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アース  作者: 音竹咲夜花
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風の宮殿2

ラファルは翼をほとんど動かさず水平に飛んでいた。周りの景色が緩やかに後ろへと流れて行く。


「気持ちぃー」


ミオはまるで炎天下からクーラーのよく利いた部屋に帰ってきたかのような声を出した。スピードもそんなに速くないし、なにより風がとても涼しい。

隣ではアルスとブランさんがラファルと同じ速度で着いてきている。上にはウェンディが飛んでいた。

落ちないようにしっかりと捕まりながらその清々しい空気を味わっていると、カナメの声が聞こえた。


「そういえば、みんなよく毎日ここに来てるよな。宿題とか大丈夫なのか?」


「ぜんっぜん大丈夫じゃない。でもここに来れるのに来ないなんて人生損してるもん。私は高校受験ないし。どうしても来れないときは仕方ないけどねえ。」


ミオが言った。確かにこの夏休みが終わってしまえばこんな体験もしばらくできなくなってしまうかもしれないんだな、と考える。


「俺はまあ…ぼちぼちかな」


「私も」


あきととアカネが言う。まあこの二人はしっかり終わらせていそうだな。あきとも英聖を受験するっぽいけど、なんせ全国一位の頭脳を持っているんだ。余裕だろう。


「私は受験はあるんですけど、普通の高校じゃなくて専門学校を受験するんです。だから皆さんとは少し勉強法が違くて…」


「へえ!そうなの。どこの専門学校?」


「び、美術系の専門学校です」


「いいねえ~。陽杜は?宿題どんなかんじ?」


「もう…全然終わってない…」


「俺もだよ。ああーそろそろやんないとなあー」


「その、さっきから言っている宿題ってなんだ?」


「ええっとねえ。ルーナ、勉強は知っているんだよね?」


「ああ」


「宿題はその日にやった勉強をしっかりと理解できているか確かめるもの…それか次やる勉強をあらかじめ理解しておくもの?とか?まあそんな感じかな」


「なるほど」


「ルーナに人間界の言葉を教えるのは語彙力を高める勉強になりそうだな」


「あははっ!確かにね」


急にラファルの飛ぶスピードが遅くなった。何事かと思っているとまたゆっくりと旋回しながら降りていっている。そういえば周りの空気の流れも下にむかっていた。


「あそこになんかある」


アカネが示した方を見てみると、なるほど。草原の中に白と緑色でできている不思議な紋様が描かれた大きな扉がぽつんと立っていた。

ラファルが完全に着地すると、周りにふわりと風が立った。そのまま順々にみんな降りていく。


「っと。安全運転だったー!」


ブランさん、アルス、ウェンデイも草原に着地した。


「この扉の先にゼファー様がいらっしゃる」


ラファルは扉の前にドスンと居座った。


「私はここで待っている。行ってきなさい」


アカネは上が見えないほど大きい扉を見上げて呟いた。


「この先にいらっしゃるの?上から見たときは一枚扉だったけれど」


「時空がおかしからな。まあ今さらだろう」


「これ、開けられるの?めっちゃ大きいけど」


「ちょっと手で押せばすぐ開くぞ」


ルーナが言った。


「誰が開ける?」


「わ、私開けてみたいです!」


このみが少しためらいがちに手を挙げた。俺は驚いた。自分から進んで何かをやるタイプじゃなさそうだと思っていたからだ。


「ダメ…ですかね?」

「いいよいいよ!開けて!」


ウェンディがこのみの背中をポンポンと押した。このみはうなずいて手を扉の表面にくっつけた。そのまま押すと大きな扉はあっけなく開いた。


「っっわ!!!」


扉の向こうから突風が吹いてきた。

目にゴミが入らないようにギュッと瞑る。

風が収まって、おそるおそる瞼を開くと、目の前にはブランさんとあまり年格好の変わらないほどの男の妖精がいた。


「いらっしゃい。よく来たね」


ゼファー様だ。

とりあえずブランさん以外の一同は揃ってお辞儀した。


「そんなにかしこまらずに。顔をあげなさい」


優しい物言いにゆっくりと顔をあげた。

ゼファー様の周りには緑色の波がたくさんたっていた。壁は葉っぱで埋め尽くされており、部屋の四角には白い風車が回っている。


「ようこそ、風の里に。君たちが来てくれて嬉しいよ。ウェンディも案内をありがとう」


「とんでもございません」


そう言いながら笑顔でこちらに歩み寄る。

今まであった長様の中で一番常識人っぽい。ブランさんも確かにとてもいい妖精なんだけど長様となるとゼファー様が適任というのはよくわかる。温厚そうだけど爽やかでイケメンだ。


「風の里はいいところだろう。これから風乗りをしに行くのかな?」


「はい。そうするつもりです」


「今日もここは良い風が吹いている。ブラン、みなさんの安全にくれぐれも気を付けてな」


「はいはい、わかってるよ」


「お、長様にタメ口…」


ウェンディが呟くとブランさんが肩をすくめた。


「俺とこいつは腐れ縁の仲なの。だからいいの。許されるの」


「許した覚えはないけどな」


柔らかな物腰のゼファー様がブランさんをちょっと睨んだ。


「仲良いんですね!」


ミオが笑いながら言うと「「良くない!」」という二人の声が揃った。少女漫画か。


「風乗りをするなら、宮殿の崖からにしなさい。私が一番風を吹かせよう」


「ありがとうございます!」


「じゃあ早速ここを出て宮殿の崖に向かうか」


「僕はまだ所用があるからここに残る。ちゃんと一番風は吹かせるから安心しなさい」


ゼファー様に別れを告げてさっきの扉を開けると、やはり広い草原と白い風車、同じ景色が広がっていた。ラファルがこちらに気づいて立ち上がる。


「宮殿の崖に行くのか?」


「うん。また連れていってもらえないかな?」


「言われなくてもそのつもりだ。乗りなさい」


ラファルはまた安全運転飛行で俺たちを連れていってくれた。


今度は小さな白い扉が見えた。


「私達、あそこから来たの?」


「そうだ。このまま宮殿を出る」


ラファルが勢いをあげる。


「え?」


「このままつっこむの!?」


「え、扉の大きさ的に無理じゃね?」


「それな、ってきゃああああああ!」


ラファルは俺たちをのせたまま見事に扉にダイブした。そのまま宮殿をでて中庭を通り抜ける。


「本当に物理法則無視だな…」


あきとの呆れ声が聞こえてきた。



「どうもありがとう。助かりました!」


「ありがとー!」


「ありがとう」


崖の前まで来た。俺たちはラファルによくお礼を言い、宮殿に帰るのを見送った。

崖からは風の里の景色がよく見えた。豊かな自然を存分に感じられるような場所だ。


「じゃ、やるか?」


「やる!」


「わかった。今回は一人ずつでも平気かあ?」


「平気!」


「わかった。ありがたいことにゼファーが一番風を吹かせてくれるそうだからな。とりあえず一人ずつ並んで崖の前に立ってくれ。ウェンディ、お前はみんなのサポートよろしくなー」


「おっけー!」


また空を飛べるんだな、と思うと胸がどきどきしてきた。少し怖いけれど、でも楽しみだ。

俺は両手をぎゅっと握りしめた。

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