原の都だ」
ジャックの明るい声が聞こえてきた。
「うう…死ぬ…」
「着くの早くね?」
「おいらのつる乗りは速いのが取り柄だから…」
「まあ…前よりはゆっくりだったけどさ…」
カナメ、ルーナ、あきと以外は地面に倒れていた。平衡感覚がないので立つことができない。俺とミオは前よりましになっていたが、このみとアカネがダメそうだ。
「あー。またやっちゃった…。ごめん」
「いや、大丈夫だよ。届けてくれてありがと…」
しょんぼりとするジャックにミオが細々とした声で言う。そのとき、ルーナが懐を探りながら言った。
「大丈夫だ。月の水を持ってきてある」
「まじか。神様」
ルーナは水色の小瓶をとりだした。
シュポッと栓を抜き取ると一人ずつに駆け寄って飲ましてくれる。
「アース内でお前たちが怪我とかをしたときのためにいつも持ち歩くことにしたんだ。お前たちに何かあったら、家族が心配するだろう」
そう言って少し笑った。こちらに目を合わせないのが、少し気になった。
「ありがとう。ルーナ」
体調はすっかり良くなっていた。
「ジャックもありがとね。行って大丈夫だよ。小人の森に行くんだろ?」
ジャックは申し訳なさそうにしてずっと近くで立っていたのだ。俺がそう言うと「でも…」とおろおろしていた。
「私たち元気になったし。それにハンナちゃんも待ってるぞ」
ミオが言うとジャックの顔が真っ赤になった。そしてこくんとうなずくと「じゃあ、また今度」と言って自分のつるで帰っていった。
俺たちは火原の都につづく道を歩き始めた。
ここは少し夕方っぽい。沈む前の夕日のような光が木の間からさしこんでいる。
「それにしてもジャックの妖力はすごいよな。調節はまあ、あれだけどさ」
「ジャックは蔓の妖精の中で一番有望と言われているからな。膨大な妖力を持っている。地面から出るつるの一本一本を把握して調節しないといけないんだがまだ自分でもそれができていないんだろう。だから力を出しすぎてしまう。あのつる乗りでも十分抑えている方なんだ」
「え、本気を出せばもっとやばいのか…」
でも妖力ってなんかかっこいいよな、と思っているとカナメが言った。
「俺はつる乗り普通に平気だけどな?結構面白くない?なああきと、ルーナ」
「平気ではないけど…。まあ、わりかしいけるかな」
「私は結構慣れているからな」
「カナメくんは絶叫系得意どころのレベルじゃないよ?もうなんでも乗れちゃうよ…」
「いや、でもアーロンのはさすがに俺も無理だったわ」
「あー…。あれはすごかったですよね」
「というかここ最近毎日アースで絶叫系乗っている気がする」
「確かに」
アカネの言葉に俺がうなずいていると、ミオが手をぱたぱたさせた。
「ねえ…なんかあつくない?」
「あつい?そうかな」
カナメが首を傾げる。
「火の花だ。ほら、これ」
ルーナが近くに咲いている花を示した。
その花は赤かった。確かに、よく見ると少し燃えている。
「わ、なにこれ。すごい」
「都がもうすぐなんだ」
歩き続けるにつれ、火の花の数はどんどん増えていった。花だけじゃなくて燃える葉っぱや実もある。
その光景はとても綺麗だった。
「不思議…」
「あ、あそこで道が終わってる」
「ねえ、何か聞こえてこない?」
耳を澄ませると、本当だ。賑やかな声や音楽のようなものが聞こえてくる。心が弾むような、自然と踊りだしてしまいそうな調子のいいメロディだ。
「なんか楽しそう!」
「いってみるか!」
みんなで道の終わりに向って駆けだした。




