風の里
ヒュオオオオオ…
どこからか風が吹いてきた。
服がずぶ濡れせいか肌寒く感じる。思わず手首を擦った。
風の里は中央に大きな崖と宮殿、その周りを風の妖精たちの住む家、さらにその周りが森で囲まれているらしい。
俺たちは今森を歩いているところだ。
「ハーイ、ルーナ」
突然、木の上から妖精が降りてきた。トンボのような透明の羽に先がギザギザになっているワンピースを着ている。そして鳥の羽のようなものを頭に着けていた。
「風の妖精?」
「ウェンディ」
「雨の通りで遊んできたのね。すごいずぶ濡れになってる。あなたたちも」
ウェンディはこちらを見ながらおかしそうに笑った。
「これからどこに行くの?」
「風の宮殿に。あと風乗りをしにきた」
「そうなのね。でもその前にそれを乾かしちゃいましょう」
「ウェンディ、温風の妖力が使えるようになったのか?」
アルスが聞くとウェンディが嬉しそうにうなずいた。
「そうなのよー!すごいでしょ!さ、あなたたちもそこになおって」
言われるがままにそこに棒立ちになっていると、ウェンディがふわりと羽ばたいた。
「温風、エア・カレンテ!」
人差し指をこちらに向けたかと思うとぶわりと暖かい風が一気にきた。
その風は俺たち一人一人の周りを渦のようにまわっている。それに合わせて葉っぱがくるくると舞っていた。
一分間ほどそれを続けると、暖かい風はすっと消えていった。
「あ!乾いてる」
ミオが自分の半袖のブラウスを見て驚きながら言った。
「良かった!成功したのね」
「どうもありがとう」
「いえいえ!じゃあ早速風の宮殿に行くのかしら?私も着いていきましょうか?」
「いいのか?」
「どうせ暇だったし、いいのよ。さ、行きましょう」
ウェンディはそういうとトンボのような羽をはばたかせて空に上がった。
「本当は風乗りで一気に宮殿まで連れていってあげたいんだけど私、まだ風乗り使いをできるほど妖力が強くないのよね。私たちの住みかに行ったら多分、風乗り使いが一人はいると思うから。探しましょう」
「風乗り使い?」
「この前、ブランが風乗りをさせてくれただろう。妖精や動物が風乗りをできるほどの風を吹かせることができる妖精を風乗り使いというんだ。」
「つまり、風乗り使いがブランさんのような風乗り屋になれるんだな?」
「そうだ」
ミオが興味深げに聞いた。
「ウェンディちゃんは他にどんな風の妖力を使えるの?」
「そうねえ」
ウェンディは顎に人差し指をあてて考えるとぱちんと反対側の手で指を鳴らした。
「あなたたち、速く走ってみたいと思わない?」
「速く走る?」
「そうよ。速く走るの。今から妖力を使うから、それに合わせて走ってね」
「??…わかった」
「私は後でアルスに乗って行くから、お前たちは先に行っていろ」
「わたしもちょっと疲れたから先行ってて」
「俺もだ」
ルーナ、アカネ、あきとが言った。まあさっき散々雨の通りで体を動かしたからな。
「じゃあいくよ!追い風、グランデ・リーウィアン!」
俺たちが走り出したほんの一瞬後、後ろから強い追い風がやってきた。
「わ、わ、わ!」
風がぐいぐいと身体を押してくるおかげで前につんのめって走るスピードが速くなる。
うわ、俺今多分めちゃくちゃ速い。小人たちと同じくらい速くなっているかも。
風が自分の顔を叩くように刺激してくる。足の動きは早く、地面を軽やかに蹴っていく。
周りの緑の木々が流れていくようだ。自分が一番楽に走れる息の仕方を探りながら風に押されて足を動かした。
「はっや!はっや!楽しい~」
「速く走れる人ってこんな気分だったんですねえ!」
ミオとこのみがはしゃぎながら走っている。
カナメはといえばもともと速いのに追い風によって世界大会ぶっちぎりで一位であろう速さで森を駆けていった。俺はまだかろうじて背中が見えているが、もうすぐ見えなくなりそうだ。
「っはあ、はあ、はあ」
「速く走れるからって調子乗りすぎた…」
結局俺たち四人は追い風で走ってそのまま風の妖精たちの住処に来てしまっていた。
全身が汗びっしょりで息もあがっている。あーあ。せっかくさっき乾かしてもらったのにな。
でも悪い気分はしない。俺は青々しい匂いのする草の上にごろりと寝転んで空を見あげた。
「大丈夫ー?」
「大丈夫大丈夫」
ウェンディがそこでアースの実のジュースを振舞ってくれた。実にそのまま葉っぱでできたストローがさしてある。飲むとだいぶ元気になった。
「よく走ったね」
ルーナたちも後から追いついてきた。二人と一人で交代してアルスに乗ってきたらしい。
「これからあの風の宮殿に行きたいから、だれか崖の上まで運んでくれる人を探さないと」
「そうだな」
大きな葉っぱで覆われてところどころ小さい窓と風車が付いている風の妖精の家がずらりと並んでいる。
空中で風の妖精たちが自由に飛び回り、様々な種類の鳥たちと戯れていた。
「あ、あれブランさんじゃないか?」
カナメが示した方向を見ると確かに、見覚えのある人物が屋根に座っているのが見えた。
「ブラン!」
「ブランさーん!」
大きな声で呼びかけるとこちらに気づいたようで手を振った。そのままひらりと体をかたむけて華麗に屋根から地面に降りていく。
「そういえば」
あきとが呟いた。
「ブランさんは羽がないんだな。他の風の妖精はみんなあるのに」
「あー。確かに」
周りを見るとウェンディも含め風の妖精にはみんな羽が生えている。でもブランさんは本当に髪色以外普通の男の人というかんじだ。
「でも、ブランおじさんは風の妖精の中で一番妖力が強いんだよ?」
ウェンディが言った。
「え?そうなの?」
「奇跡の才能というものだ。基礎的というか基本的な部分が欠落している分、非凡な才能を持つ者のことを指す。ブランはまさにそれだな。妖力は長のゼファー様より強いが、羽を持っていないから長にはならなかった。まあ、それでも風に乗れるから飛ぶことはできるんだがな」
アルスがそう言いながら気づかわしげに横目でルーナを見つめた。ルーナは少し戸惑ったような表情をしている。
一体どうしたんだろう?と思ったところでブランさんが来た。
「よお。お前たちか。楽しんでいるようだな。風の噂でよく聞くよ」
「この前はどうもお世話になりました」
「いいってことよ。で?今日はどうした?」
「風の宮殿に行きたいんだ。あと風乗りも」
「あーそうか。わかった。俺がやるよ」
「ブラン?飲みに行かないのかー?」
「すまないな。今日は予定が入っちまったよ」
仲間らしき妖精のおじさんたちがブランさんに声をかけるも片手をあげて断る。
「いいんですか?先約があったんじゃ」
「ブランおじさん、おじさんが無理なら他の妖精を探すから大丈夫よ?」
「いいんだよ。じゃあとりあえず崖の下に行くか」
陽気なメロディの口笛を吹きながらブランさんが歩いてく。
「めちゃくちゃいい人…妖精だ…」
俺が呟くと周りのみんなが一斉にうなずいた。




